第5話 買い物リスト


 揺れる電車の中で彼女と並んで座る。

電車の中は心地よく、たまに触れる彼女の腕が柔らかい。


「日用品は大学付近で買うとして、ちょっと可愛い雑貨とか見たいんですよね」


 まぁ、近所のスーパーで買える物をわざわざ街まで行って買う必要はないからな。


「だったら駅前近くにラフトとビービンズって建物があるからそこで揃うな」


「地元を離れるとさっぱりですね。先輩と出会えてラッキーですよっ」


 そうでもない。

たまたま同じ学校で、同じサークルなだけだ。

俺以外にも出会うきっかけがあったはず。

こいつはなんで俺をさそったんだ?


 彼女の欲しい物リストを見てみると、どうも感性を疑ってしまう。

それ必要なのか? と言うものが半分以上だ。

リストの一番上に書かれているのは『クルクルストロー』。

その名の通り、プラスチックでできたクルクル回ってジュースが飲めるストローだ。


「あ、あのな……」


「いやー、頑張って書いたんですよ。こうしておけば買い忘れが無いじゃないですか」


 彼女には一人暮らしの事を教えなければならない。

生活する上での優先順位。そして、仕送りとの闘いを。

クルクルストローなんて買っても、使う機会ないってば!


 電車を降り、街に出る。

土日は人が多い。俺はあまり人混みが好きじゃないんだけどね。


「先輩! 建物高いですね、地元だと駅前なんて何にもなかったですから!」


 きょろきょろあっちを見たり、こっちを見たり。

はしゃいでいる彼女は、ちょっと可愛いかも。

風が吹き短いスカートが少しだけ捲れる。


 のぅあぁぁぁ! み、えるぞー!

と、思ったが普通に手で抑える。

こっちに向かって歩いて行来る彼女。

も、もしかして今の見られていたかな?


「もしかして期待しました? 残念でした。普段からこの丈のスカートなので、防御は完璧ですよ?」


「そ、そうですか? ほら、あの高い建物。黄色の看板が見えるだろ? 初めはあそこに行こうか」


「話を逸らさないで下さい!」


「そらしてない! 今日は買い物にきたんだろ、早く行こう」


「そうですけど……。あとでジュース奢ってくださいね!」


「ジュースと言わず、昼をおごってやるよ。入学祝の代わりにな」


「流石先輩! かっこいい! 何でもいいですか?」


「あーいいぞ。ラーメンでも寿司でも焼肉でも」


「先輩、大人ですね! 期待しちゃいますっ」


 すっかり話しの路線が変わってしまった。

俺も女子と話す機会が少なく、馴れていない。

でも、こいつは何だか話しやすいな。


「先輩、早く行きましょう!」


 俺の腕に絡みながら彼女は目的地に向かって歩き出した。

グイグイ来る彼女の力は強い。

まるで、何かに向かって走っているような、強さを感じる。

真っ直ぐで、そこに向かって、他の物には目を向けず。


 一体何に向かって走っているんだ?

俺の勝手な妄想かもしれないけど、お前は何を抱えている?

無理して元気にふるまっているように感じたのは、俺の勘違いか?


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