第60話 信じた結果
「おまたせ! たくさん食べてね!」
山盛りカレーはいい匂い。
サラダもスープもある。
昔の俺だったら喜んで食べていただろう。
「お、おいしそうだね……」
「あれ? カレー嫌いだった?」
そんな事ないよ。
カレー大好きだよ、昔はね……。
「いただきます」
俺は気合を入れ、一口食べる。
いいか、気合だ、気合だ、気合だぁ!
モグモグモグ、ごっくん。
ん? 普通だ。普通のカレーだ!
「普通だ、普通に食べられる! まずくない!」
「純平さらっと、ひどい事言ってない? これでも料理はそれなりにできるんですけど?」
あ、失礼しました。
ジト目で俺を見てくる雅。
作り方が特殊なのか? それとも他の要因があるのか……。
「雅、このカレーどうやって作ったの?」
「え? 普通に作ったよ? 家にカレー粉あったし。食材は勝手に使わせてもらったけど」
特に何もしていない?
普通に食べる事の出来るカレー。
雅、もしやお主は料理人か!
「うまい、雅の作ったカレーがうまい!」
久々に人の作ったカレーを食べる。
一時はどうなるかと思ったけど、このカレーはうまい!
「なに、泣いてるの?」
「え? 涙?」
俺は思わず袖で涙を拭く。
勝手に涙が出ていたみたいだ。
「そんなにおいしい?」
「あぁ、おいしいよ! このカレーは最高だ!」
「良かった。また作ってあげるよ」
――
その夜、少し時間があり雅とお茶タイム。
「あのね、お願いがあるの」
「んー? 何?」
「純平今度の休み、一日付き合ってほしい所があって」
「一日? どこか行くのか?」
「うん。できれば車を出してほしいんだけど……」
どこか行きたい所でもあるのかな?
ドライブ? 行楽地?
でも、まぁ休みの日は特に予定無いから別にいいか。
「いいよ。どこに行くの? 遠い?」
「私の実家。武ちゃんの家にある私の物を、実家に持ち帰りたいの」
……おーまいっがっ!
昨日の今日でそこまで発展するの!
「先輩はその事……」
「今日話した。武ちゃんも納得しているし、親にも話した」
先輩! もっとしっかりしてくださいよ!
どうしてこんな事になっているんですか!
「ふ、二人がそう決めたんだったら俺は何も言えないな。いいよ、運んでやるよ」
まずいな、この二人元鞘に戻れるのか?
先輩も雅も来年度は四年生。
二人で卒業して、そのまま就職ってパターンが普通だと思うんだけど……。
――
そして、俺の車には大量の荷物が詰め込まれ、先輩のアパートを後にする。
「純平、事故には気を付けてね」
少し寂しそうな表情の先輩。
ま、彼女がいなくなったらそうなりますよね?
少し同情してしまう。
「はい、気を付けますね」
先輩と雅は一言も言葉を交わさず、雅は助手席に座ったまま。
あー、なんだか俺逃げたい!
でも、お世話になった二人の役には立ちたいけど、こんな事じゃないんですよ!
バックミラーに映る先輩。
雅は無表情でまっすぐ前を見ている。
「良いのか? 何も言わなくて」
「いい。最後の最後まで武ちゃんは私に何も言ってくれなかった。もぅ、信じられない……」
小さな声で話す雅。
雅の口から『信じられない』と聞こえた。
奇遇だな、俺も同じように人を信じられないよ。
ちょっとした擦れ違いで、俺の見えていた世界が変わる。
俺の描いていた未来では二人は、ずっと二人でいた。
でも、その二人が離れようとしている。
人生やっぱり何があるか分からない。
人と出会い別れ、そして次のステージに行く。
先輩も雅も次のステージに行くだけだろ?
ほらみろ、やっぱり人を信じてはいけないんだよ。
雅も先輩もお互いに信じた結果、こうなった。
やっぱり俺の生き方は正しかった。
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