第15話 真剣なお付き合い


「おじゃましーます」


 早速優希のアパートにやってきた。

お泊りセットもしっかりと準備してきた。


「いらっしゃーい。思ったより早かったね」


「折角のお誘いだからな」


 優希の部屋は薄いピンクのカーテンに白いラグ。

そして、小さめの白いテーブルがあり、女の子の部屋って感じがする。

こっちのアパートもロフトがあり、その下が収納スペースになっていた。

つか、隣の棟にいる圭太と同じ部屋の作りだな。


「もう少し時間がかかるから、適当に暇つぶしていていいですよ」


 台所で調理中の優希。

短いスカートに白いエプロンが何とも男心をくすぐる。

俺はノートを広げ、レポートの続き。

何だかんだ言って大学生も忙しい。


 しばらくするといい匂いがしてきた。

ハンバーグの焼ける匂い。お腹から悲鳴が聞こえてきそうだ。


「あ、飲み物が無いですね。純君、ちょっとジュースでも買って来てくれませんか?」


「いいぞー、優希は何飲むんだ?」


「炭酸以外なら何でもいいですよ」


 俺は部屋を出て、近くのコンビニに足を向ける。


「何してるんだ?」


 声をかけてきたのは隣のアパートに住む圭太。

だから、なんでタンクトップなんだよ。


「あー、こないだは話した後輩のことろに来ててさ」


「こないだの? あ、あの子か。今朝見かけたけど、声はかけなかったな」


 相変わらず奥手ですね。

声かける位さらっとしてくれればいいのに。


「今日は家にいるのか?」


「あぁ、今日はこの後家から出ない。レポートが終わらなくてさ」


 苦笑いの圭太。

こいつも俺と同じレポートに追われている。


「だったら後で後輩と顔出しに行くよ」


 圭太と別れジュースをゲットし優希の部屋に戻る。


「おかえりっ! そろそろできるよ」


 テーブルに並んだおいしそうなご飯。

ハンバーグにスープ。それにサラダやグラッセまで。


「優希は何気に料理うまいんだな」


「何気には余計ですよ。一通り母に教わってきました。一人暮らしもするし、料理できないと困るじゃないですか」


 何ともまぁ、思ったよりできる子だったんですね。


「ほら、ジュース。オレンジとアップルどっちがいい?」


「どっちでも。純君と半分こでいいですよ」

 

 一本ふたを開け、優希と半分ずつ分ける。

テーブルにはおいしそうなご飯。

ちょっと嬉しいかも。


「では、どうぞ食べてください! 例により半分は愛情でできていますから!」


「はいはい。いただきます!」


 う、うまいかも。グラッセも柔らかく、甘い。

ハンバーグも俺の好きなデミソースがたっぷりとかかっている。


 こやつ、なかなかやりおるわ!


「純君どうですか? おいしい?」


「うまいよ」


 スープも飲んでみる。

いい味ですね。


「よかった。私と結婚したら毎日おいしいご飯が出てきますよ?」


――ブホォァ


 スープが気管に入る。


「ゴホゴホッ!」


「純君、汚い。スープがもったいないじゃないですか」


「お前が変なこと言うから!」


「変じゃないですよ。結婚前提でお付き合いするんですよね? それとも、先輩は私の事遊びだったんですか……」


 テーブルを拭きながら、真面目な顔で優希は話してくる。

別に、遊びって訳じゃないけど……。


「真剣なのか?」


「真剣に決まってるじゃないですか! こう見えても私は一途ですよ!」


「そ、そうか……。だったら、俺も真剣に考えるよ、多分」


「多分は余計です。純君も真剣に考えてください」


「はいはい。それなりにね。あ、そうそう、ちょっと紹介したい奴がいるんだけどいいかな?」


 無理やり話題を変える。


「誰ですか?」


「この隣のアパートに俺の友達がいるんだ。良い奴なんだけど、優希を紹介してもいいか?」


「男性ですか?」


「男。良い奴だし、男前だよ?」


「別に顔はどうでもいいです。何で私に紹介を?」


 不思議そうな目で俺を見てくる。

ま、そうなるよね。


「もし、優希に何かあった時、近くにいる奴がいると助かるぞ。いつでも俺が来れる訳でもないし。それに、先輩になるから、色々と教えてもらえるかもしれないしな」


 少し考えている。

別に大したことではないだろう?


「良いですよ。純君の友達なら信用できそうですし」


「じゃ食べ終わったらそいつの家に挨拶に行くか」


「分かりました」


 そんな話をしながらおいしハンバーグは皿から消えていった。

おかしい、あんなに大きかったのに。


「ご馳走様でした」


「沢山食べてくれましたね。作った側としては嬉しいですよ」


「いやー、うまかった! また作って欲しい位だ」


「毎日は大変ですけど、たまに作りますよ。一生懸命食べてる純君は可愛いですから」


「俺、年上なんだけど」


「年は関係ありません。純君は可愛いですよ」


 ま、好きなように言わせておけばいいか。


――ピンポーン


『あいてるー』


「おじゃましまーす。連れてきたぞ」


「お邪魔します」


 優希と一緒に圭太の部屋を訪れる。

相変わらずきれいな部屋。

そして、転がってる鉄アレイ。


「いらっしゃい。この子が例の?」


「えっと、初めまして。一年の桃山と言います。よろしくお願いします」


 少しキョドリながら圭太も挨拶する。


「は、初めましてっ! えっと純平の友達で細村圭太(ほそむらけいた)って言います。よろしくお願いします!」


 なぜそこで九十度で腰を曲げる?

もう少し適当なあいさつでいいんだぞ?


「真面目な方なんですね。純君とは大違い……」


「おい、何だそれは」


 部屋の奥に通され、少しだけ談話。

サークルや学校の事、このあたりの事について圭太と優希は話している。

ゴミの出し方とか、大学へのショートカット方法なども。


「良かった、普通に話してくれるんですね」


「あんまり女の子と話した事無くて。ごめんね、緊張しちゃって」


「いえ、そんな事無いですよ。これからご近所さん同士、仲良くしましょうね」


 笑顔で優希は圭太の手を握る。

圭太も優希の手をしっかりと握り返していた……。

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