第13話 初めての夜


 無理やり頭と体を洗われてしまった。

湯船に再びつかりながら優希の方を見ている。


 まじまじ見るのは悪いかなとは思うが、勝手に入ってきた優希が悪い。

しかし、まぁ何とも……。


「そんなに見つめてどうしたんですか? やっぱり私の事可愛いなーとか思っているんですか?」


 事実。確かに可愛いと思いますよ。

だけどね、なんでそんなにグイグイ来るんですかね?

言葉に詰まり、俺は湯船に頭半分もぐる。


「純君って結構初心(うぶ)何ですね、ちょっと意外です。もしかして女性経験ないんですか?」


――ザッパァーン


「あるわ!」


 一人だけど。


「そうですか、それはそれは……」


 ニヤニヤしながら優希は体に泡をモリモリつけて洗っている。

なぜか胸にたっぷりと着けて。

そして、シャワーで泡を流すとモリッとした泡が無くなり、それなり物も現れた。


「ふぅー、お邪魔しまーす」


 狭い浴槽に入ってくる優希。


「狭いんだけど」


「大丈夫ですよ。こうして密着すれば二人は入れますから」


 だから! そうじゃないんだってば!


「先に上がっていてもいいですよ」


「……もう少し入っている」


 心の中で九九や円周率を思い浮かべる。

落ち着け、相手は年下だ。俺が平常心を失ってどうする。

うん、少し落ち着いてきた。


「あがる」


 浴槽から出て、脱衣所で着替える。

まったく、優希の奴、俺の事からかいやがって。

カゴの上には可愛いピンクのあれが置きっぱなし。

……ちくしょー!


 ドライヤー片手に部屋に戻ってソファーの上で髪を乾かす。

もしかして、優希の奴馴れているのかな……。


 しばらくすると優希も上がってきた。

湯上りの優希は頬が赤く、火照っている。

そして、丈の短いワンピ一枚の姿だ。


「なんだその格好」


「これですか? 私はいつもこれで寝てますよ?」


 そうですか、そうですね。

とても寝やすそうで、いいんじゃないか?

お互いに髪も乾かし、明日に備えて寝ようとする。


「じゃ、俺はもう寝るから」


 ロフトに上がり、布団にもぐりこむ。

優希も俺の隣にもぐりこむ。


「まじ?」


「何か? 一緒に寝るんですよね?」


「まじ?」


 大切な事なので、二度聞いてみた。


「えっと、私と一緒に寝るの嫌、ですか?」


 そんな目で俺を見るな!

断れないじゃないか!


「嫌じゃないけど、一応俺も男だしさ……」


「彼氏なら大丈夫ですよ。付き合ってもいない男の人とは一緒に寝ませんよ?」


 はぁー、何だかな。

ソファーに寝るのは嫌だし、かといって優希をソファーで寝かせるのも気が引ける。

ちょっと脅かしておくか。


「優希は可愛いから、俺は我慢できなくなる。襲うかもしれないぞ?」


「いいですよ。純君なら……」


 おーまいがっ! 予想とは違う答えが返ってきてしまった。

さて、この後の事は考えていなかった。

どうしよう……。


 と、考えていたら唇に温かく、柔らかい物が触れる。

この感触……。


「んっ……」


 優希の甘い声が唇から洩れる。

きょどって俺が後ずさりしてしまった。


「お、おまえ何してるんだよ!」


「キス。純君、キス嫌い?」


 嫌いじゃないよ。好きですよ。

でもさ、順番とか、タイミングとかあるじゃん。


「いや、嫌いじゃないけど……」


 優希に抱きしめられる。

お風呂上りのいい匂いがして、温もりを感じる。


「私は好き。キスも、抱きしめ合う事も。好きな人の温もりを感じるのが、すごく好き」


 あかん、頭の中で善と悪が戦い始めた。

善の心は終始劣勢。負けるのも時間の問題だ。

そんな表情で俺を見るな、見ないでくれ……。

脳内で繰り広げられた戦いはあっさりと終わりを告げた。


「いい、のか? 俺達今日付き合ったばかりだぞ?」


「遅かれ早かれです。体の相性も確認しないとダメだと思いますよ?」


 コノヤロー、なんでお前と言うやつはそこまで淡々と話せるんだ!

まるで俺の方が子供みたいじゃないか。


「いいんだな?」


「うん」


――


「――ん! 純君! 起きて、ご飯!」


 まだ眠い目をこすり、布団から起き上がる。

もう朝か。結局明け方まで起きていたから、眠くてしょうがない。


「カレートースト! ここに置いておくから食べてね。私は一度家に帰るから。お昼、一緒に学食に行こう!」


 そう言い残し、優希は帰っていく。

何だか、夢を見ていたようだ。


 だが、テーブルの上に置いてあるトーストとスープ。

これは優希が準備してくれた物。


 そして、一枚のメモ用紙。

『寝顔がかわいいね。また後でね』


 可愛い文字で書かれた置手紙。

嵐がやってきて、去っていく。

俺の大学生活は平穏を失ったようだ。



【後書き】

こんにちは 紅狐です。

皆様、いかがお過ごしでしょうか?


あっさりと付き合い、あっさりと一晩過ごす。

今後、どのようなあっさり展開になるのか……。


もし、良かったブクマや評価にて、応援していただければと思います。

それでは、引き続き当作品をよろしくお願いします。


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