4 幼馴染に引導を渡す
昼休み――。
様子を見に教室へ行くと、机と椅子が元通りになっていた。先生が戻したんだろうか。さすがにあのままにはしておけなかったらしい。
「ちょっとカズ、どこ行ってたのよォッ!!」
ブヒーッ! とブタが鳴く音がして、ヒヅメの音高らかにアレが近寄ってきた。
「授業サボって、何サマのつもり? ハゲのやつ超怒ってたわよ?」
しーん。無視。
「ちょっと何無視してんのよ。メッセもブロックするしさぁ。このるあ姫さまのこと無視していいヤツなんて、この世にいねーんですけどぉ? それとも美しすぎるアタシの顔をまともに見たら目ぇつぶれるとか思っちゃってる? 照れちゃってンの? あん?」
そうだな。今も鼓膜がつぶれ、いや腐りそうだよ。無視無視。
「……カズさぁ、昨日のことまだ根に持ってるワケ? あんなのただの遊びじゃん? イジリじゃん? なーにマジになっちゃってんの? ガキじゃあるまいしさぁ?」
で、出た~!! 此不虐唯弄也~!!(漢文)
あれはイジメじゃない。イジリだ(キリッ)。
定番の言い訳、いただきましたー。ハイ、無視続行。
「おい、ネクラ野郎」
のっしのっしと近寄ってきたのは、野球部一年生エース・浅野勇弥。
「さっきらか何シカトかましてんだよ? 瑠亜ちゃんに失礼だろ?」
ニヤニヤ軽薄な笑みをそのイケメンに貼り付けて、俺の肩を小突く。
「おら、なんとか言ってみろよ。それとも怖くて声も出ねぇか?」
いや、呆れて声も出ないんだよ。
爽やかな高校球児様が、学園期待の特待生エース様が、こんなくだらないイジメ、いや、イジリだっけ? まぁどっちでもいいけど――そんなことをやるくらいヒマだなんてな。昼休みもトレーニングとかやんねーの? もっと野球真面目にやんねーの? そんなんで甲子園行けんの? プロになれたとして、大成できんのか? 日曜に誰かさんに喝入れてもらえよ。
そんな俺の侮蔑が伝わったのか、浅野はそのイケメンを醜く歪めた。
「おい、何余裕ぶっこいてんだ、この雑魚――」
「やめなさいよッ!!」
そう割って入ってきたのは、ブタであった。
ムキになって、金切り声で叫んだ。
「カズのことイジっていいのはアタシだけなのよ!」
おもしろおかしく成り行きを見守っていた教室の空気が、一瞬にして凍りついた。
「いい? カズはアタシの幼なじみなんだから。こいつをガチでイジっていいのはアタシだけなの! アンタらがイジるのは、アタシの命令があった時だけ! それ以外で勝手に手出ししないで!! 邪魔しないで! わかった!? わきまえなさいッ!!」
クラスメイトたちは皆、ぽかんとして、人気声優様のご尊顔を見つめている。
ブタは、はぁはぁと息を切らせている。
そんなブタに、俺はゆっくりと歩み寄った。
「なあ、瑠亜」
「……な、なにっ? カズ?」
一瞬、何故か嬉しそうな顔をしたブタに、俺は言葉のハンマーを振り下ろした。
「お前、それ、カッコイイと思って言ってるのか?」
「――――」
ブタの顔が「え?」と固まった。
「バトル漫画なんかでよくある『あいつを倒すのはこの俺だ。誰にも邪魔はさせん』みたいなライバルキャラでも演じてるつもりか? いつから野菜の王子様になったんだよお前」
ブタは雷に打たれたみたいに全身を戦慄かせた。
「いいかよく聞け」
「……な、なによぅ……なんだっていうのよぅっ……」
涙目で後ずさるブタに、はっきりと言い渡す。
「俺をイジっていい、いじめていいやつなんか、誰もいない。お前だろうと、誰だろうと」
「……!!」
「もう俺に構うな。いいな」
俺は鞄を机に置いて、弁当を取り出して歩き出した。
皆瀬さんが、地下書庫で待っているのだ。
教室を出る間際――。
「か、かっこいぃ……ッ」
ん?
今、ブタの鳴き声が聞こえたような気がしたけど……。
ま、気のせいだな。
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