第6話 お昼はオススメのお店


「先輩! これ可愛いですね!」


 彼女が手に取っているのはクマのマグカップ。


「高くないか?」


 お値段八百円。マグカップ一個の価格だ。

学食でかけうどんが八回も食べる事の出来る金額。


「でも、絶対にこれで飲んだらおいしいですよ」


「中身は変わらんだろ」


「違います!」


 さっきから見る店、まわる店全てで何かを欲しがる。

欲しいと思ったもの全部買ったら大変なことになるぞ?


「だからさ、さっきも言ったけど『欲しい物』を買うんじゃなくて、『必要な物』を先に買う。家にマグカップないのか?」


 彼女は渋々手に持っていたマグカップを棚に戻した。


「マグカップは持っています。でもですね――」


「しゃーらっぷ! まずは先に必要なものを買う事! お楽しみはその後だ!」


「……はーい。先輩って結構しっかり屋さんですね」


 ふははは! 一度自分で痛い目を見ていますからね!

でも、後輩の前ではそんな事を言えるわけもなく。


「まぁな。お前より一つ先輩だからな」


 と、先輩の風を吹かせてみる。


「やっぱり先輩は大人ですねっ! お買いもの一緒に来てもらって良かったですっ。次に行きましょう」


 腕を引っ張り雑貨屋を出て、次の店に向かう。

とりあえず、必要なの物をリストから探したが、緊急で必要なものは薬とか身の回り品。

となると、街でしか買えないものは特にないんじゃないか?


「予算を決めました! 先輩、少し遊びましょうっ」


 ゲームセンターにクレープ屋さん、大きな金額は使わなかったけど、それなりに楽しむ。

まったく、買い物に来たと思ったら、これじゃただの遊びじゃないか。


 時間もいい頃、お昼になった。


「先輩のおすすめってなんですか?」


「あー、定食屋かな?」


「じゃぁ、お昼はそこにしましょう!」


 俺のおすすめ店。

とあるビルの地下にある定食屋さん。

安い、うまい、早い、量が多いと中々の高スペックな店だ。


「こ、ここですか……」


 だが、お世辞にもおしゃれなお店とは言えない。

殺伐とした空気が流れており、お客さんは黙々と食事をしている。


「あぁ、なかなかいいだろ? ほら、この量でこのお値段。しかもなかなか旨いんだぜ?」


「少なくともデートで来る場所ではないですよね?」


「そうだな。彼女とデートだったら来ないな」


「……良いですよ。ここにしましょう」


 食券を買い、二人で席に座る。

出てきた定食を見ると、彼女の目が大きく開く。


「そ、その量食べるんですか?」


「ん? 俺のは大盛り」


 だが、一般的な定食と比べると少し量は多いのかもしれない。


「先輩、私の定食って普通定食の二倍以上ありません?」


「どうだろ? でもうまいからペロッといけるよ。遠慮なく食べてくれ」


「い、いただきまぁす……」


 さて、俺もいただきますかね。

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