第61話 後輩のお願い


 春。

俺は一社員になり、忙しい毎日を過ごしている。


 先輩はこの春からバイトを辞めてしまった。

親にバイトを禁止されたようで、学校に毎日行っているらしい。


 雅は就職活動を中心に平日はずっと学校と就活。

土日はバイトに来てくれるが、昔のように距離が近いと言う訳でもない。

すれ違う事も多く、帰る先も変わったので一緒に帰る事もなくなった。


 成瀬さんとは相変わらず忙しい毎日を過ごし、この春から就職した新人さん達にお仕事を教えている。

俺は支社の社員として勤務し、成瀬さんや講師陣の直属の上長となった。


「片岡さん、今年もよろしくお願いしますね」


「おうよ! いままでと変わらず、バリバリいきますよー!」


 事務所で成瀬さんと休憩。

今日は新しい講師陣に仕事を教える日。

俺が初めて支社に来た時と同じ部屋で俺が前に立つ。

一年前とは違った立場だ。

俺も成長しているのかな?


「さて、そろそろ行きますか」


「はい。初めが肝心ですよ。しっかりとお願いしますね」


「任せとけ!」


 こうして俺は新しい仕事、立場で春を迎えた。

それぞれのスタート。また一年頑張ろうっ!


――


 そんなある日……。


――プルルルルル


 珍しいな。


「どうした?」


『先輩? あの、相談が……』


「またか? 俺はもういいよ」


『お願いします。先輩にしか頼れないんです……』


 泣きそうな声で北川が電話をかけてきた。

絶対に優希からみだ。めんどくさい。

俺はもう、関わりたくないんだよ!


「悪い、俺にはもうどうする事も出来ない」


『お願いします。一度でいいので、一度でいいから……』


 泣いている感じがする。

あー、めんどい! めんどくさい!

何で俺なんだよ! 他に頼める奴いるだろ!


「分かった。どうすればいい?」


――


 俺は車で優希のアパート前に来ている。

車を適当に止め、優希の部屋の前に行く。


 二度と来ることが無いと思ったアパート。

細村の部屋にも明かりが点いている。

そう言えば最近あっていないし、連絡もしていないな。


「来てくれてありがとうございます」


「まったく。何で俺なんだよ」


「先輩にしかできない事なんで。この埋め合わせは絶対にします」


 別にお礼なんていらない。

俺にかかわるなってお願いでもしようかな。


――ピンポーン ピンポーン ピンポーン


「おーい、いるんだろ? 俺俺俺」


 めんどいので対応が適当になる。

早く終わらせよう。


 ドアをゴンゴン殴る。

どうなってもいいので、適当な対応だ。


「いないのかー、いないならベランダにもいくぞー」


 まるでストーカーじゃないか。

通報とかされないよね?


 鍵の開いた音が聞こえた。

なんだ、やっぱりいるじゃないか。


「お、なんだいるじゃん。入るぞ。ほら、北川もはいれよ」


 俺の部屋じゃないけどね。

玄関を変えると部屋は真っ暗。

それに、鍵をあけたはずの優希は玄関にいない。


「勝手に入るぞ」


 俺は返事を待たずに部屋に入る。

俺の後から北川も入ってきて、電気をつけた。


 散乱した部屋。

ろくに食事をしていないのか、食べてる形跡がない。

カーテンは閉まっており、何だか以前の部屋とは思えない状態だ。


「何だこれ? まったく部屋の掃除くらいしろよな」


 優希はロフトにいるようで、一言も言葉を発しない。

ま、俺と話したくないと言うのが本音だろうな。


「北川に頼まれてきた。ちょっと話をしないか?」


 しばらく待ったが返事が無い。

俺と口もききたくないか。

ま、それでもいいですけどね!


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