第30話 生きる術


「どう、かな?」


 芋っぽさが抜け、都会っ子になった。

店員さんが気を利かせ、少し髪をいじってくれたのか。

メガネを取り、目の前に現れた彼女は可愛い。


「うーん、可愛いよ! すいません、これ全部買います。今着ていくので会計してください」


 彼女はびっくり顔になる。

ま、当たり前か。


「え? ちょっと待ってよ。そんな、買わなくていいよ」


「いいからいいから、似合っているんだし、プレゼントするよ」


「でも、結構高いんだし……」


「へーきへーき、お金あっても使う予定ないし」


 少しだけ笑顔になった彼女。

普通に笑っていたら可愛いのに。


「えっと、ありがとう。じゃ、これ着てご飯に行こうかな……」


「そうしよう!」


 俺は会計を済ませ、彼女の手を取り店に向かう。

可愛い恰好した彼女はもうイモっぽくない。

普段からこんな服装すればいいのに。


「もっと、かわいくなりなよ」


「私は別に……」


「笑うと、可愛いよ。ほら、笑って」


 笑顔になる彼女は可愛い。


「また、店に来てくれるかな?」


「うん、また行くよ。今度は一人でもいけそうだし。翼君の事指名するね」


「おうよ、よろしくな!」


 っしゃ! きたこれ。

先行投資って大切ですよね!

いやー、一人一人攻略法見つけるの、大変なんですよ。


 こうして、彼女を駅まで送り、店からもらっている翼用の携帯に番号を登録する。

さよならする時には彼女の手に触れても何も言われなかった。


 後、三回くらいかな?

三回会えば絶対に攻略できるな。


 これで今月五人目。

先輩は八人。まだまだ俺はひよっこだ。

早く攻略法を見つけ、もっと客を取らないと!


 まだ終電まで時間はあるな。

もう一働きするか!


「へーい、そこの可愛い彼女! いや、君じゃなくて、その隣の子!」


「何で私じゃないのよ!」


「え? だってこっちの子の方が絶対に可愛いでしょ?」


「ははっ、誰この人? 友達?」


「いや、まったく。あなた誰?」


「僕? あー、僕はナイト。君たち二人を守るナイトだよ」


「寒いね」


「だったら僕が温めてあげよう」


「もしかして、ナンパ?」


「そうとも言うかな」


「今どきそんな方法で声かける人いないよ……」


「でも、こうして僕と話してくれてるじゃーん」


 二人を飲みに誘う。

もちろん俺のおごりだ。

なんせ、自分の店だと安いからね。

もちろんはずれの時もある。


 だけど大当たりの時は、かなりでかい。

そう、この人のようにね……。


「翼君、きたよっ!」


「いらっしゃい、今日も可愛いね」


「うん、こないだ買ってもらったお店に行って、服を買ったんだよ」


「似合ってるよ。お、この時計、もしかして……」


「えへ、翼君に合わせてレディースサイズ買ってみました!」


「おぉ、いいね。じゃぁ、今日も二人で飲もうか」


「うん。今日は新しいボトル入れてもいいかな?」


「もちろん。あ、でも高くなくていいよ。結構この店高いからさ」


「いいよ、翼君の好きなボトルで」


「いいの? じゃぁ、僕の一番好きなボトルを入れるよ」


「うん。今日も楽しもうねっ」


 いい客だ。

懐も温かく、俺に従順。

そして、俺に合わせてくる女。


 騙すのが悪い?

いや、騙していないだろ?

彼女が勝手に、俺に合わせてくるだけだ。

さぁ、今日もボトルを入れて、成績を上げていきますよ!


 バイトの成績と反比例するように学校の成績は下がっていく。

当たり前だ、授業サボって、学校休んで、昼間寝て。

俺、このまま就職しちゃおうかなー!


「翼さん、ボトル入ります!」


「ありがとうございます!」


 今日も俺の成績は上がる。

彼女が喜ぶことをすると、俺の金になる。


 別にいいだろ? 信じるやつが悪い。

騙されるより、騙す方がいい。

裏切られたくないなら、信じるな。

別に俺は誰も騙していない。


 人は裏切る。

深い関係になった時、裏切られたときの痛みが増す。

だったら上っ面でいい。信じているふりをすればいい。


 これが、俺の生きていく術。

俺は目の前の金を信じる。

人は信じない。


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