第63話 事故


 今日は日曜日。

仕事もそれなりに忙しく、お店はパタパタしている。


 俺は支社と店を行ったり来たり。

なんで俺だけこんな扱いなんだ?


 講義室で次の授業の準備を行う。

これが終わったらやっと昼休み。


 今日は何にしようかなっ!

たまにはラーメン餃子でもいいよねー。


――コンコン


「はい」


「片岡君、ちょっと」


 店長に呼び出される。

何だろう? 俺何かやらかした?

もしかして首?


 事務所に通され、いつになく真面目な顔つきの店長。

あ、絶対にいい話じゃない。


「あの、俺何か……」


「片岡君じゃない、西川さんの件でね……」


 雅? 雅がどうしたんだ?


「西川さんが何か?」


「さっき西川さんのお母さんから連絡があった。西川さん、ここに向かう途中で事故にあったようで、いま病院に救急車で運ばれたそうだ」


「事故……」


 雅が事故にあった? 軽い事故ではなく、救急車が出る位。

鼓動が高鳴る。行きたい、今直ぐに。

でも、仕事を途中で投げ出すわけにはいかない……。


「いま実家の方が病院に向かっている。あと、今日はもう帰っていいよ」


「え? まだ仕事が……」


「何言ってるの? 私は店長だよ? 片岡君の穴位埋められるよ。さぁ、早く行って」


 俺は店長に頭を下げ、急いで店を出た。

車のキーを差し込みエンジンをかける。

慌てない、ここで俺が事故をしたら意味がない。


 俺は雅の搬送された病院名が書かれたメモを手に握り、車を飛ばす。

雅は無事なのか……。


 病院に着き、受付の人に雅の事を聞く。

病室の入り口、ネームプレートに雅の名前があった。

高なる鼓動を押さえ、俺はゆっくりと病室に入る。

えっと、あのカーテンかな?


「雅?」


「純平? 来てくれたんだ。入ってもいいよ」


 思ったより元気そうな声。

体は大丈夫なのか?


 カーテンを開け、中に入ると点滴にギブス、包帯姿の雅が目に入る。

え? 結構大怪我じゃないですか?


「えっと、轢かれちゃった」


 舌を出しながら微笑む彼女。


「大丈夫なのか?」


「命に別状はないよ。バイトに向かう途中、信号無視の車にね……。ごめんね、しばらくバイトできなくなっちゃった」


 どうやら交差点を渡ろうとした雅を、信号無視で侵入してきた車に跳ねられたらしい。

幸い進入スピードが遅かったおかげで、腕の骨折と打撲、各種擦り傷ですんだ。


「そんな事無いよ、しばらく入院か?」


「うん。お母さんがさっきまでいてくれたけど、もう帰っちゃった」


「そっか。学校も休まないとな」


「そんなに授業が多いわけではないから助かったかな……」


 元気がない雅。

当たり前か。轢かれたんだもんな。


「先輩は?」


「武本さん?」


 雅が先輩を呼ぶときはいつも『武ちゃん』だった。


「いや、なんでもない……」


「別れたよ。ちょっと前にね。結構将来の事も考えていたんだけどね」


 窓の外を見ながら雅は何を考えているんだろうか。


「そっか……。できるだけ来るよ。暇だろ?」


「すごく暇」


「何か欲しいものあるか?」


「うーん、任せるよ。着替えとかはお母さんが持ってきてくれたから、それ以外かな」


「おっけー。でも、思ったより元気そうで良かった」


「ごめんね心配かけちゃって」


「気にするな。じゃ、また来るよ」


 雅の病室を後にし、家に帰る。

明日の出勤前に寄って行くか。


 部屋を漁り、暇つぶし出来そうなものを探す。

本がいいかな? 小説だったら暇つぶしになるだろう。


 俺は本棚の隅っこでほこりをかぶっている本を数冊手に持つ。

『クラスで一番の美少女が俺と一緒に住むことになりました』でいいか。

これはラブコメっぽいけど、結構面白かった。

特に後半の結婚式の場面が泣けるんだよね……。


 結婚……。

雅は先輩と結婚とか考えていたのかな?

今となっては分からない。


 それから俺は適当に物を漁り、紙袋に入れる。

ま、こんなもんでいっか。


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