第68話 再会
秋から冬、俺は本社で仕事。
慣れない環境で馴れない仕事ばっかりだ。
それでも時間は流れ、忙しい毎日を過ごす。
取引先のアポ取りから始まり、資料の作成やデーター分析。
それになぜか人事や経理系の仕事も色々とすることになった。
幅広く仕事を行い、適性を見る。
多分そんなところだろう。
毎日が忙しく、家と会社を往復する生活の繰り返し。
ま、社会人一年目とかはこんなもんだろうな。
そんな日の夜、家でゴロゴロしていると携帯にメールが届く。
誰だろう?
『卒業式終わったよ! 就職もできた!』
雅からのメッセージ。
久々に連絡が来たと思ったらそんな時期か。
『おめでとう。良かったな』
簡単に終わる。
俺と雅の関係はこんな感じだ。
――
春は人事異動の時期だ。
半年前に本社に来たのに、なぜか辞令をまたもらう。
「この半年、片岡君の仕事ぶりは見せて貰った。新しい部門でその力を発揮してほしい」
「分かりました。今度はどこの部門ですか?」
「人事部門だ。採用した新卒の社員や中途採用社員を本社で一年間教育をする」
「教育ですか?」
「片岡君は人を見る目がある。その人の適性を見抜き、人を成長させる事に長けているようだ」
まぁ、色々ありましたから。
人を見て、その人にあった対応をしていれば自然とそうなりますよね。
「……わかりました。頑張ります!」
そして、俺は新しい部門で仕事をすることになり、人とのかかわりを持っていく。
その人に合わせ話をし、その人の力を伸ばしていった。
忙しい毎日、繰り返す日々、そして暗い部屋に帰りまた朝を迎える。
大学時代の皆はどんな生活を送っているのだろうか。
雅も先輩も就職し、きっと頑張っているはず。
俺も頑張らないと……。
そして、向かえた二年目の春。
珍しく北川から一本の連絡が入る。
『先輩! ちゃんと就職しましたよ! 引っ越しも終わって明日から出社です!』
「そっか、良かったな」
優希の事を聞くか悩んだが、俺から聞く事もないだろう。
『優希ちゃん、ちゃんと就職しましたよ』
「そっか。少し安心したよ」
『彼と離れるように一番遠い所を選びました。電話番号も変えたし、もう会う事もないと思いますよ』
そうか、やっとあいつから離れることができたんだな。
そして、新しくなった番号は俺も知らない。
二度と連絡を取る事もないが、これで良かったのかもしれないな。
「ありがとう。新社会人、頑張れよ」
『はいっ! 先輩も頑張ってくださいね!』
北川も優希も就職できた様だ。
これで俺の知っているみんなは社会に飛びだったな。
――
そしてこの春、俺は肩書主任になり、一つ昇格した。
ふふ、役職に着いちゃった。
なに、スピード出世ってやつ?
「片岡君も主任になった事だし、この春から部下を数名つける。より一層仕事を頑張ってほしい」
人事部長直々にお言葉を貰った。
ふふ、俺もやればできる男。
このまま課長になって、部長になる。
やっぱり男は仕事が一番だよね!
今日は初めての部下と会う日。
ちょっと緊張するね。
「片岡君。今日から出社する社員だが、よろしく頼むね」
「はい、任せてください!」
期待されている。
この俺が、期待されてる!
「支社から数名と、この春に採用した新人を何名かつける。支社からはもともと講師を担当していたり、店舗経験がある社員だ。彼女たちの力を伸ばしてやってくれ」
彼女? 男じゃないのか。
ま、部下になってくれるんだったら誰でもいいですけどね。
俺の手足になってバリバリ仕事してもらいましょう!
「分かりました!」
「そうそう、片岡君と同じ大学の子もいるから、地元の話でもして和ませてやってくれ」
え? 俺と同じ大学?
まぁ、それなりの企業だし、全国から採用しているし、そんな事もあるか。
地元の話とか盛り上がるんだよねー!
さて、部下と初顔合わせだ。
俺は主任。しっかりとみんなを引っ張っていかなければ!
オフィスの扉を開け、自分の席に座る。
初めましてみなさん。私が片岡主任だ!
……なんで?
なんでここにいるんだ?
髪が伸び、少し大人っぽくなった彼女が目の前に立っている。
俺は無意識に一言漏らしてしまった。
「また、会えて嬉しいよ。でも、どうしてここに?」
ほんの少しだけ瞼に涙が浮かんだかもしれない。
もう二度と会う事が無いと思った人に会えたんだ。
彼女は微笑みながら俺に答える。
「一緒に居たいから、追いかけてきました。私の心にはあなたしかいない……」
俺は彼女を抱きしめた。
強く、強く抱きしめ、そしてまた涙を流してしまった。
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