第34話 恋愛ゲーム


 クリスマスに彼女ができ、朝を迎える。

心が痛かった昔の俺はもういない。


「じゃ、俺バイトだから」


 昼過ぎまで一緒にマッタリし、夜のバイトへと向かう。

今日はオープンからラストまでだ。

昨日一日休んだ分、今日稼がないとね。


「途中まで一緒に行くよ」


 愛と一緒に店に向かう。

途中、愛に初めて服を買ったビルの前を通った。


「純平、ちょっと……」


 腕を引かれ、ビルに入る。

向かった先は地下にあるメンズコーナー。


「どうしたの?」


「それ、結構着崩れているでしょ? 新しいスーツ買ってあげるよ」


 お? そんなことしてもらっていいの?


「いや、プレゼントももらったし、いいよ。ここ結構高いよ?」


「いいの。彼氏には良い服着て店に行ってほしいでしょ?」


「何だか悪いな」


「いいの、いいの」


 言われるままにスーツのセットを買ってもらった。

ブランド物のスーツ。値札を見るとおっふと声が出る。


 そして、真新しいスーツで出勤。

愛は最後まで俺の腕を離さなかった。

彼女か……。学生と付き合うとのはちょっと違うな。


――


「翼さん! 一本入ります!」


「サンキューです!」


 今日も夜の蝶が舞い込む。

俺と言う花を目的に、多種多様の蝶が舞う。


「翼君、これ」


「お、もしかしてあれですか!」


「なんでか、買いに行ったら在庫が無いっていうから他の店にまで買いに行ったよ」


 同じ型の財布はそんなに在庫が無いのか?

まぁ、同じものだったらなんでもいいか。


「じゃぁ、これは俺から。開けてみて」


 笑顔で箱を開ける彼女。

満面の笑みで中身を取り出す。


「わぁぁ、いいの?」


「いいのいいの。俺が君だけに買ってあげる特別っ」


 彼女は嬉しそうにリングを指にはめる。

愛と同じリング。同じところで買った、同じデザインのリング。


「これって、どういう意味なの?」


「あのさ、こんな俺だけど、真剣に考えているんだ……」


「本当に?」


「うん。だから、付き合わないか?」


「……遊びじゃないよね?」


「遊びじゃない、本気だよ」


 まぁ、本気の遊びなんですけどねー!


「……いいよ。私も今フリーだし」


 そして、本日もラストを迎える。

閉店のコールはいつもミサキさんが一曲歌う事になっているが、今日は先に上がっている。

ミサキさんの代わりにいつも歌っている先輩。

この人の声もいいんですよねー。


「翼、やってみるか?」


 まじ?


「いいんですか?」


「お前も結構長いだろ? たまにはラストソング、いっちゃえよ」


「あざーっす!」


 やった、一歩前進した!

閉店後、店長から成績発表がある。

今日は二十五日。おれ、結構今月頑張ったぜ?


「はい、一位はもちろんミサキね。今日はいないけど、まぁどこかで客引きしてるでしょ」


 ですよねー、さすがミサキさん!


「で、二位は翼ね。最近よく頑張ってるわね。来月もよろしくね」


「え? 俺ですか!」


「そうよ、お疲れ様」


 やったー! 俺頑張った!

ヒャッポー!


 この時、俺は三位になった先輩の事なんて何にも考えていなかった。

浮かれていたんだ……。


――


「愛! 俺二位になった!」


『本当! 良かったね。今日はどうするの? 家にくる?』


「いや、今日は自分の家に帰るよ。課題もあるしさ」


『そっか、また連絡してね』


 そんな連絡を一本いれ、店を出る。


「遅い!」


「ごめん、待った?」


 こうして俺は二人目の彼女と夜の街に消える。

騙す方が悪い? いや、騙される方が悪い。

もっと俺を見ろよ。俺をよく観察しろよ。

分からないのか? お前らはみんな客なんだよ!


 悪い気も全くなく、仕事に精を出す。

あぁ、楽しい。真面目に恋愛するやつらは何を考えているんだろうか?


 所詮ゲームだろ?

恋愛ゲームは楽しんでなんぼ。

ほら、そこのカップルさん、君たちもゲームしてるんだろ?

楽しんでるんだろ?


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