第二章 孤独

第25話 始まった学校


 後期が始まる。

長い夏休みも終わり、何とか課題も全部終わった。

長い戦いだったぜ。


 あれから優希とは少し距離を置き、毎日どちらかの家に泊まっていたが、今は週に数日間、それぞれ自宅で過ごしている。

細村とも三人で話をして詳細は省いたが何とか元の形に戻った。


 前と全く同じ関係を続けるのは無理だし、起きてしまった事をなかったことにはできない。

それでも、学校で会えば話はするし、多少ギクシャクしてしまうが、時間が解決するだろう。

男の友情はそんな簡単には崩れない。男女間の友情も同じである。


 大学の後期は文化祭がある。

大学でも大きなイベント。各サークルでお店を出したり、芸能人を読んだり。

俺は実行委員になり、サークル活動よりも実行委員の方に良く行くようになった。


 必然的に優希と一緒の時間は減り、優希は友達をいる時間が増える。

お互いに依存しまくったのは問題だ。

大学生活もしっかりしないといけない。


 そんな後期、数週間が経過し、久々に時間が取れたので優希と一緒にご飯を食べることにした。

今日は俺の家でお泊りだ。数日振りのお泊り、何となくウキウキしてしまう。


「純君、最近忙しそうですね」


「まーなー、実行委員の方が結構大変でね。バイトもあるし」


「私の方もサークルの出店準備でパタパタしてますよ」


「今年は何するんだっけ?」


「今年も去年と同じですよ」


「じゃぁ、焼きそばとトン汁か」


 優希の顔も体からもすっかりと消えた痣。

前にもまして笑顔が増えたような気がする。


「そうだ、今度家でお泊り会するので純君の所には来れないんですよ」


「週末か?」


「そうです」


「俺も実行委員とバイトがあるから、今週は俺も無理かなー」


「じゃぁ、ちょうど良かったですね」


 そんな会話をし、お互いに少し自分の生活を大切にする。

二人っきりの世界に入るのは悪い事ではないけど、社会にも出ないとね。


 そして迎えた週末。

実行委員が終わり、バイトに行く。

バイト先には武本先輩と雅がいつもの様にいた。

この二人は俺以上にテキパキ仕事をこなし、まるで社員のように働いている。


 最近武本先輩は学校以外、ずっと仕事している疑惑も出ている。

そんなにバイトしたら確かに単位落しますよね?

 

 そしてバイトも終わり家に帰る。

あー、疲れた!

コンビニで買った弁当を食べ、シャワーを浴び明日の準備をする。

もうすぐ文化祭、色々とやらなければならない。


 寝る前に優希に電話でもするか。

お泊り会って言っていたけど、家にはいるだろ。


――プルルルルル


『はい』


「お、優希か? もう寝てた?」


『んっ、まだ寝てない、です』


「そっか、今何したの?」


『今、ですか? いまっ、台所で、ご飯、作っていましたぁ』


「こんな時間に?」


『そう、なんです……。少し、遅くなってぇ……』


「そっか。お泊り会楽しいか?」


『まぁまぁ、ですかねぇ。んっ、でも、一人よりは……んっ、痛っ』


「どうした?」


『大丈夫、です。ちょっと包丁で指を……』


「悪い、邪魔したな」


『そん、な事、ないです……』


「そうだ、日曜の夜、時間あるか?」


『にちよう、の夜……。大丈夫、です』


「給料入ったからご飯でも行こうか?」


『うんっ……。い、きます。夜、先輩の家に、いきますっーー』


 そこまで話すと電話が切れた。

料理中に邪魔しちゃったな。


 ま、日曜に一緒にご飯行くし、店でも探しておこうかな。

優希は中華が結構好きだし、その店にでもしようかな。


 パソコンで店をピックアップ。

何店舗か探しておき、当日決めるか。


――


 そして、迎えた日曜。

いつもと同じような服装で俺の目の前に現れた優希は、ほんの少しだけ口に傷があった。


「どうした、その傷」


「これですか? ちょっと転んじゃって……」


「そっか、早く治るといいな。よし行くか、どの店がいい?」


 優希に選んでもらい、ご飯を食べに行く。

繋いだ手は小さく、柔らかい。


 そして、握った手には指を切った形跡が無い。

絆創膏も無ければ、切った後もない。

心なしか、優希の表情が暗い気がした……。

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