アフターエピソード
第70話 アフターエピソード1・プロポーズの言葉
俺の腕の中で眠る彼女。
ふと、目が覚めた時彼女の顔を見つめる。
カーテンの隙間から朝日が差し込み、彼女の顔を照らしている。
俺の大切な人は、俺の腕の中で幸せそうな顔で眠っている。
ただ、それだけで俺は安心することができる。
彼女の目がゆっくりと開く。
「……んっ、おはよ。何見てるの?」
「寝顔」
「そんなに見つめても何も出てこないよ?」
微笑む彼女の唇をそっと塞ぐ。
「なぁ、今幸せか?」
「私? 十分幸せだよ。一緒に起きて、一緒にご飯食べて、一緒に寝る。それだけで十分幸せ。純平は?」
「俺か? 俺も十分幸せだな。なぁ、一つだけ聞いてもいいか?」
「何?」
「何で地元を離れてまで、追いかけてきたんだ? 就職の条件って、地元から離れないって事じゃなかったけ?」
「初めはね。私さ、一度入院した事あったでしょ?」
あれはまだ雅が学生の頃、事故にあって入院していた時があったな。
あの時の傷も後遺症もなく、雅はすっかり元気になった。
「随分昔の話だな」
「車にぶつかった瞬間、時間がゆっくり流れたの。あの話、本当だったんだね」
「走馬灯でも見たのか?」
「ちょっと違うかな……。そのときね、家族でも武本先輩でもなく、純平が出てきたんだ」
「俺?」
「そう。私の人生がここで終わるかもって思ったとき、私は純平に一番会いたかったんだと思う」
「そんな事があったんだ……」
「純平と会わなくなって、実家にいて、仕事して。気が付いたらいつも純平の事を考えてた。元気かな、ご飯食べているかなって」
雅はそんな事を考えていたのか……。
仕事に追われていた俺とは違うんだな。
「私、どうしても純平の側にいたかった。純平がつらい時、悲しい時、いつでも純平の側にいて、力になってあげたかった。たとえ、純平が私を信じなくても、私の事を裏切っても、私は純平の側にいたい。だから追いかけてきたの」
「雅……」
「だから、私は今幸せだよ。純平が誰かと結婚して、家族を持ったとしても、私はずっと純平を見守っている」
そんな決意までしてきたのか。
俺は、その雅の決意の上にただ、胡坐をかいて座っているだけでいいのか……。
「雅」
「なに?」
「俺はきっと雅を幸せにできない。苦労もかけるし、悲しませることもある。それでも俺の側にいてくれるのか?」
「もちろん。純平の苦しみも、悲しみも半分私が貰ってあげる。その代り、私の幸せを半分純平にあげるよ」
笑顔で答える雅に迷いは無いようだ。
雅、俺はお前とだったら一緒にいる事ができるのか?
例えこの先、どんなに困難な事が待ち受けていたとしても、一緒に乗り越えられるのか?
「……結婚しようか。俺と家族になってくれるか?」
「喜んで……」
――
……随分昔の夢を見たな。
俺の、あの時の選択は正しかったのか?
だけど、俺はきっと幸せなんだと思う。
愛する家族と、帰る家があるのだから。
「パパ! 起きてよ! 今日は遊園地に行くんでしょ!」
娘の声で布団から起きる。
味噌汁のいい匂いもしてきた。
よし、起きますか。
「起きてるよ。今日は晴れかな?」
「快晴だよ! 絶好の遊園地日和!」
俺の選択した答えは俺にしかわからない。
ただ一つ言える事は、今の俺は幸せなんだなって事だな。
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