第26話 最後の日

 

 優希とご飯を食べて、一緒に帰る。


「今日はどうする? どっちかに泊まるか?」


 優希は少し考え込んでいる。


「まだ、家の片付けが終わっていないので、帰ります」


 そういえばお泊り会していたんだっけ。

まぁ、一晩遊んだら散らかるよな。


「おっけー。じゃ、家まで送っていくよ」


「大丈夫です。先輩も最近忙しいし、私だったら一人で帰れますから」


「そっか、遠慮しなくていいだぞ?」


「ありがとうございます。大丈夫ですよっ」


 腕に絡んでくる優希。

何となく空元気な気がするな。

疲れているのかな?


 いつもの交差点で優希と別れる。


「あの、お願いがあるんですけど」


「なんだ?」


「明日、学校行きますよね?」


「あぁ、コマは少ないけど授業はあるよ」


「明日一日だけでいいので、私と会わないでほしいんです」


 訳ワカメ。意味不明。

何を言っている?


「理由は?」


「……後で話します」


「そっか。別にいいよ。何かあったら連絡くれ」


「ありがとうございます。では……」


 優希が俺の元から去っていく。

もう、あの手を握る事が無いように感じた。

いま、あの手を握らないと、二度と戻らない気がした。


 でも、俺はその手を握る事は無かった。


――


 さて、授業に行くか。

今日は午後から学校。

放課後は実行委員のお仕事して、帰宅。

バイトはお休みだ。


 残りあと数日。

文化祭まで忙しい。


 学校に行き、授業を受ける。

昼は自宅で済ませたので、学食に行くこともない。


――プルルルルル


 携帯が震えた。


『おーい、今学校?』


「そうですけど?」


 サークルの先輩だ。


『悪い、ちょっと部室まで来てくれ』


「嫌です、めんどい」


 絶対に厄介ごとだ。


『そういうなよ。ランチ奢るから』


「しょうがないですね。今行きますよ」


 部室に行くと、なぜか山積みになった紙。

なにこれ?


「悪い! これ一年の分。誰か一年にパスしてもいいから、配ってきて!」


「何で俺なんですか?」


「暇そうだから……」


 実行委員で忙しんですよ!


「……わかりました。一年の分を誰かに丸投げすればいいんですね?」


「その通り! 二、三年は俺がするからさ。やっと文化祭の資料できて、メンバー全員に配らないといけなくて」


「もっと早く配布してくださいよっ」


 頭をかきながら頬を赤くする先輩。


「悪い、恩にきるぜ!」


 めんどくさいがしょうがない。

今年はこっちのサークルで行う活動には参加していない。

これくらいするか。


 手に持った紙の束を誰にパスするか。

誰か学食にいないかな……。


 お、優希と北川が見えた。

ラッキー!


 俺は学食に入り、二人のテーブルに近づく。

知らない男が一人いるけど、まぁいいか。


「優希、北川ちょっといいか?」


 二人が俺に気が付いた。

そして、優希は物凄い顔で俺を睨みつけてくる。

な、何だ?


 あ、忘れてた!


「先輩……」


「悪い、これサークルの資料。一年全員に配布しておいてくれ」


 手に持った紙を手前にいた北川に全部渡す。

そして、その場を去ろうとしたとき男に声をかけられた。


「優希の先輩ですか? いつも優希がお世話になっています」


 誰? 初対面ですよね? もしかしてお兄さん?

優希の表情が変わる。


「えっと、どちら様で?」


「優希さんとお付き合いさせてもらっている、森本と言います」


 ……優希の目を見る。

優希は俺を、瞼に少しだけ涙を浮かべながら、何も言わずに下を向いた。


 そうか、そういう事か。

そうだよな、結局そうなんだよな。


 俺がバカだったよ。

結局そうなんだ、こいつはこうなんだよ。


「じゃぁ、桃山さん、北川さん、資料の配布頼んだよ」


 俺は男に挨拶もせず、容姿だけ確認しその場を去った。


――


 その日の夜、優希は一人で俺の家に来た。

手ぶらで何も持たず、連絡もなく突然来た。


「なんで来たんですか? 会わないって約束したのに」


「先輩に資料の配布頼まれた。で、あいつは?」


「さっき地元に帰りました」


「あれが元彼か?」


「……そうです」


「もしかして、ここ数日お前の家に泊まっていた?」


「……はい」


 はい、せーかーい! 

俺優秀。


「俺に何か言う事は?」


「ごめん、なさい。これ、返します」


 テーブルの上に置かれた俺の部屋の鍵。


「そう言う事で、いいんだな……」


 無言で頷く優希。


「分かった。おまえがそれでいいならいいよ。俺はもう何も言わない」


 鍵を受け取り、部屋に会った優希の荷物をまとめる。

箱一つになった。


「最後だし、手伝うよ」


 箱を手にもち、一緒に優希の部屋に向かった。

部屋に着いた俺は、持ってきた箱に自分の荷物を詰める。


 結構荷物あったんだな。

歯ブラシ、着替え、その他もろもろ。

あ、紫の箱も置きっぱなしだった。

中身が少し減っている。


「使ったのか?」


 無言で頷く優希。

その目にはもはや生気を感じない。


「だったらこれは置いておくよ。良かったら使ってくれ」


 テーブルに紫の箱を投げつける。

俺にはもう不要の物だ。


 部屋を出る時、優希の手に鍵を乗せる。

これで、最後だな。


「何か言う事はあるか?」


「……迷惑をかけて、ごめんなさい」


「体に気をつけろよ。特に顔の怪我にはな」


 そう言い、俺は部屋を出る。

家まで全力で走った。


 人は裏切る。

信じても裏切る。

信用しなければいい。


 信じたら騙される。

騙されるなら騙す方がいい。


 所詮恋愛なんてゲームだ。

惚れるか、惚れられるか。

惚れたやつがバカなんだ。


 だったら俺は負けない。

ゲームに勝つ。


 騙されるより、騙した方が。

惚れるより、惚れられた方がいいに決まっている。


 所詮人間なんて、全員が他人だ。

親だって、友達だって、彼女だって。

みんなっみんなっみんなっ!


 裏切って当たり前なんだ。

だって他人だよ?


 他人を信じてはいけないよね。

そう、これが俺の新しい生き方だ。


 信じない。騙されない。

表面上だけ上手くやってやるよ。


 お前らは、全員裏切り者だ!

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