第9話  ちょっとした見栄


 歩くこと数分、お目当ての喫茶店に到着。

さて、俺はアイスコーヒーだけでいいな。


 優希はケーキセット。

チーズケーキとアイスココアを注文する。

そんな甘い物セットで、大丈夫なのか?


「楽しみですねー、純君のおすすめケーキ」


 笑顔で俺を見てくる優希は確かに可愛い。

振り回されるのも可愛い後輩だと思えば、多少は許せる。

だけど、地方から出てきたばっかりだし、もっと友達を作ってほしいものだな。


「お待たせしましたー」


 テーブルに注文品が届く。

優希の目はキラキラ輝いている。


「お、おいしそうですね! いただきますっ」


 フォークで一口食べる優希。

まるでハムスターのようだ。


「うまいか?」


「おいしいですっ」


「それは良かった」


 不意に一口サイズのケーキをフォークに差し、俺の口元に差し出す。


「なんだ?」


「一口どうぞ」


「いらん」


「そんな事言わないで、食べてくださいよっ。私ばっかり食べていたら、悪い気がします。はい、あーんして下さい」


 はぁー、疲れる。

ま、俺は大人だし、少し付き合ってやるか。

差し出されたフォークをパクッと一口。

うん、甘くてうまい。やっぱりケーキはこの店だな。


「どうですか?」


「ま、いつもと同じだな」


 少しふくれっ面になる優希。

自分が思っていた感想と違うのか?


「純君は何も感じないのですか?」


「特に」


 少し優希の目つきが変わる。


「純君、今彼女いますか?」


 おっと、そうきましたか。


「いや、いたらお前と買い物にはこない。俺は彼女オンリーだからな」


「名前……」


「あ、ごめん」


 全く、また突っ込みを貰ってしまった。


「彼女いた事あります?」


 いたよ。別れたけど二人付き合った事あるよ。


「昔な。三人いたけど、色々あって別れた」


 少し盛ってしまいました。

でも、ちょっと見栄を張りたかったんです。


「そうですか。じゃぁ、今はフリーなんですね」


「まー、そうなるな。なんでそんなこと聞くんだ?」


「純君、私と付き合いません?」


 な、なんと軽い。

なんとドストレートな。


 俺達まだお互いの事何も知らないでしょ?

しかも、お互いに好きか分からないじゃん?

なんでそんな勢いで告白してくるの?


 口元にココアを付けながら、優希は俺を見てくる。

しかし、目は真剣だ。真面目に考えているのか?


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る