第62話 自分の夢
「優希ちゃん、大丈夫? ねぇ、大丈夫なの?」
北川が階段を上がり、優希の寝ていると思われるロフトに上がっていった。
「優希ちゃん……」
北川は優希の手を取り、一緒に下へ降りてきた。
優希はパジャマのまま、髪もボサボサでまるで引きこもりのようだ。
ん? 実際に引きこもりしていたんだからその通りか。
「よっ、久々。生きてる?」
昔の俺はもういない。
こいつと対面しても何も感じない。
もう、先輩でも後輩でもない。赤の他人だ。
「何しに、来たんですか?」
おっと、冷たいお言葉。
「北川に言われて来た。いい友達を持って良かったな」
「優希ちゃん、ご飯食べてる? ちゃんと寝てる?」
心配そうな目で優希を見る北川。
北川ってすごくいい子なんだよねー。
「それなりに食べてるし、寝てるから大丈夫」
にしては、目の下に熊さんが二匹いますね。
「さて、俺は用件を済ませたらすぐに帰る。明日も仕事なんだ」
まったく、この忙しい時期に。
「用件ってなんですか? お説教ですか? それとも、謝罪してほしいんですか?」
あー、ダメだこいつ。
どうしてこうなったのかは予想できるけど、これからこいつ大丈夫かな?
「用件は三つ。一つ、学校に行け。二つ、食べてしっかり寝ろ。三つ、今の彼氏と何としても物理的に距離を取れ。今のままだと多分死ぬぞ?」
用件は終わった。さて、帰るか。
「学校は行きますよ。卒業しないといけないので。それに食べて、寝てます。ご心配なく。彼とは……」
ま、言葉がつまりますよね。
相変わらず色々なところに傷がありますね。
早く治るといいね。
「一つ忠告しておく。今のままだったら、あいつから逃げられないぞ? お前、このままでいいのか? 夢とか、将来なりたいものとか無いのか? お前の希望、全部つぶされるぞ? それとも、その全てを犠牲にしても彼といたいのか?」
「将来……。私にもなりたいもの位ありますよ」
「だったら自分で何とかしろ。俺や北川ではどうする事も出来ない。自分の力で乗り切れ」
「出来るなら、そうしてますよ。とっくにそうしてますよ! できないから、こうして……」
弱いな。弱すぎる。
でも、きっとしょうがないんだよな。
「自分の人生だろ? 自分で決めろ。一年だけど俺はお前の先輩だ、助言してやる。相手が追ってこれないところまで逃げろ。そして、連絡を取るな。それがお前にできる選択だ」
「私の選択?」
「流されるな。自分で決めろ、今のままでいいのか?」
「……良くない。痛いのはもう嫌だよ。それに私にだって夢があるんだよ……」
優希の瞼に涙が溢れてくる。
昔の俺だったらそっと抱きしめただろう。
でも、今はその役目を北川がしてくれる。
「言いたいことは言った。あとは任せてもいいな?」
無言で頷く北川。
優希、いい友達持って良かったな。
俺は二人を残し、部屋を後にする。
きっと、これが優希と交わす最後の言葉になるだろう。
優希、お前の人生はお前が決めろ。
そして、お前の持っている夢を実現ささろ。
俺の人生は俺が決める。
俺の夢は俺が自分の手でつかみ取る!
……俺の夢ってなんだ?
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