第3話 良い先輩で


「早いな」


「近くだったから」


 こいつは俺の同級生。

学科は違うが同じ寮に一年間共に過ごした。

俺と違ってイケメンだし、頭もいいし、部屋も綺麗だ。

床には何個も鉄アレイが転がっており、まだ肌寒い季節にも関わらず、上半身はタンクトップ。

ハーフパンツはやめようよ、風邪ひくぞ?


「その服で寒くないのか?」


「お前と鍛え方が違うよ」


 部屋に入り、自動的に出てくるコーヒー。

一年間同じ寮で過ごしたので、お互いの事はそれなりに理解している。

俺と同じ時期に引っ越しをして、今はこのアパートで一人暮らしだ。


「あのさ、ちょっと頼みたいことがあってさ」


「なんだ? 筋トレか?」


「いや筋トレじゃない。隣のアパートに後輩が住んでいるんだ」


「後輩?」


「そう。今度紹介すると思うけど、何かあったら助けてやってほしい」


「別にいいけど。パスタと米、味噌位は常備しているぞ」


「さんきゅ。よろしくな、名前は桃山優希(ももやまゆき)、ブラウンの髪でショートカット」


「女なのか?」


「おう、身長も低いし、すぐにわかると思う。その辺で会ったら俺の名前を出してあいさつ位しておいてくれ」


「女か……。俺、女の子苦手なんだけどな」


 それなりのイケメンで成績も良い。

彼女がいそうなこいつは今まで交際したことが無いらしい。

もちろん女性経験も無し。根が真面目だからなー。


 随分前に聞いたが、女の子が好きなのは間違いない。

俺はこいつに狙われていないし、俺だって女の子が好きだ!


「大丈夫だ。あいつの人柄だったらお前でも話し位はできる」


「そっか。ま、会ったら気にしてみるよ」


「じゃ、用件はそれだけです。またなー」


「帰るのか?」


「帰る。今日は歓迎会で疲れた」


「帰り、気をつけろよ。引かれたりするなよ?」


「大丈夫だ。今度ゆっくり飯でもくおーぜ」


 部屋を出て彼女のアパートを見る。

同じアパートの作り。彼女の部屋は風呂場の電気が点いていた。

どれ、やる事もやったし帰るか。


 大学を横目に自分のアパートに戻る。

さっき通り過ぎた自分の住んでいるアパート。

まったく、大分遠回りして帰って来たぜ。


 きっと彼女は悪い奴ではない、見た目は可愛いし、話しやすいし。

でも、狙っている男は多いはず。今日の歓迎会でもちやほやされてたしな。


 すぐに同じクラスとかで彼氏ができるだろう。

俺自身は良い先輩で終わりだな。


 アパートに帰り、風呂、飯、寝る。

コンボを決めて布団にもぐりこみながら、明日の事を考える。

何も予定が無い。


 アパートも決まったし、一人暮らしも少し慣れた。

仕送りはそれなりにあるけど、遊ぶくらいはない。

バイトでも探すかな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る