第129話 推理

「えー、建国クラブ探偵の部を始める」


 俺はゴーレムから声を出した。


「師匠がんばってー」

「こういうのは得意でげす」

「こんなの強くなるのに関係あるのかよ」

「犯罪を犯すやつの気が知れないな。そんな事したら夜眠れなくなる」

「ラブロマンスなら好きだけど、推理はあんまり期待しないで下さい」


「状況を説明する。論文の盗難事件が四度起こった。容疑者は浮かんだが確証はない」


 俺は今までの経緯を細かく説明した。


「その事件なら知ってるでげす。職員の中でも有名になってるげす」

「強引に逮捕しちまえばいいだろ」

「脳筋はこれだから」

「ミニア、喧嘩なら買うぞ」

「こらライナルドもミニアも喧嘩しない」


 セラリーナはお姉さんみたいだな。


「推理のとっかかりが欲しい」

「スリの達人が紛れているなんてどうでげす。あるいは召喚魔法とかどうでげす。あるいは塵ほどの大きさの従魔なんてどうでげす」

「うーん。いまいち説得力がないな」

「人間はついぽろっと隠している事を喋ってしまうんだよな」


 エイドリクが何やら悟ったような事を言った。

 あー、推理ドラマでは確かにあるな。

 犯人がぽろっと喋っちゃうんだよな。

 そんな都合の良いわけがあるか。

 いやあるかも。


 メイリーンは会った時に確か『枯れてますね。男の子なら透明人間とか透視とか言いそうですが』と言った。

 透明人間なら足音がするはずだ。

 それに金庫はすり替えられた形跡はない。

 消去法で行けば透視だ。


 だが、そもそもの発想がおかしい。

 この世界の人間が透明人間や透視という発想にゼロから行きつくだろうか。

 すくなくとも中世ヨーロッパで透明人間や透視なんてキイワードを言ったら相当発想が豊かだ。

 ならば元から知っていた。

 リトワースの暗部が姿隠しを使うのは裏の者なら知られた事実だ。

 とうぜんメイリーンも知っているはずだ。


 透視はどうだろう。

 まだそういう魔法を俺は聞いた事がない。

 知らないはずの魔法を知っている。

 メイリーンの近くに透視魔法を使う人物がいるはずだ。

 あるいは本人かもしれないが。

 とにかくこれで正解だろう。


 そういえばミニアは金庫も密閉されていないと言った。

 リタリーには電磁波について説明した。

 エックス線か。

 あれエックス線て、金属は駄目なんじゃないかな。


 魔法のイメージを組み立てた。


char xray;

char main(void)

{

 return(xray);

}


 エックス線を意味する魔法語が分からないので意味が無いが、こんなのでどうだ。

 なんか違う気がする。


「師匠、ぼーっとしてどうしたんですか」

「透視魔法の事を考えていた」

「初めて聞いたでげす。凄い発想でげす。それは男の夢でげすな」

「実際の透視は骨が見えるだけだと思うな」

「ホムンさん、実際に魔法を使った事があるような口ぶり。少し幻滅しました」

「いや、魔法は使った事はない。しかし、そうなるだろうなと推測はした」


「暗器が発見できるのなら有用な魔法だ」

「そうだね、暗殺者を見破れるかも」

「そうでげすな。ボディチェックの代わりになるでげす」

「そんな事言ってエッチな事を考えたんでしょ」

「ミニア、追求しないでやれよ。男なら考える事らしいから。今日の建国クラブは解散しよう」


 さてと、エックス線の魔法を調べるか。

 まずは呪文屋だな。


「ライラスさん、久しぶり」

「ホムンさん、今日はなんですか」

「そう邪険にするなよ。透視魔法がないか調べに来た」

「ホムンさんも男性ですね。そういう発想に行き着くとは。しかし、生憎とあてはないですね。どこかの国の暗部なら、そういうのを持っていても不思議ではないですね」

「発動が出来ない呪文っていうのはあるか」

「ありますよ。ただそういうのは叩き売って、すぐに忘れます」

「なんで」

「験が悪いんですよ。呪文てのは祝詞でしょう。発動しない祝詞は呪われている。そう呪文屋では言われています」

「処分するのも験が悪いから、客に押し付けるのか」

「ええ、そうです」


 タルコットの奴。

 ミニアに呪いの呪文を押し付けたな。

 まあ実際は発動しない呪文はしないだけの理由があるから良いんだが。


 タルコットに伝言魔法で文句を言うと、商人が迷信を信じてどうしますかだと。

 ぬけぬけと言いやがって、やはりこいつは信用できない。

 明日はいよいよ再チャレンジだ。

 ミニアに頼んであの教室のOHPに細工してもらった。

 これで真相が明らかになるはずだ。

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