第14話 今夜はハンバーグ


 昼休み前の一コマ。

俺の授業はなく、空き時間ができたので学食でレポートを書いている。

この時間、まだ学生は少なく人もまばら。


「ここ、空いてる?」


 お馴染みの声。

西川雅(にしかわみやび)との付き合いも長くなったもんだ。


「見ればわかるだろ」


 雅もノートを取り出し、レポートを書きはじめる。

学科は違うが同じサークル。

初めて会ったのは一年の時だったな。


「ねぇ、あの子と付き合うの?」


 おっと、情報が早いですね。


「優希の事か?」


「そう。歓迎会のあと、あの子、あなたの後を追って行ったわよ」


 見られていたのか。


「まぁ、そんなところだな」


 雅もそれなりに可愛い。

セミロングの髪に少し大人っぽい服装。

だが、致命的に背が低いんだよね。


「あまり後輩を泣かせることしないでね」


「俺がか? 逆に俺が泣きそうだよ」


 苦笑いしながら答えると、雅も笑う。

こいつとはなんでも話せる仲、お互いに秘密無しでなんでも話している。


 お互いの趣味や考え方。

それに好きな人の好みや将来の事。


「雅はまだ付き合っているのか?」


「武ちゃん? まだって、失礼ないい方ね」


「だって付き合い初めていきなり同棲だろ? 親とか何も言わないのか?」


「言ってこないわね。私は信用されているから。それに片道二時間もかけて通学は大変なのよ」


「往復四時間はつらいな」


「今は楽よ。往復で十分。空いた時間で色々とできるし」


 同じ県内なのに、通学に時間がかかる。

遠方から通うにはちょっと大変だ。


 一年の頃は通っていたが、今の彼と付き合いだして彼の家に居候を始めた。

その事を言うと居候ではなく、将来を考えて一緒に住んでいると一蹴されてしまった。


「で、何か用か?」


「特に。たまたま見かけたから。ボッチは寂しいでしょ?」


「んな事あるか! 俺はレポートで忙しいんだよ」


「はいはい。で、ちょっとここを聞きたいんだけど……」


 ノートを俺に見せ、色々と聞いてくる。

学科によって履修が変わり、雅が今習っている所はすでに俺が一年でやったところだ。


「はいはい……」


 お互いに理解し合い、良い事も悪い事もなんでも話す仲。

もし、男女間で成り立つなら、こいつは俺の親友だろう。


――キーンコーン


 鐘が鳴る。

次第に増えてくる学生で席が埋まっていく。


「純君! やっと見つけた。って、こちらは?」


「同じサークルの雅。歓迎会で会わなかった?」


「こんにちは、こうして話すのは初めてね。西川雅、二年よ」


「えっと、こんにちは。桃山優希、一年です。あと、純君の彼女してます」


 どやぁーって、別にそこは強調しなくてもいいのでは?


「安心して。純平のことは異性として見ていないから」


「それもなんだかねー」


「そうですか。席一緒でもいいですか?」


「どうぞ。じゃ、二人の邪魔しちゃ悪いから、私はこのへんで」


「もう行くのか?」


「お昼は購買でサンドイッチ買って外で食べるの。今日は天気がいいから、気持ちいわよ」


「俺はうどんが食べたいんだ」


「そう、残念ね。じゃ、またね」


 ノートをバッグに入れ、席を立つ。

こうしてみるとこの二人、結構可愛いんだよね。

優希と二人になってしまった。


「純君、雅さんと付き合ったことが?」


「ないない。あいつとは一年からの付き合いだ。まぁ、俺の付き合っていた元カノとか知っているし、別れた理由とかも話しているけどな」


「そうですか。雅さん、美人さんですね」


「そうか? 普通だろ?」


「雅さんを普通と言ったら、世の中の女性を敵に回しますよ?」


「おっと、それは失礼。付き合いが長いとねー」


 そんな話をしながら二人で昼ごはん。

午後は授業だ。


「純君、今日うちでご飯食べません?」


「作ってくれるのか?」


「もちろんですよ。あ、お泊りセット忘れないでくださいよ」


 今夜は由紀の家でご飯食べてお泊りか。

それも悪くないか。明日は朝一の授業もないし。


「わかった。学校終わったら準備していくよ」


「やったぁ! 純君ハンバーグ好き?」


「好きだけど?」


「じゃぁ、今夜はハンバーグにしよう。おいしく作るから期待しててね!」


 ハンバーグか。

いいね! 優希の家に行くのが楽しみになった。


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