2 腐れ縁を切ったら、自由になった


【ほぼ毎日投稿】るあ姫が斬る!~わきまえなさいッ~

チャンネル登録者数108.5万人


『ぶんぶーん。へろぅ、ヨウチューブ! 声優やってる〝るあ姫〟こと、高屋敷瑠亜でーすっ!』

『ん。今日はねぇ、「いちばんムカついたこと」ってテーマでしゃべろっかな~』


『あーね、アタシね、お昼にね、クラスの子たちとカラオケいったんだけどー』

『あ、もちろん女子だけだよ? アタシ陰キャだからw 男子トカ怖くてしゃべれないしぃ』


『そのときにね、ひとりだけノリの悪い子がいてー』

『ひとりムスッとして歌わなくて。おまけに途中で帰るとか言い出してー。テンションダダ下がり~』

『その子、アタシが誘ったからさ。みんなに申し訳なくてー』


『これ聞いてる臣下のみんなもね? ちゃーんとわかっといてほしいの』

『ひとりはみんなのために、ってコトバ』

『せっかく盛り上がってる場を台無しにするようなこと、ダメゼッタイ!!』

『じゃないと、るあ泣いちゃうからねっ。ぐすぐすっ』


『最後に、業務れんらくー』

『新しいお仕事が決まりました! どんどんどんぱふー』

『同じ事務所・同じ学校の声優・皆瀬甘音(みなせあまね)ちゃんと、ユニット組んで、CD出します!』

『詳しいことが決まったら、またこのチャンネルで告知するから、見逃さないでよ?』


『そーゆーわけで、るあ姫でしたっ♪ まったねぃ♪』

『とーろくとーろく♪ ちゃんねるとーろくー♪』



【コメント欄 1052】

まずい棒・1分前

いるよな、そーゆー空気読めないやつ


ドンガバス・1分前

姫様には我々がついておりますぞ!!


ヘラジカ緑茶・2分前

るあ姫に恥かかせたヤツ、ぶち殺してえ…。


ST・2分前

ユニット決定おめ!


るあたん好き好きマン・3分前

ミナセってだれ? ググってもウィキすらねーし


吉田・3分前

姫の格を下げるような子と組んでほしくねーな








 さて――。


 俺の机と椅子が、廊下におっぽり出されているわけですが。


 こういう時、いろいろと選択肢はあると思う。


 定番行動としては、机を教室に運び込んで、何事もなかったような顔で席に座り、周りの嘲笑に耐えながら心を無にして授業を受けること。おそらくこういう目に遭ったら、八割の生徒がこの選択肢を選ぶであろう。仕方なく。


 残りの二割は、職員室に駆け込むはずだ。


 すなわち、先生に言いつける。


 貼り紙という証拠もあることだし、熱心な先生であれば「いじめ」として取り扱ってくれるかもしれない。大人に頼るとは軟弱なようだが、勇気ある生徒はむしろこちらの選択肢を選ぶのではないか。

 

 だが、俺としてはナイ。この選択肢はナイ。


 理由はふたつ。


 ひとつは、この帝開(ていかい)学園の特殊性。


 もうひとつは、瑠亜が人気声優であることだ。


 創立十年に満たない新設私立高校である帝開は、学校を有名にしようと躍起になっている。部活にも進学にもめちゃめちゃ力を入れていて、入試で良い成績を取った者は授業料免除、スポーツで優秀な者には寮費をタダにしてまで、全国から「特待生」を集めているのである。「イケてるヤツらを集めて学園を有名にしよう」というのがこの学園の方針――いや、『法律』なのだ。


 勉強・スポーツ・芸能に秀でた天才が、上。


 その他凡人は、下。


 このカーストは、ある時は隠然と、ある時は露骨に、この学園を支配しているのだ。


 そんな〝天才学園〟のなかで、今一番知名度があり、もっとも広告塔として目立っているのが、るあ姫様こと高屋敷瑠亜だ。


 普通、人気声優が自分の通う学校名を公にするなんてありえないのだろうけど、瑠亜はふつーに「帝開生」であることを動画でしゃべっている。瑠亜のチャンネル「るあ姫が斬る!」は事務所が管理しているらしいから、学校にも事務所にも公認なのだろう。時々、ファンが校門に押しかけてきて警備員と揉めてることがあるけど、それも学校は「広告費」代わりに思っているのかもしれない。


 それほど瑠亜を大事にしている学校が、俺なんかの味方をするだろうか?


 もちろんNO!


 うちの担任のハゲジジイにしてからが、瑠亜のことを猫かわいがりしている。瑠亜も彼の前では猫かぶっている。陰では「うわーあのハゲジジイキモッ。見られただけで髪の毛ぬけちゃう~」とか抜かしているが、知らぬはおハゲばかりなり。


 そういうわけで、選択肢は「机を教室に戻して、黙って授業を受ける」しかない。


 ――の、だけれど。


 もう、ぼっちで生きていく覚悟を決めた俺には、第3の選択肢がある。


「……これでよし、っと」


 貼り紙にキュキュッとマジックで書き足して、教室の扉に貼り付ける。


 机と椅子を、通行の邪魔にならないよう、廊下の隅にくっつける。


 俺は歩き出した。


 貼り紙には、おハゲ先生にあてて、こう書いてある。


-----------------


おめえの席、ねーからw

――と、高屋敷瑠亜さんに言われたので、ひとりで自習します。


高屋敷さんの命令ですので、ちゃんと出席扱いにしてくださいね。

よろしくお願いします。


鈴木和真

-----------------

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る