第38話 刻み込まれたセリフ


 二月上旬、後期の試験が終わる。

結果表を手にもち、父親に電話。


「もしもし」


『おー、どうした? 電話なんて珍しいな』


 俺は父親に言わなければならない。

ひと言、伝えなければならない。


「あのさ、言いにくいんだけど……」


『どうした? 彼女にでも振られたか?』


 あー、それはそうなんだけど、今回はちょっと違うんだよね。


「違う。あのさ、留年した」


 テストの結果。

必修科目の単位がどうしても足りなかった。

点数じゃない、出席点。欠席すると減点となる科目で、見事に落された。


『そうか、残念だったな。じゃ、四月から仕送り無しで。あとは、一人でがんばれー。じゃあな』


 電話が切れる。

マジか? 相談もなしで、いきなり独り立ち?

うっそ、この父親なら本気なんだろうな……。


 まずいっす。

少し貯金はあるけど、中退で就職とか。

とりあえず、やれることをやるか。


 幸い貯金は多少ある。

バイトもまだしている。


――プルルルルル


『はい』


「おはようございます。片岡です。店長いますか?」


『少々お待ちを』


 しばらく待つと店長が電話に出た。


『もしもし?』


「おはようございます。片岡です」


『どうしたの?』


「あの、少し相談があるんですけど……」


『いいよ、もしかして休む?』


「いえ、逆です。入れるだけ入れてもらえますか?」


『いいの?』


「はい。今度出勤したら詳しく話します」


 こうして、とりあえず食べていけるだけの仕事は確保した。

来年から大学には行けない。あいつらとの関係もここまでかな……。


 長い春休み。

俺はバイトをがっつりしながら、教習所に通う。

就職前に免許は取らないとね。

貯金を崩しながら、何とか生活し、免許も取得。

全ての講義とテスト、実技を一発で合格しなければならない。


 不合格だとそれだけ費用が掛かるからだ。

外食も減らし、自炊する時間が増える。

仕事をする時間が増え、遊ぶ時間が減る。


 次第に今まで遊んでいた人たちとも自然と関係が無くなっていき、俺はまた一人になった。

バイトして、ご飯食べて、教習所に行って。

生活するためだけの人生。ま、それでもいいか。


 人と関わるとろくなことが無いしね。

武本先輩と雅、それに大原や細村にも理由を伝え、俺は大学に行かなくなった。


 さよなら、俺の大学生活。

色々あったけど、いい経験させてもらいました。

特に優希。お前には俺が一生忘れる事の出来ない、思い出を沢山作ってもらったよ。


 今でも鮮明に思い出せるあのセリフと表情。

俺は一生忘れる事は無いだろう。


『……口にいっぱい出されて大変でしたよ。でも、全部飲んだので、ラグは汚れていませんよ』


 沢山の思い出をありがとう。

お前のそのセリフを心に刻み、俺はずっと生きていく。




【後書き】

第二章完結。


ここまでお読みいただきありがとうございます。

腐った主人公、いかがでしたか?

人間腐ると良くないですよね。


さて、二章も終わり、三章に入ります。

引き続き、当作品をよろしくお願いいたします。


なお、当小説は★評価、フォローができます。

お忘れの読者様がいらっしゃいましたら、これを期に、是非よろしくお願いします。


次章、社会人になった主人公にズームイン!

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