見えない未来に先手を打つ
「ふむ……」
失礼な質問をしてる事は充分に分かってる。
けど私はどうしても知りたい。
美園さんは目を閉じて、考えてるように見える。
「1つだけ確認なのですが、それは有村さんが本気で思っているから、ですよね」
私の言葉に嘘偽りが無いか。
それを慎重に探ってるんだろう。
私は美園さんを真っ直ぐに見る。
翔太さんが良くやってる事だとふと思い出す。
翔太さんも犯罪を無くしたいって思ってる。
もしかしたら。
犯人に自分が本気でそう思ってる事を無意識の内に伝えようって思ってるのかもしれない。
「犯罪を躊躇う事があったとすれば、殺意が完全に意思を持つ前、だったと思います」
それじゃ意味が無いのに。
殺人を防げないじゃないか。
「私は、殺意を持った時点で。犯罪を最後まで遂行するつもりしかありませんでした。ですから有村さんの期待に添える答えは出せないと思います」
犯罪を無くす。
言う事は簡単なのに。
これ程に難しい事が他にあるだろうか。
「視点を変えてみた方が良いと思いますよ」
親切に美園さんは私を誘導してくれる。
こんなに出来た人も、犯罪に手を染めてしまうんだ。
「衝動的な犯罪は兎も角、計画をして実行する犯罪者は、殺人が悪い事を理解した上で実行していると思います。だから有村さんがどうこうの問題ではありません」
自分が悪いって言う覚悟……って表現が正しいかどうかは分からないけど、こうして今だから話が出来るだけなのだ。
美園さんは暗にそう仄めかしてると感じる。
「許されて良い犯罪はこの世にはありません。それは僕もその通りだと思います。ですが恐らく、これから皆さんが立ち向かうであろう犯罪は、そう言った次元の話では無いと思います」
……。
美園さんの言う通りだ。
善だろうが悪だろうが、関係無い。
黒の御使いは捕まえるんだ。
目的から外れちゃダメだ。
「捕まえれば皆さんが正義。捕まえられなければ悪。それで良いと思います」
……。
簡単になんて割り切れない。
「他の方ともお話をされてみて下さい」
もう1つだけ聞きたかった。
もし。
事件が未解決の状態で終わった時。
美園さんはどうしたのだろうか。
「……どうしたんでしょうかね。僕は」
美園さんは窓の外を見つめ、目を細める。
「未來と上司の墓参りをして、それから……」
頭を振り、苦笑する姿を見て分かってしまう。
殺人が終われば、もう未来は無いんだ。
「……多分、信じられないような行動をしてしまったかもしれませんね。未来が真っ暗。明日が見えない。それは言えます。墓参りを終えた後は、そのまま働いていたかもしれません。自ら命を絶ったかもしれません。それは分からないですね。お恥ずかしながら」
明日が真っ暗。
その感覚に覚えが確かにある。
だからこそ桜庭さんは私に森田さんをつけた。
或いは翔太さんが桜庭さんに頼み込んだのかもしれない。
それは分からないけど。
「それでも、こんな僕に毎月手紙を書いて下さる方がいる事は有難いです。少なからず今こうして話が出来るのは、その人のお陰なのは間違いありません」
支えてくれる人がいる事の尊さ、幸運さ。
誰かは分からないけど、ホッとする。
「それでは、もう大丈夫でしょうか?」
頷き、お礼を言う。
「有村さんの細かい気配り、ありがとう」
?
自分の言動を振り返る。
どっちかと言われたら失礼な事しか言ってない気がする。
「犯罪者を1人の人間として接して下さって。本当にありがとう」
何だか照れくさいのは、自分では当たり前の事をしてるって思ってるからだろう。
殺害予告者による異様な現場での殺人事件に加え、またしても警官が10名殺害される現状を、車の中で聞かされて焦らない訳が無い。
事件発覚の電話によって向かった現場で2人組の警官が5組、またしてもほぼ同時刻に殺害された。
急いでPCPの捜査本部に戻り、森田さんから詳しい状況を聞く。
「私は吉野様が追っています犯人を追跡しています。警官殺害の方はどうしても手が回らず……」
非常にまずい状況だ。
もしも本当に事件が起こっているのにも関わらず警官が出動しなかったら。
そんな事は許されない。
それを利用して殺害を行う。
メディアを通じて情報の拡散を行えば、果たしてどうなるかの予測もつかない。
それを見越して犯罪を行う者が現れるリスク。
今言える事は。
警官が敵の罠に掛かり続ける事は避けられないと言う事。
こめかみを貫いて何れも殺害されたと言う事は。
防刃ベストの着用義務まで読まれたからだろう。
警察内に情報をリークしている者がいるかもしれないが、皇桜花には以前の事件で警察の動き方を把握されている。
リーク者がもし特定されれば黒の御使いがばれる恐れもあるだろう。
第一、その警官が現場に鉢合わせれば殺害されるのだ。
そう言った人物はいないと考えるのが妥当だろう。
先手を打たなければ。
確実に警官の犠牲者が増えるのみ。
……そうだ。
ここには最大の武器がある。
何を悠長に構えていたのかと自責し、切り替える。
通報後に現場周辺の映像を確認を私が行えば。
それで真偽が特定できる。
私がここを離れられなくなるが、鮎川君が戻って来るまでは何とか耐えて見せる。
もう1つ足りない。
こちらからも仕掛けられはしないか。
出向いて逆に捕まえる事が出来たなら。
可能ならこれがベストな選択だろう。
頭をフル回転させる。
もう悠長な事を言ってはいられない。
奴らの目的を阻止するための強烈な。
優子君は桜庭君と行動を共にしてしまっている。
皇桜花を直接捕まえに行った事に間違いは無い為、桜庭君が孤立する事は避けたい。
華音君は鮎川君が戻って来るのを見計らって迎えに行く。
翔太君は予告殺人犯を追っている。
PCP内で動ける人物はいない。
何か無いだろうか。
優子君並の武力を持っており、私自身が信頼出来、且つ今すぐに動ける人物。
……ハッとする。
今ならまだ間に合うかもしれない。
私は直ぐに電話を掛ける。
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