20 幼馴染に彼氏ができたらしいけど1ピコも興味ない



【ほぼ毎日投稿】るあ姫様が斬る!~わきまえなさいッ~

チャンネル登録者数112万人


『はろはろ~ん、ヨウチューブ!』

『〝るあ姫〟こと、瑠亜でぇーっす!』


『今日はねえ、サイっコーなイベントがあったから、みんなにも聞かせてあげる!』


『ずーっと、アタシに気のない素振りを続けてた〝女友達〟がねッ、ようやく白状したの!』

『本当はアタシのこと大・大・大好き! だって♥』

『くふふ。今までずーっと痩せ我慢してたのねッ』

『まったく、無駄なテーコーを。アタシの魅力に抗えるわけないのに。わきまえなさいッ!』


『でもねぇ、このるあちゃん様、そう簡単にはオチないからっ』

『ここでさらに焦らして、焦らして、焦らしまくって――アイツを泣かせてやるッ』

『「もうダメです瑠亜様ボクがまちがってました許してください!」って泣きつくまで、許してやんないんだからッ』


『実はね、そのための作戦も、もう考えてあるのよう』


『みんな、楽しみにしててねん♪』


『ぐふふふふ。あはははは。ハーッハッハッハッ!! ッシャッシャッシャア!』



【コメント欄 1942】

テーブルかけ・1分前

最後の笑いやべえww


るあ様のしもべ2号・1分前

姫様がゴキゲンでなによりです!


ルノアール・1分前

麗しい友情に涙がとまらない


ヨツンバイン・1分前

もっと百合百合して!


真実の狂信者・1分前

ほんとに女友達なの?











 翌日の朝。


 先日と同じく1時間早く登校すると、総合グラウンドにまたもや銀色の髪が揺れていた。


 ジャージ姿すら麗しい我らが生徒会長。


 今日も一人きりで、生徒のために石を拾っている。


「おはようございます」

「おはよう」


 隣にしゃがんで石を拾い始める。


 会長は何か言いたそうに俺を見たが、結局そのまま作業を続けた。


 無人のグラウンドで、美貌の帰国子女と二人きり。


 しばらくして――。


「ねえ、鈴木君」

「和真でいいですよ」


 会長ははにかむように頬を染めた。


「じゃあ、私のことも涼華(すずか)で。ね? 和真君」

「わかりました。涼華会長」

「会長、もいらないのだけれど……」


 なんて、少し残念そうな顔をする。


「昨日の放課後、臨時生徒会を開いて話しあったの。例のバッチ制度は廃止することになりそうよ」

「さすが。動きが速いですね」

「瑠亜さんったら、あの後すぐに理事長室に駆け込んだらしいわ。あのワガママ娘が、誰かさんの言うことは聞くのね」

「へえ。誰かさんねえ」


 あのブタさんが、他人の言うことなど聞くはずはない。


 俺がやったことは、ブタ自身でそう判断するよう、仕向けただけだ。


「昨日の午後は、貴方の話題で持ちきりだったわ。どうしてあんなすごいやつが無印なんだって。それもあって、バッチ制度は意味ないってことになったみたい。……本当、何者なの、貴方は」

「見ての通り、ただの陰キャです」


 過大評価も良いところである。


 会長は手を休めて、俺の顔をまじまじと見つめた。


「和真君は……その、胸の小さな子が、好みなの?」


 昨日の学食で、ブタとの会話が聞こえていたらしい。


「いえ。大きいほうが好きですよ」

「え?」

「決まってるじゃないですか」


 会長は呆れたように小さく口を開いた。


「じゃあ、瑠亜さんに言ったのは嘘?」

「さあ。なんのことやら」

「…………。やっぱり怖い人ね、貴方」


 形の良い唇から、ため息が漏れる。


「でも、どうしてかしら。今はとっても、貴方のことが気になるの……」


 会長の熱い視線を頬に感じる。


「馬鹿同士ですからね。俺たち」

「……ええ。本当、馬鹿ね」


 言葉と裏腹に、その声は優しかった。




 こうして俺たちは、一限目の予鈴が鳴るまで石を拾い続けた。


 新たな朝の日課になりそうである。







 放課後。


 いつものように地下書庫で、甘音ちゃんのボイトレに付き合っていたところ――。


「和真君。お邪魔するわ」


 なんて言いながら、青い瞳の生徒会長が入室した。


 こんもりと盛り上がったブラウスの胸にはもう、金バッチはない。


「噂には聞いていたけれど、こんなところを溜まり場にしていたのね」


 物珍しげに、ぎっしりと並ぶ本棚を見回している。


 そんな彼女に、甘音ちゃんが険しい視線を向ける。


「わ、私たちの部屋に、何か御用ですか?」

「私〝たち〟?」


 甘音ちゃんの視線を、会長は冷たい瞳で迎え撃つ。


「ここは学校の施設であって、一部生徒の私的な場所ではないわよ」

「追いだそうって言うんですか?」

「貴方、声優の皆瀬甘音さんよね? 人気急上昇中らしいけれど、お仕事は?」

「放課後はここで練習するって決めてるんですっ! 和真くんとっ!」


 甘音ちゃんは俺の腕を取り、しがみついた。


 会長は怯んだ様子もない。


「貴方たち、正式に交際しているの?」

「そういうわけじゃないですけど……き、キスはすませてます!」


 おいおい。


 しかし、会長は余裕の態度を崩さない。銀色の髪を涼やかにかき上げる。


「キスごときで占有権主張? 可愛いわね貴方」

「なっ!?」

「そんなもの、帰国子女の私には挨拶程度よ。こんな風に、ね」


 もう一方の腕を取って、俺を引き寄せた。


 ん、と背伸びする声がしたと思ったら――なめらか・つややかな唇が、俺の唇に押しつけられた。


「いっ、いやあああああああああああああーーーーーー!!」


 豊かな声量で悲鳴をあげた甘音ちゃん、ぴきーんと固まってしまった。白目を剥いたままぴくりとも動かない。いや、そこまでショックなの?


 一方の会長はけろりとしたもので、


「ねえ和真君。本棚を案内してくれない? 貴方のお勧めの本が読みたいわ」


 なんて言いながら、俺を部屋の奥へと引っ張っていく。


 本棚の陰で、ぴったり体を寄せてきて。むにゅっ、とたわわを押しつけて。


 頬を染めながら、甘えた声を出す。


「彼女にはあんな風に言ったけれど……実は、初めてだったの」


 なんて、爆弾発言。


「まだ膝が震えてるわ」

「…………」

「責任、取って頂戴」


 すごい濡れ衣だった。


 やれやれ。


 なんだかまた、俺の周りに厄介事が増えたようだ。



 ――と、その時である。




「ごきげんようカズ! アタシが来たわ!! ていうか来てあげたわッ!」



 

 またもや扉が開き、バァン! と入室したのはブタさんこと、ブタ屋敷ブタ亜。


 いつもながらの自信満々余裕綽々な笑みを浮かべているのだが――今日は一人の男子生徒を連れていた。


 彼は困ったような笑みを浮かべて、所在なげにしている。無理やり連れてこられたのが丸わかりである


 俺の姿を見つけると、ブタさんは誇らしげに金髪を揺らし言い放った。




「ふふん! カズ! このアタシに新しい彼氏ができたわ!!」




 ……さて、お勧めの本はっと。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る