第三章 親友

第39話 ジョブチェンジ


「ありがとうございましたー」


 俺は店長と相談し、フルタイムのバイトをさせてもらう事になった。

就職活動もしないといけないのは分かっているけど、何となくそのままフリーターになってしまう。


 一度学校に行き、学生窓口の人に相談した。

色々話したが、結局退学するしか道はなさそうだ。


 留年した俺が悪いから、しょうがない。

退学の手続きをして、肩書大学生からフリーターへジョブチェンジした。


 四月になっても同じような生活の毎日。

バイトして、ご飯食べて、教習所に通う。

変わり映えのない毎日。こう考えると、今までの生活が濃すぎたような気がする。


 誰ともかかわらない生活。

そこには信頼も愛情もない。気楽な生活だ。


 唯一話をしている武本先輩と雅。

先輩は就職活動をするために、バイトの日数が減った。

その分を埋めるように俺の仕事が増えていく。


 先輩の仕事量ハンパねーっす。

今の俺ではこなせません。頑張っても残業しても追い付かない。

先輩、何気にハイスペックだったんですね。


「純平、最近疲れてない?」


 俺の隣で検品中の雅。


「あー、疲れてる。きつい、眠い、腹減った」


「文句ばっかり出るね。今まで武ちゃんがしていたんだから、純平もできるよ」


「そのうちな!」


「片岡! こっち終わってないぞ!」


「はーい! 今行きます!」


「悪い、雅。これパス」


「え? ちょっと!」


 雅にキラーパスして、俺は店長の声がする方に行く。

山積みになったパソコンケースと色々なパーツ。


「明日のセール品。組み立てと基本ソフトのインストよろしくね」


「マジですか?」


「マジ。広告も出てるから。よろしく!」


 笑顔で仕事を振ってくる店長。

きっと、いままで店長も頑張っていたんだよね。

良いでしょう、俺のパワーを見せてやるぜ!


 箱を開け、説明書を見ながら組み立て。

秘技、十台同時電源オーン!

十台のモニタとにらめっこしながら、セットアップ。

流れ作業は楽だぜ! はっはっはー!


「純平、こっち終わったんだけど」


「終わったの? サンキューでーす」


「何その笑顔、最低」


 雅にきつい目で怒られました。

でも、助かったぜ! さすがなんでもできる女!

素晴らしい!


 閉店後もパソコンとにらめっこ。

店長も別室で何か事務処理をしている。

あー、そろそろ終わるかな?


 最後の一台をシャットダウンして、明日の準備を終える。

終わった! 長かったぜ! さぁ、帰ろう!


「店長、終わりました!」


「ありがとう、助かったよ。片岡君、来月から時給アップね」


「いいんですか?」


 でもありがたいっす。


「最近頑張ってるし、武本君の穴も埋めてきているからね。これからも期待しているよ」


 ぽんと肩を叩かれ、笑顔で俺を見つめる店長。

そして、俺も笑顔を返す。

見つめ合う二人、そしてそのまま……。


「あのー、ちょっといいですか?」


 はっと我に返る。

危ない危ない、時給アップの声は魔力がこもっている。

危うく魅了されるところだった。


「あれ? 西川さんまだいたの?」


「はい、どこかの誰かが私に余計な仕事を押し付けたので。自分の仕事が今終わりました」


 ……すんません!


「片岡君?」


「はい!」


「時給アップはみおく――」


 見送り? それは嫌だ!

生活がかかっているんだ!


「お疲れ様でした! 雅、帰るぞ! 家まで送ってやるよ」


「あ、ちょっと! お疲れさまでしたー」


 雅の腕をつかみ、更衣室にダッシュ。

ふぅー、危なかった。


 雅と一緒の帰り道。

手とつなぐわけでもない、腕をからませるわけでもない。

でも、こいつといると安心するなー。

何でも話せるし、俺の事なんでも知っているし。


「純平、今の生活楽しい?」


「まぁまぁかな。仕事して、ご飯食べて、教習所行って、雅と帰る」


 前よりはマジな生活してるんじゃないか?


「そっか。それは良かったよ。あんまりバカな事しないようにね」


「男はいつでもバカなんだよ。ま、俺はもう人を好きにならない。恋愛はしない」


 雅の足が止まる。


「そんな事無いよ。いつかきっと、純平もまた恋をするよ」


 そんなはずないだろ?

あんな事はもうごめんだ。

騙すのも、騙されるのも。

裏切られるのも、裏切るのも。


 俺はもう懲りた。

俺はみんなより少しだけ早く大人になったんだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る