5 幼馴染は未練があるようだ
【ほぼ毎日投稿】るあ姫様が斬る!~わきまえなさいッ~
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『はろはろ~ん、ヨウチューブ!』
『声優チューバー〝るあ姫様〟こと、瑠亜ですっ!』
『ん。今日はねー、ムカついたことと、良かったこと、ひとつずつしゃべろっかなー』
『ムカついたことは、大切な幼――じゃなくて、友達が、アタシの目の前でイジメられてたこと』
『なんかさぁ、『これはイジメじゃない、イジリだ!』とか開き直ってて』
『ほら、アタシって正義感強いほうじゃん? そういうの許せなくてー』
『「今度やったら承知しねーぞッ♪ ぷんぷんっ♥」って、圧力かけといたw』
『良かったことはねえ、大好きなカ――じゃなくて、友達の、カッコイイところ見れたことかなっ』
『チョーシのってるクラスメイトに、ビシッとバシッと言ってやっててさあ』
『……マジ、かっこよかった……』
『あ! 言っておくけど! これ女友達のハナシだからね! 男の子じゃないから!』
『女が女に惚れるってヤツよ! アタシ、男子のことコワくて(汗 高校入ってまだいっかいもしゃべれてない(汗汗』
『最後に、業務れんらくー』
『きのう話した皆瀬甘音ちゃんとのお披露目ライブが決まりましたっ』
『日にちはちょっと急なんだけど、10日後の日曜、5月20日!』
『会場はシャインモール1F広場でっす。なんと観覧無料!』
『詳しいことはまたこのチャンネルでお知らせするから、みんな来ってねん♪』
『そーゆーわけで、あなたのアイドル、るあ姫でしたっ♪』
『とーろくとーろく♪ ちゃんねるとーろくー♪』
【コメント欄 1552】
砂糖昆布・1分前
いますよね。イジメじゃなくてイジリだって言い張る人。他人の痛みがわからないのかな。
クラピカミルクティー・1分前
イジメかっこわるい! 姫様さすが!
すいからーく・2分前
その女友達、素敵な人ですねー
ドラコンバール・2分前
百合の波動を感じるっ!
るあ姫の家来A・3分前
ミナセとか言う女、メインの役いっこもねーじゃん。テイカイのごり押し枠?
吉田・3分前
皆瀬氏ね。事務所はもっとるあ姫を大事にすべし。
・
・
・
◆
皆瀬甘音の練習に付き合うようになって、一週間――。
放課後、地下書庫に二人で集まって、毎日彼女の歌とダンスを見せてもらった。
正直、歌は上手いとは言いがたいけど――ダンスはなかなかのものだ。
おっとりしている彼女にしては意外とリズム感があって、なかなか軽快に踊れている。テレビで見かけるアイドルなんかと遜色ないように見える。多分これは、家でも相当練習してるんだな。ダンス用のシューズがボロボロになってるし。
難点は、姿勢が猫背でうつむき加減なところか。
こればかりは、本人の性格によるものだろう。練習したからどうこうなるもんじゃない。
一曲通しての練習×3を終え、タオルで汗を拭いている彼女に言った。
「ダンスはもう、十分なんじゃないかな」
「そ、そうですか? こんなんじゃ、まだまだ瑠亜さんには……」
「アレのダンスは見たことがないけど、そのくらい踊れれば十分上手いと思うよ。それより姿勢がね」
彼女はシュンとなった。
「やっぱり私、猫背ですよね。振り付けの先生にもいつも怒られるんです」
「じゃあいっそ、猫背を活かしてみたらどう?」
「猫背を??? 活かす???」
キョトンとする彼女に、俺は立ち上がって見本を見せた。
「こんな風に手を丸めてさ。にゃーんって」
「にゃ、にゃ~~~ん?」
「そうそう」
前屈みになって、両手で猫の手を作って、鈴が鳴るような声で鳴く皆瀬さん。
……いや、わりとマジで可愛いんですけど。
前髪隠れたままで、この破壊力はただ事じゃない。
「それで、さっきのダンス踊ってみるといいんじゃない?」
「は、はいっ、やってみます!」
彼女は再び踊り出した。にゃん♪ にゃん♪ にゃん♪ って。いや、別に彼女が鳴いてるんじゃなくて、自然とそういう声が俺の耳に聞こえてくるのだ。そのくらい、彼女の猫ダンスはノリが良くて、可愛らしくて、見る者を和ませて楽しませる「何か」があった。
前世は猫だったのかな……。
ブタと猫のユニット。けっこう人気出るんじゃないか? もちろん、ブタさんのほうが引き立て役で。
「にゃんにゃん♪ あまにゃん♪ あまにゃん♪ にゃぁ~ん♪」
あまにゃんにゃん♪
思わず、俺まで口ずさんでしまった。
「はーっ、はーっ……♪」
踊り終わった後、彼女の表情は晴れ晴れとしていた。ようやく自分の武器が見つかった、みたいな。どうやら彼女にも手応えがあったようだ。
「衣装さんに頼んで、猫耳としっぽを作ってもらうといいかもね」
「はいっ!」
笑顔を弾けさせた皆瀬さんだったけど、すぐにシュンと肩を落とした。
「……でも、だめですね。これは、ユニットでは使えません」
「えっ。どうして?」
「瑠亜さんと調和しないからです。声優としての格は彼女が圧倒的に上ですから。私は瑠亜さんの引き立て役に徹しないと」
「ああ、なるほど」
陰キャで内気で、前髪ロングな彼女が選ばれた理由がよくわかった。事務所もバカじゃない。ちゃーんとそこは計算してるってわけだ。
「それに私、歌うのや踊るのは本職じゃないですから。〝声優〟ですから。アニメのキャラクターを演じたいです!」
「なんか、生き生きしてるね」
「アニメ大好きですから! 鈴木くんには、こんな歌やダンスじゃなくて、演技の練習を見てもらいたいです」
なんて、ちょっぴり積極性を覗かせて。
こんな顔もするんだ、彼女。
心の底から、アニメが好きなんだな。声優って仕事が好きなんだな。
……本当、良い子じゃないか。
アイドルじゃなくて、立派な〝役者〟だ。
どうしてこんな子が無名で、ブタが有名なんだろう。声優業界って、そういうものなのか?
「ところで鈴木くん、ちょっと気になってることがあるんですけど……」
「ん?」
彼女は、言いにくそうにもじもじした。そんな風にすると、体操服をぱっつり盛り上げるたわわなモノが強調されて、ちょっと目の毒。
「この前、瑠亜さんと鈴木くんがケンカしたって聞いて。もしかして私のせいですか?」
「へ? いや、全然関係ないけど」
「瑠亜さんとは幼なじみだって聞きました。もしかして、板挟みにさせちゃってませんか?」
「ぜーんぜん」
そもそも、あのブタはもう幼なじみじゃない。ただのクラスメイト。いや、クラスブタ?
「アレとはもう、なんの関わりもないから。なんとも思ってない」
「あんな、綺麗な子なのに?」
「綺麗?」
ああ、そういえばブタさんって意外と綺麗好きだと聞いたことがあるなあ。
「綺麗かどうか知らないけど、俺的にはどうでもいいかな」
すると、彼女はほっと胸を撫で下ろした。
「あ、あのっ。鈴……か、和真くんっ!」
「うん?」
彼女は急に顔を近づけてきた。
前髪からちらっと覗く大きな瞳が、ウルウルしている。いつも見えないだけに、たまに見えると破壊力抜群だな。
「も、もしよかったら、わ、わわ、わたしと、わたしとっ……」
勇気を振り絞るように、彼女が何か言いかけたその時だった。
――バァン!!
地下書庫の扉が蹴破られる。
後光を背負って現れしは、小さな人影。
埃の舞うなかに、きらきらと揺れる長い金髪。
形の良い唇がぎゅぎゅっと吊り上がる。
腕組みをして仁王立ちするのは――1匹のブタであった。
「 浮 気 の 現 場 、 ハ ッ ケ ソ ! 」
…………古っ。
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