第27話 初めてのお酒


 その日の夜はなかなか眠れなかった。

持ち帰った段ボールも置きっぱなしだ。


 寝ないと、明日学校に行かないと。

文化祭も準備、しないと……。


 俺は何だったんだ?

あいつの、なんだったんだ?


 その答えは出ない。

きっと、この先も出る事は無いだろう。


 誰かに、聞いてほしい。

俺の、今この気持ちを誰かに聞いてほしい。


 細村? 大原?

いや、話せない。


――プルルルルル


『はい』


「雅か?」


『純平? どうしたの? 声、おかしいよ?』


「今、話できるか?」


『ちょっと待って。武ちゃん、ちょっと純平の様子が変。様子見てきてもいい?』


 遠くから先輩の声が聞こえる。


『今から行くから部屋で待ってて! 絶対に部屋から出ない事! いいわねっ!』


 電話が切れ、数分後部屋の扉が開く。

目の前に出てきた缶コーヒー。


「これ、好きだったよね?」


「……サンキュ」


 コーヒーを飲み、俺の隣に座った雅。


「で、どうしたの? 話して」


 俺は全部話した。

優希と出会った時から今さっきまでの出来事を。

全部、隠しもしないで全部話した。


「……だから言ったのに。忠告聞かないからだよ」


「悪い……」


「でも、まぁ、そうなっちゃったらしょうがないね。で、これからどうするの?」


「これから?」


「そうよ、学校でも会うし、サークルだって同じでしょ?」


「……普通に話して、普通に交流する。ただの先輩と後輩になる」


「純平がそれでいいならいいけど、大丈夫? 死にそうな顔してるよ?」


「そんな顔しているのか? 大丈夫……。いや、嘘だな。ちょっとショックかな」


 雅に抱きしめられた。


「純平は優しすぎる。泣いてもいいんだよ?」


「男が、そう簡単に、泣ける、かよ……」


 俺は初めて彼女の前で泣いた。

きっと優希の事好きだったんだと思う。

だからショックなんだな。

きっと、どこかでもう一度やり直せるって思っていたんだ。


「うぐっ……」


「まったく、手間のかかる男だ」


「悪かったな」


「落ち着くまで学校休んだら?」


「休めない。実行委員なんだ」


「そういえばそうだったね。じゃ、頑張りなっ。今度武ちゃんと一緒に焼肉しよう」


「焼肉か、いいな焼肉」


「もちろん割り勘ね」


 そんな話をして雅は帰って行った。


――プルルルル


『どうした?』


「すいません、雅今帰りました。こんな時間にお手数かけて……」


『気にするな。俺よりも純平の方が雅と付き合いは長いからな。大丈夫か?』


「はい、何とか」


『無理しないようにね。何かあったらまた、雅でもいいし、俺にでも連絡してくれ』


「ありがとうございます……」


 先輩もいい人だな。


 全部を話し、すっきりしてその日の夜は何とか眠れた。

しかし、心の中に住みついた黒いモヤモヤは決して晴れる事は無い。


――ドンッドンッドンッ


 文化祭当日。

俺は実行委員として各場所を回っている。

サークルの方は俺以外の皆で回しており、遠目で見るととても楽しそうだ。


 雅に北川、そして優希と元彼。

あの輪に入っていなくて良かった。


 優希と元彼はそのまま腕を組み、学校の奥の方に消えて行った。

二人で文化祭を回るって? はっ、勝手にしてろ。


「すいませーん! 実行委員の方ですよね?」


「はいはーい、何か御用で?」


「ここに行きたいんですけど……」


「あー、占いの館ですね。途中までご案内しますよ」


 係員も忙しい。

サークルの方も気になるけど、大丈夫かな?


 楽しい文化祭も一日が終わる。

最後に花火が打ち上がりその日は終わった。


 一人で見上げる花火。

本当だったらここに優希がいてくれたはずなんだけどな。


 そんな事を考える。

もしかして、まだ俺はあいつの事を……。


 そんなはずあるか!

あそこまでされたんだ! そんなはずないだろ、ざけんなよ!


 文化祭の片づけをし、今日は打ち上げ。

サークルではなく、実行委員の方で飲み会がある。


 二十歳になった俺は初めて飲み会で酒を飲んでみた。

注がれるビール。


「では、かーんぱーい!」


「「かんぱーい!」」


 一口ビールを飲む。

まずっ! にがっ! なにこれ!


「先輩、これじゃない何か飲み物を……」


「何だビールダメか? じゃぁ、コレかな?」


 次に出てきたのはソルティードッグ。

コップに塩がついている。


「なにこれ?」


「甘じょっぱいジュース」


 意味が分からない。

一口飲む。あ、おいしいかも。


「それなら大丈夫そうだね」


 先輩に言われカクテルを飲む。

飲む飲む飲む。うまいなー、甘いなー、おいしいなー。


 次第にグワングワンしてきた。

これが、酔うという感覚か。


「大丈夫?」


「だーいじょーぶい! 平気であります!」


 すっかり出来上がっているみたいだ。


「えっと、帰れる?」


「平気であります! わたくし、一人で帰れます!」


「……っそ、気を付けてけ帰ってね」


 打ち上げが終わる。

先輩たちはカラオケに、他のメンバ―も二次会に行くらしい。


 っと、視界がぼやけるな。

これが酔いなのか、意識のあるうちに帰ろう。


 若干千鳥足で自宅に向かい歩いて行く。

途中、いくつか文化祭の打ち上げメンバーとすれ違う。


 大学の側には居酒屋も数件あり、今日はどこも満席のようだ。

みんな、楽しみやがって。

こっちの気も知らないでよー! いい気なもんだぜ!


 ふと視界に入ってきたサークルのメンバー。

なんだ、近くの居酒屋にいたのか。


 俺の良く知っているメンバーはほとんど揃っている。

が、優希の姿だけない。


 酔っぱらないながら俺はメンバーに声をかる。


「おいっす! 元気か! 俺は元気だ! 桃山はどこいった!」


「桃山さん? 今日は打ち上げに来ていないよ?」


 んだと! 来ていないないのか!

あれほど学校ではみんなと仲良くと言ったのに!

説教だ! ガツンと言ってやる!


 そのまま優希のアパートに足を運ぶ。

あのやろー、サークルの打ち上げに顔も出さないで!


 玄関の前に着き、インターホンを鳴らそうとした。

が、中から声が聞こえる。


 優希の甘い声だ。

一気に酔いが覚め、俺は冷静になる。

俺、何してるんだ……。


 一人自宅に戻り、近くの公園に入る。

途中コンビニで買った酒を飲みながらブランコ。

あー、たのしいなー。


 何してるんだ、俺は。

バカじゃないのか?


「こんな所で何してるの?」


 武本先輩と雅。


「酒飲んでんだよ! 良いだろ、飲んでも! 二十歳なんだよ!」


「はいはい、あまり飲み過ぎないようにね」


「良かったら家に来るか? うまいチーズとベーコンがあるんだけど」


「先輩、いいっすね! 喜んでいきますよ!」


 酔った俺は二人に抱えられ、先輩のアパートに向かった。

この二人、仲良いよねー! いいよね!


 俺と、優希とは大違いだ。

そう、俺と優希とは違うんだ……。


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