第10話 食券の買い方


「断る」


 俺はノーと言える日本人。

こんな軽い後輩と付き合えるか!

絶対に高校時代遊んでいるはず!


「な、何でですか! 勇気を出して言ったのに。しかも即答でっ」


 ケーキを食べながら話している優希の言葉に説得力は無い。


「おま……、優希は高校の時、男遊び激しかっただろ?」


 一瞬優希の肩から力が抜けたように見える。


「そう、見えますか? まぁ、こんなノリだと思われてもしょうがないですね。私、高校時代は一人しかお付き合いしたこと無いですよ?」


 おっと、そうなんですね。


「悪い。言いすぎた」


「そんな、謝らないでください。もう少し私もおしとやかにしていれば……」


 と言っても、こいつの性格を考えると難しそうだ。


「明るく、元気で積極的なところが優希らしさだろ? 無理すんなよ」


「はいっ! そう言ってくれると思ってました! 素が一番楽ですからね」


「どっちにしても、優希の事を好きか分からない状態では付き合えない。他を当たってくれ」


「何でですか? 別に付き合ってから好きになってもいいじゃないですか」


 確かにそうですけど。


「でもなー……。そもそも、なんで俺なんだよ? 他にも沢山男はいるだろ?」


「大学が始まって、サークル紹介の看板を立てている純君を学校で見ました」


 おっと、だいぶ前の話だな。

サークル紹介の立て看板、確かに俺が設置していた。

え、そのころから見られていた?


「大分前の話だな」


「その後、掲示板を見に行ったとき、私と同じ学科だと知りました」


「俺の事、尾行したの?」


「ち、違います! たまたまですよ、たまたま!」


「そうか。そんなところを見られていたんだな」


「その後、純君は学食に行きましたよね?」


「確かに行ったな、それは覚えている」


「その時、券売機の所で食券の買い方を教えた女の子、心当たりありませんか?」


 うーん、あの日の出来事……。


――


 立て看板も設置が終わったし、掲示板でコマの確認も終わった。

あー、腹減った! 今すぐ学食に行ってガッツリ食べよう!

今日はスタミナ丼にラーメンのセットだな!


 券売機に行くと、背の低い女子が一人並んでいた。

しかし、何やらまごまごしている。

俺は彼女の後ろでひたすら待つことになった。


「どうやって買うんだろ……」


 早くしてくれ! 俺は腹減りなんだ!


「えっと、お金が先で、このボタンかな?」


 イライラするな。

もしかして新一年生か?


「何食べたいんだ?」


「え? えっと、かけうどんを……」


 俺は百円玉を一枚券売機にいれ、出てきた食券を彼女に渡す。


「ほら、お前一年だろ? 入学祝に奢ってやるよ。早く中に入りな」


「いえ、そんな。悪いです――」


「いいから、いいから! ほら、後ろも詰まってるだろ?」


 俺の後ろにも何人か並んでいた。早くその券持って、中に入ってくれ!


「では、お言葉に甘えますね。ありがとうございます」


「おう、大学生活楽しめよ」


 見送る彼女の背中をみて、俺も食券を買う。

やっと食べることができるぜ!

全く、券位ささっと買ってくれればいいのに。


――


 ……。

俺は一度優希と会っていた。


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