第2話 送ってくれたお礼に
俺の住んでいるアパートと大学の横を通り、まだ歩いている。
『すぐそこ』の定義はいったい何なのか。
「まだつかないのか?」
「もうそろそろですよ」
春なのに夜は若干冷える。
腕に絡まった彼女は、ほんの少し暖かい。
「夜の大学って何だか不気味ですね」
昼間は感じないが、誰もいなく明かりもない大学。
確かにちょっと怖いかも。
「そうだな、少し怖いかもな」
大学の近くはアパートだらけ。
もちろん住宅街があったりスーパーがあったりもするが、この大学付近にアパートを借りる学生が多い。どこを見てもアパートが視界に入ってくる。
ま、俺もそのうちの一人なんだけどね。
「つきましたー」
大学から徒歩数分。
ちょうど大学をはさんで俺のアパートとは真逆。
しかも、このアパートは……。
「ここか?」
「そうです、このアパートの二階です」
階段を上がっていく彼女。
比較的新しいアパートは同じような建物が数棟立っている。
正確な数は分からないが、十以上は同じ見た目のアパートが並んでいる。
そして、その一番奥の二階が彼女の部屋だ。
「じゃ、俺は帰るぞ。また学校でな」
階段を途中まで上がっていた彼女は走って戻ってきた。
ん? なにか預かっていたっけ?
「帰るんですか?」
「帰るだろ。俺だって暇じゃない」
「そうですか。少し上がってコーヒーでも飲んでいきませんか? 送ってくれたお礼しますよ」
街灯が照らす彼女の顔は微笑んでいる。
普通の男だったら上がり込むだろう。
「いや、遠慮しておくよ。知り合ってまだお互いの事良く知らないんだ。俺だって男だぞ?」
「先輩なら安全だと思ったんですけどね」
「そう言う軽い気持ちで男に声をかけるな。勘違いする男が増えるぞ?」
「分かりました。肝に銘じておきます。送ってくれてありがとうございました」
「おう、じゃぁな」
ふと彼女の手が俺の袖をつかむ。
「連絡先、教えてください」
同じサークルだし、学科も同じか。
これから連絡も取りあう事はあるかもしれんな。
「夜中に電話するなよ?」
「しませんよっ」
こうして彼女と連絡先を交換し、別れる。
帰りながら、彼女が部屋に入ったところを確認する。
あの軽そうな性格、何となく危険だな。
彼女のアパートから徒歩数秒。
俺は電話を取り出し、コールする。
「もしもし」
『どうした? こんな時間に』
「部屋、いるだろ。今から行ってもいいか?」
『別にいいけど、何か用事でも?』
「特に無い。近くを通っただけだ」
用件も早々に話電話を切る。
彼女のアパートの隣の棟。
階段を上がり、インターホンを鳴らす。
玄関の扉を開け、出てきたのはタンクトップの男。
そして、その手には鉄アレイを握っている。
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