第12話 二人でお風呂


「ここが純君のアパートなんですね」


 俺のアパートの部屋の前。

なぜか隣にいる優希。

結局流れに身を任せたら、家までついて来てしまった。


「私は一度家に帰って荷物置いてきますね」


 俺の部屋を確認し、一度買い物をした物を持ち帰る。

その後、再びうちにくるらしい。


「じゃ、また後でな」


 部屋に入った俺はダッシュで掃除をする。

俺のアパートはワンルーム。

ロフトがあり、その下が収納できるようになっている。

八畳の部屋はそこまで広くないが、テーブルとソファー、テレビ位は置いてある。


 そして、自作のパソコン。それなりのスペックなのでオンラインゲームもサクサク動く。

自作のマシンだけに、自信作だ。

まずはマザーボードとグラフィックボードの説明からしよう。

このマザーボードは――。以下略。


 とりあえず、このディスクと本は段ボールに移動しておくか。

大人のディスクに本。いきなり発見されたら先輩として白い目で見られそうだ。

とりあえずしばらく封印だな。


 あとは洗い残しておいた食器を洗って、掃除機位かけておくか。

綺麗好きな先輩として見てもらおう。


――ピンポーン


 もう来たのか。


「開いているぞー」


「おっじゃましまーす」


 大きめのバッグを肩にかけ、優希が部屋に入ってきた。


「適当に座ってくれ」


「思ったより綺麗な部屋ですね」


 きょろきょろしながら部屋の中を観察中。

優希は突然テレビの下にある棚を開けた。


「ちょ、何してるんだよ!」


 短いスカートから太ももの根元まで見えている。


「んー、えっちぃ物が無いですね。男の子ならあると思ったんですが……」


 っふ、すでに引っ越し済みだぜ。


「そんなものはない」


「まぁ、多分どこかに隠したんですね」


 っく、この野郎。だったら探すなよ!


「で、これからどうするんだ?」


 由紀はバッグからモゾモゾと何かを取りだし、机の上の展開していく。

コップ、歯ブラシ、お食事セット。


「なにこれ?」


「お泊りセットですよ。あと、着替えも持ってきたので、どこに置けばいいですかね?」


「そこまで持ってきたのか?」


「お泊り楽しいじゃないですか。でも、授業の準備はしてきていないので、明日の朝には一度帰りますよ」


 なんともまぁ、準備がいい事で。

俺は優希のお着替えセットを預かり、収納スペースの一角を貸す。

引き出し一段あれば足りるだろ。


「純君、今日はお買いもの付き合ってくれてありがとうございました」


 優希ははにかみながら俺を見てくる。

こうしてみると、普通に可愛いんだけどなー。


「いえいえ、先輩として後輩の面倒を見るのは当然」


「ご飯もおいしかったし、楽しかったです」


「それは良かったな」


「そこで!」


 立ち上がる優希。

なぜかガッツポーズをしている。


「今日は先輩の為に夕飯を作ります!」


 再びバッグから出てくる何か。

食材まで持ってきたのか……。


「えっと、食材なら冷蔵庫に多少あるぞ」


「使ってもいいんですか?」


「いいぞ。調味料も保存食も台所にあるから適当に使ってくれ」


「分かりました! それでは今から準備しますので、ごゆっくりお待ちください!」


 白いエプロンをつけ、台所に向かう優希。

しばらくすると包丁の音と、いい匂いが漂ってくる。


 その間、俺は特にすることも無かったので大学の課題を進める。

調理の時間を勉強に使えるなんて、もしかして助かっている?


「お待たせしました!」


 出てきたカレーは普通にうまそう。

スープにサラダがセットになっている。

匂いも普通、見た目も普通、まったく面白くない。


「普通だな」


「普通ですよ? 何か期待でもしていました?」


「いや、そんな事は無い」


「では、さっそくいただきましょう!」


 一口、口に運ぶ。

普通にカレーだ。でも、良い味だ。


「うまいな」


「実家では多少家事してましたからね!」


 こうして家で女の子と食事をするのも久しいな。

前の彼女と一緒に食べたのが最後だし……。


「前の彼女さんは、ご飯作ってくれました?」


「聞きたいのか?」


「彼女として気になりますね。でも、純君が話したくないのであれば、言わなくてもいいですよ」


 なんだ、こいつ多少は気が使えるな。


「まぁ、少しは作ってくれたかな」


「そうですか。もで、これからは私がしっかりとご飯作りますよ!」


「そこまで頑張らなくてもいいよ。学校も大変だろ?」


「どうせ自分でも食べる為に作るんです。だったら多めに作って、二人で食べた方が効率よくないですか?」


 まぁ、そうかもしれないな。

食材も折半できるし、時間も作れる。


「だったら俺も作るよ」


「純君が、私の為に……。ありがとう、やっぱり純君は優しいですね」


 違うぞ、優しさではない。

効率とかお金の事を考えたら、そうなっただけだ。


「味は期待するなよ」


「最高の調味料は愛です! おいしいに決まっています。あ、このカレーも半分は愛情でできていますよ」


「そんな事無いだろ?」


 優希はスプーンに乗せたカレーを俺の口元に運んでくる。


「純君、あーん」


「この年でできるか」


「あーん!」


「わかったよ」


 しぶしぶあーんして、カレーを口に入れる。

確かにおいしいけどさ。


「ふふっ、純君可愛いですね」


「あのさ、俺一応年上なんだけど」


「それと、これは別ですよ。私にもあーんしてほしいなー」


「断る」


「なんでですかー、いいじゃないですかー、私彼女ですよ!」


 何だかなー。


「ほれ」


 カレーをスプーンですくい、優希の口に突っ込む。


「おむっ、んぐっ……」


「うまいか?」


「純君ひどい! もっと優しく、愛情込めてあーんして下さいよ」


「そんなこと言うな、これが俺の愛情表現だ」


「ぶー」


 ふくれっ面の優希もちょっと可愛い。

そんなこんなで夕飯も終わり、作ったカレーは翌日の朝ごはんにもなる。


「ご馳走様。おいしかったよ」


「明日の朝はカレートーストにしましょう!」


「何それ?」


「知らないんですか? トーストの上にカレーを乗せて、焼くんですよ。チーズとか乗せるとおいしいですよ」


 ほう、そんなメニューがあるのか。


「そっか、楽しみだな」


 それから、ソファーで並んで座ってテレビ見て、明日の学校の準備して、夜も更ける。


「風呂どうする?」


「入りますよ。一緒に入りますか?」


「入るか!」


「純君、奥手ですね」


「いやいやいや、それはないだろう? 俺は普通だぞ?」


 と、思っている。が、最近の若い子はそうでもないのか?

年が一つ違うだけで、ここまで違うのか!


「純君先に入っていいですよ。その間に洗い物しちゃうんで」


「良いのか?」


「一泊するので、それくらいは」


「じゃ、えんりょなくー」


 お着替えを持って脱衣所に行き、スッポポンで風呂に入る。

ふぅ、今日も一日疲れたなー。

湯船に入って、天井を見ながらのんきに鼻歌を歌う。


 どれ、体洗って、頭洗おうかなー。

湯船から出て、椅子に座り、いつも使っているスポンジに石鹸を付ける。


――ガチャ


「お背中、ながしますよー」


 動きが止まった。

振り返ると裸の優希がタオル片手に風呂場に入ってきた。


「ちょ、おま、え? 何してっ――」


 優希は俺からスポンジを奪い、背中を洗ってくれた。


「純君、今夜は二人で過ごすんですよ? そんなに意識しないでくださいよー。こっちが照れちゃうじゃないですか」


 え? なに?  


「純君の背中、広いね。やっぱり、男の子なんですね……」


 優希の肌の感触が背中に伝わる。

あ、これ、やばいかも。


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