第33話 二人の夜


 クリスマス前日。

イブの日は午前一人、午後一人、夜に一人とそれぞれデート。

俺は多忙な一日を過ごす。


 夜、愛と会うまでに手に入れた新品の財布。

これは大切にコインロッカーに保管。

それまでは、マジックテープのお財布が俺のお供だ。


「ごめん、遅くなっちゃった」


「いや、俺も今着た所」


 ついさっきまで客といたからな。

全く待っていないよ。


「今日はどこに行くの?」


 愛は精一杯のオシャレと、お化粧。

それに笑顔を俺に、むけてくる。

大人の女性、でも心は少女のようだ。


「あのさ、実は俺今日バイト休みなんだ」


「え? だって今日はお店でイベントがあるんじゃ?」


「んー、あるんだけど愛と一緒にいたいかなって」


 表情の変わる愛。

お、これはいったかな?


「私、明日会社休みなんだよね……」


「じゃぁ、一日一緒だねご飯行こうか?」


「うん……」


 腕に絡んでくる彼女。

初めて会った時とは違い、オシャレな大人の女性になっている。

ここまで変わるもんなのかー。


 駅近くのビル、最上階。

ここのディナーを事前に予約していた。


「さ、入ろうか」


「ここ? すごい所予約したんだね……」


「まぁね。折角のクリスマス。大切な人と一緒に、おいしいご飯、食べたいじゃん」


 愛は頬を赤くしながら店に入る。

ワインを注文し、二人で乾杯する。


――カチィーーン


 良い音だ。


「あの、翼君……」


 さて、落しにかかりますか。


「純平」


「え?」


「俺の名前。純平っていうんだ。出来れば二人の時はそう呼んでほしいな」


「純平君?」


「おう、今日は仕事なし! プライベートでディナー!」


「そう、なんだ。何だか嬉しいな……」


「まぁ、今日休んだ代わりに明日はフル出勤だけどね! さ、ワインでも飲もうか?」


「うん……」


 愛と一緒にディナーを食べ、そのままプレゼント交換。

愛は俺の指定した通り、本日三個目のお財布をくれた。

いやー、ありがたいですね。


「ありがとう、超嬉しいよ。これ、俺からね」


 小さな紙袋から小さな箱を愛に渡す。

箱を開けた愛は、満面の笑みを俺に向ける。


「ありがとう。着けてみてもいいかな?」


「俺が付けてあげる」


 リングを手に取り、彼女の指にそっとはめる。

すっかり頬を赤くした彼女は、まるで少女のような微笑みを俺に向ける。


「ありがとう、初めてリング買ってもらっちゃった」


「初めて? 今まで彼氏とかいなかったのか?」


「うん、女子高、女子大、そのまま社会人。男性とほとんど出会う機会が無くてさ」


「そっか、じゃぁ、俺と出会ったのはある意味運命だな!」


「運命、そうかもね。運命かもね」


 彼女の手を取り、真面目な顔をする。

もし、効果音が出るとしたら『キリッ』って感じだな。


「今日、朝まで一緒にいないか?」


「純平君と?」


「うん。今日は愛と一緒にいたいんだ」


「……いいよ。私も純平君と一緒にいたいから」


「愛って一人暮らし?」


「うん。家にくる?」


「俺も一人暮らしだけど、どうしようか?」


「どっちでもいいよ、純平君はどっちがいいの?」


 ふと考える。

この後の事を考えると、愛の家に行った方が都合がいいよね。


「愛の家に行ってみたいな。どんな所に住んでいるのか、すごく気になる」


「いいよ、じゃぁ一緒に帰ろうか」


「おう! 楽しみっ!」


 食事も終わり、少しお酒とおつまみを買って愛の家に。

着いたのはマンション、何気に高そうなマンションでございます。


「ここ?」


「うん」


 入り口で何か操作し、自動扉が開く。

おぉぉぉ、ハイテク!


 愛に案内され、エレベーターに。

二十五階で止まった。あ、もしかして、愛はお嬢様?


「あがって。ちょっと散らかっているけど、ごめんね」


 そんな事ありません!

全力で掃除した俺の部屋よりも超綺麗です!

家に誘わなくて正解ですよ!


「すごい所に住んでいるんだな」


「少し前に中古で売ってて。それなりの蓄えもあったから思い切って買っちゃった」


「おぉ、大人だ」


 窓の外には夜景がきれいに見える。

おぉ、すげー!

思わずはしゃいでしまう。


「純平君、子供みたい」


「ご、ごめん」


 背中に彼女のぬくもりを感じる。


「お風呂、入って来るね」


「おう……」


 彼女はお風呂に入り、バスタオル一枚体に巻き付け、出てきた。

大人の色気、それを見た俺は思わず生唾を飲む。


「純平君も入ってくる?」


「そうしまーす!」


 緊張してしまい、ダッシュで風呂に入る。

なに緊張してるんだ? こんなの馴れているだろ?


 予め買った新しい下着を履き、用意してもらった服を着る。

暗くなった部屋、ベッドルームにはロウソクの明かりと、用意された二つのグラス。


「少し、飲もうか?」


「……はいっ」


 あかん。何緊張してるの俺?


「「乾杯」」


「この家に人が来たのは初めてかな」


「お、俺が第一号! やったね」


「純平君、本当に子どもみたいだね」


「俺はまだ子供だよ。大人でない……」


「私も、まだ大人じゃないんだよ……。私を大人にしてよ……」


 ふさがれた俺の唇。

ほのかにワインの香りが香ってくる。


 それに、お風呂上りの彼女の香り。

バスタオル一枚の彼女。俺は愛と体を重ねた。


――チュンチュン


 腕が重い。

頭も少し痛い。

隣を見ると愛が俺を見ている。


「おはよ」


「おはよ、何見てるの?」


「純平君の顔。可愛い寝顔だね」


「子ども扱いするなよ」


「あら? 昨日は子供だって言っていたのに……」


「それはそれ、これはこれ」


 腕の中にぬくもりを感じる。

ずっと忘れようとしていた温もり。


 あいつの事を考えると、ずっと心臓が痛くなった。

でも、今は痛くない。彼女の温もりを感じながら髪を撫でる。


「付き合おうか、俺達」


「それは仕事の決まり文句? それとも本心?」


「本心。俺、何だかやれるような気がしたんだ」


「そっか、若いってそうだよね。朝起きたばかりだけど、いいよ。私も頑張るから」


 何を勘違いしたのか、彼女が俺の唇を塞ぎ、上にまたがってきた。


「ふふっ、純平君も好きだね」


「いや、別にそう言う意味じゃなく――」


「んっ……。いいよ、純平君の好きな時に、好きなだけして。私が、純平君の事ずっと養ってあげる」


 彼女にそのまま流され、朝からしてしまう。

でも、彼女はずっと笑顔だった。


 こんな俺でも彼女の笑顔にすることができるのか?



【後書き】

こんにちは 作者です。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。


さて、二章になり、一人身になった主人公。

これから新しい恋愛をすることができるのでしょうか?

出会った女性と、これから良い関係を保っていく事ができるのでしょうか?


気になる方、★評価忘れやフォロー忘れの読者様がいらっしゃいましたら、これを期に是非ページ下にありますボタンをぽちっとお願いします。


合わせて感想もお待ちしております。登場人物、作者に対してもドーンとこい。



第二章、終わったら三章に入ります(当たり前か


引き続き、当作品をよろしくお願いいたします。

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