第16話 馴れてきた日常


 お互いの挨拶も終わり、俺と優希は部屋に戻った。

圭太はなぜか手元にあったおやつを持たせてくれた。

なかなか気が利くじゃないですか。


 部屋に戻った後は俺が洗い物をして、優希はレポートをしている。

使い勝手の違う台所だけど、女の子らしいキッチンだ。

熊の形をした鍋つかみに猫の手のフライ返し。


 洗いカゴに綺麗になった食器を戻す。

ふぅ、やっと終った。


「終わったぞー」


「お疲れ様。ありがとう、助かりました」


「いえいえ、こちらこそ。おいしいご飯をありがとう」


 クッションに座った優希はジュース片手に微笑んでいる。

あー、そのチラッと見える太ももにどうしても視線がいってしまう。


「あんまり見ないでくださいよ。恥ずかしいじゃないですか」


「だったらそんな短いスカートはくなよ!」


 責任転嫁してみる。


「純君は長いスカートが好みですか? それならそうしますけど……」


「いや、服位好きな服を着たらいい。俺の事は気にするな」


 個人的には短い方が好きです。はい。


 夜も更け、一緒に並んで座りテレビで放映されている映画を見る。

何でもない普通の事が、優希といると少しだけ楽しく感じる。


 もしかして、俺もこいつの事好きになり始めているのか?

そんな気がしたが考えるのはやめた。


「映画も終わったし、お風呂に入ろうか」


「おう。優希が先に入るんだろ?」


「それでもいいけど、お湯入る? 入らなければシャワーだけでもいいし」


「俺はどっちでも。優希は?」


「私はシャワーだけでいいかな」


「だったら俺もシャワーでいいよ」


 一人暮らしだとガス代もかかるしね。


 先に優希が入り、その後に俺が入る。

湯上りの優希は昨日と同じような格好。

目の毒だ。


「もう、寝る?」


「そうだな、明日も学校だし、昨日はあまり寝てないしな」


 優希に誘われ、一緒の布団で寝る。

少し狭いけど、それならそれで悪くない。

優希が俺の上半身にその身を乗せてくる。


「今日は?」


 優希の甘い声が俺の耳に入ってくる。


「今日も?」


 無言で頷く優希。

俺は羊の皮を被った狼。

今日も可愛い後輩と体を重ねる。


――

 そんなお互いの家を行ったり来たりの毎日。

学校で一緒に昼を食べ、どちらかの家に行く。

お互いに鍵も交換し、それぞれの家にお泊りセットが常駐する。

そんな生活が普通になってしまった。


 今日は俺の家でお泊り。

学校帰りに買い物をして、優希と一緒に帰る。

家に入ろうとした時、上から声が聞こえた。


「今帰りか?」


 二階に住む大原雄介。


「そうだ。今帰ってきた」


 優希は軽く会釈をする。


「その子は?」


「後輩」


「純君? 何か説明が短いと思いますけど?」


 しょうがないな。


「同じサークルの後輩で、彼女だ」


「おおぅ、彼女? なんだ全く知らなかったな。俺、純平と同じ寮だった大原。たまに会うと思うけど、よろしくな」


「はい、こちらこそ。桃山です、よろしくお願いします」


 たまたまだけど、大原にも紹介できた。

優希は何回も家に泊まっているけど、大原と会った事は無かったな。


「彼女の所に行くのか?」


 大原の手にはヘルメットが握られていた。

このイケメンは他の学科の子と付き合っているのだ。

その彼女さんは年上で美人さんだった。


「いや、今日はいかない。ちょっとそこまで、軽く流してくるだけだ」


 大原はバイクにまたがり、颯爽と消えてしまった。

うーん、かっこいいなー。俺もバイク買おうかなー。


「バイク、良いですね」


「だろ? 俺も免許はあるんだけど、バイクがねー」


 そんな話をしながら、今日も家でマッタリ過ごす。

すっかり今の生活に慣れてしまった。


――


 大原、最近彼女見ないけど別れたのか?

でも、そんな話俺は聞いていないけどな……。

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