第3話「凶弾」

ザーザー


男「殺す殺す殺す殺す今から追いかけて殺す」ズンズンッ


男「この折りたたみ傘は仕込み銃にもなっている」スチャッ


男「僕と妹ちゃんの仲を切り裂くあのゴミを抹殺してやる。兄が死んだら妹ちゃんが悲しむ? いいや、悲しまない」


男「あの巨傘なら視界は狭い。気付いた時にはもう遅い」ズンズンッ


男「まだ遠くには行っていないはず。どこに……」


巨傘「」チラッ


男「!」


妹「今日も家でゴロゴロしてたの?」


俺「ああ。しかし、妹。このショーウィンドウに飾られた下駄を見ろ。値は張るが、これはいい下駄だ。買ってもいいか?」


妹「ダメ」


男「い・た……♡」ニタァ



コソコソ


男(まずは様子を窺う。隙があればすかさずズドンだ)スッ


俺「何故いかんのだ。いいではないかたまの贅沢くらい」


妹「私が止めないとお兄ちゃん下駄ばっかり買ってくるでしょ。今月はもう今履いてるの買ったんだから終わり」


俺「いや、しかし……」


妹「ダメ」


男(見苦しい。妹ちゃんを困らせて……)ギリッ


俺「……では、こうしよう。この下駄はお前へのプレゼントとして買うことにしよう。常日頃から世話になっておる礼よ」


妹「それなら、いい」


男(いいんかい)


俺「くくっ。決まりだ。会計を済ませてくるよ。少し待っていてくれ」スッ


カランコロンカラーン



妹「……」ザーザー


男「妹ちゃんが1人になった……。ここで彼女を連れ去ることは簡単だ。でも、僕の狙いはあいつの命。店から出てきたところで……」


俺「何が簡単なのだ?」


男「……ッッッ!?!?!?!?!?」ビクッ


俺「くくっ」


男「ど、どうして、いつの間に!?」


俺「何やら怨嗟を感じ取ってな。不審に思い店の裏口からまわらせてもらったよ。そしたら、なんと先程の少年とはな」


男「馬鹿なッ! 下駄の音がしなかったのにここまで接近されるとは! あの音で気付かないはずが……!」


俺「俺くらい履き慣れておれば静音重視で歩くことなど余裕よ」


男「離れろォッ!!!」バッ


折りたたみ傘「」プルプル


俺「……俺に、折りたたみ傘の切っ先を向けるとは。売っているのか、喧嘩を?」


男「そ、そうだ!」


俺「その折りたたみ傘はどこ産だ? ユニクロか? イオンか? はたまたコンビニエンス?」


男「う、うるさいッ!」ハァハァ


俺「図星か」



俺「あれを見ろ」


男「?」チラッ


妹「遅いな、お兄ちゃん」ザーザー


俺「あそこで妹に持たせているあの傘は先程も言ったがアメリカ産よ」


俺「端から勝負にならぬ。退くというのであれば追わぬが、どうする?」


男「い、妹ちゃん……妹ちゃぁん……」ハァハァ


俺「む。妹の名を出した途端、何やら動揺が見られるな」


俺「……なるほど。相合傘の件といい、お前、妹に惚れておるのか」


俺「ならば兄として見定めねばなるまい。あいつに相応しいかどうか。さあ、来るがいい!」


男(僕のことを上から見下してっ……! 思い知らせてやる!)スッ


折りたたみ傘「」スススッ


俺「むっ」


男(はぁっ、はぁっ! 引く! 引くっ! ここで撃てばこいつが死んで妹ちゃんは僕のモノ……! 怖じ気づくな!)ブルブル


男「うらあああああぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!!!」クイッ


ズドンッ



シーンッ


俺「……」シュウウゥゥッ


男「そ、そんな……馬鹿な……」ガハッ


折りたたみ傘「」シュウウゥゥッ


男「何故、奴の内ポケットから……折りたたみ傘が……」ガクッ


ドッサァッ……カランカラーン


俺「奥の手は隠しておくものだ」フッ


男「それも、僕と同じ……仕込み、銃……」カヒューッカヒューッ


俺「アメリカは軍事大国ぞ。当然である。さて、妹を待たせているのでね。そろそろ失礼させてもらうよ。早くこの下駄を渡してやらねば。くくっ。喜ぶ顔が目に浮かぶわ」


男「」


俺「尤も、心臓に鉛玉を喰らっては既にこと切れておろうな。聞こえておらんようだ。では、御免ッ!」ザッ


カツーンカツーン


妹「あ、お兄ちゃん。遅かったね」


俺「うむ。狂犬に噛みつかれてな。ほら、お前の下駄だ。ラッピングにアジサイ。お前に似合うと思ってな」


妹「うん、ありがとう。じゃあ、帰ろ?」


男「」


ザーザー


カツーンカツーン



ザーザー


男「」


パチッ


男「……」ムクリ


ゴソゴソ


消しゴム「」コナゴナ


男「……胸ポケットにこれを入れていなければ、死んでいた。ごめん、君から貰った消しゴムを。でも、ありがとう妹ちゃん」


男「それにしても、あの男……ああも容易く命を奪おうとするなんて。一体どれほどの場数を踏んでいるというんだ……」


男「今の僕では、あの男には勝てない────」


ガサゴソ


男「……ッ! 誰!?」バッ


ヌッ


リア充「男〜、見せてもらったぜ。お前のファイティングスピリッツ!」


妹友「いいもの見せてもらったわ」


男「2人共、見ていたの……?」



リア充「なんかお前様子がおかしかったからよぉ。心配になって跡をつけてたんだよ。そしたらこれだ」


男「……ごめん。僕、勝てなかった」


リア充「いや、すげぇよお前は! あのお兄さんにあれだけ食らいついたんだぜ!? 普通できねぇって!」


妹友「うん! 見直しちゃったわ!」


リア充「で、どうすんの? 妹ちゃん諦めるの?」


男「……」


リア充「ま、仕方ねぇと思うぜ。なんたって、あのお兄さんがいるんだもんよ。諦めも肝心だ」


妹友「うんうん。恋愛なんて女の子の数だけあるって」


男「……めない」


リア充「何? 聞こえなかったわ。聞こえた?」


妹友「ううん。何にも。もっとはっきり喋って」


男「僕は、諦めない! 妹ちゃんを僕のお嫁さんにする! 絶対にだッ!!!」


リア充&妹友「合・格……♡」ニカッ


リア充「よぅし! 特訓だ! 俺達皆で強くなるんだよ!」


男「え、でも……」


妹友「遠慮しなさんな! 協力させなさいよ!」


男「う、うん。ありがとう2人共……」ウルウル


晴天「」ピカーッ


リア充「見ろよ! 雨が上がったぜぇ!!!」ワッ

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