第110話 蟻地獄

「ウィザ、緊急離脱して」


 地震だ。

 これは大きいぞ。

 馬車の列が地割れに飲み込まれる。

 これは死んだな。

 俺はふわりと飛びあがった。

 地割れから離れた所に着地する。

 生きている者を救助しなきゃ。

 地震が収まるのを待ってから地割れに近づく。


「ロッカルダ教授!」

「みなさーん! 誰か答えてー!」


 ミニアとセラリーナが必死に呼びかける。


「おーい」


 かすかな声で返答があった。

 ミニアには聞こえなかったようで、俺はミニアに伝言して知らせてやった。


「セラリーナ、生き残りがいる」

「どうして分かるの」

「ドラゴン的な耳」

「ドラゴンが何かとらえたのね」


 ずざーと地すべりのような音がする。

 見るとでっかい蟻地獄が出来ていた。

 くそう、さっきの地震は魔獣の仕業だったのか。

 こいつを倒さない事には救助もままならん。


 蟻地獄底に魔力十万のファイヤーボールを打ち込む。

 ファイヤーボールは底で掻き消えた。

 ちくしょう魔法防御なんてありか。

 仕方ないので筋力強化の魔法を発動する。

 ミニアに降りてくれと伝言魔法した。


「無理しないで」

「ガゥ(分かってる)」


 俺は蟻地獄の底に舞い降りた。

 どうやって引きずり出してやろう。

 その時、魔獣が顔を出す。


 こんにゃろモグラみたいな顔をしやがって。

 そう思ったら至近距離で火球を吐かれた。

 ずるいぞ。

 こっちの火球は打ち消して、そっちは撃ち放題かよ。


 体表で火球が爆ぜる。

 痛てぇなぁ。

 もう許さん。


 俺は鼻面にみついた。

 魔獣は鳴き声一つ上げない。

 みついたままで、地上に引きずり出してやる。

 後ろ足に力を込めた。

 その時金属のワイヤーが幾重いくえにも身体に掛かった。

 何、こいつ生き物じゃないのか。


 電撃を流され俺は意識が朦朧とした。

 駄目だ。

 気を失ったら。


「ウィザァァァァ!!」


 ミニアの絶叫が聞こえる。

 最後に一目ミニアを見て死のう。

 そう思って薄れ行く意識で見ると、ミニアは何を思ったのか光ながら祈っていた。

 電撃が突然止まる。


 ワイヤーが外され拘束が解かれた。

 突然の展開に戸惑っていると、ミニアが蟻地獄を転げるように降りてきた。


「これ鍵だったみたい」


 ミニアはサークレットを指差した。


「この魔獣モドキのか」


 俺は魔法を使い喋る。


「そうみたい」

「ちょうどいい。こいつを操ってみんなを助け出してやってくれ」

「うん」


 魔獣を地下に引っ込むと地割れに飲み込まれた馬車を一台一台地表まで出した。

 馬が何頭か骨折しているな。

 壊れた馬車も半数近くある。


「みんな、テキパキ行動する」


 ロッカルダが馬車から出てげきを飛ばした。

 負傷者が手当てされていく。

 幸い、死んだ者は居ないようだ。

 生徒達は悪運が強いな。

 いや、悪運が強いのはミニアか。

 持っているというのはこういう事を言うのだろうか。


 主人公体質とでも呼んだらいいのか。


「なんでサークレットを被ろうと思った」


 俺はミニアに魔法を使い言った。


「だって、ウィザからのプレゼントだったから、これを着けて応援しないといけないって」

「ありがとな。今回は助かったよ」

「これ、どうしたら良いと思う」


 ミニアが指差したのは魔獣モドキ。


「古代のゴーレムなんだろう。眠らせてやったらどうかな」

「うんそうする」


 ミニアがゴーレムに触り何かすると、ゴーレムは地中に姿を消した。


 その後は何もなく魔法都市に帰る事ができた。

 ふう、やっと帰ってこれたか。

 今回の旅は波乱万丈だったな。


 んっ、何だ。

 ミニアが豆腐ハウスの前で俺に含羞はにかむ様に一枚の金属板を差し出してくる。


「サークレットのお返し。プレゼント」


 見ると呪文が書かれていた。

 『ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・モチキニソ・けモセレ・モセほチミカニろモチキニソろモチノイゆヌワワよレ・む』と書いてある。

 短いけど、解析してみる。


void main(void)

{

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=anti_magic_make(100); /*対魔法障壁を作る*/

}


 逆を意味する『チミカニ』という魔法語が知れたのは大きい。

 良い魔法だ。

 ミニアはどこでこんな物を手に入れたんだろう。


「ミニアどこでこれを手に入れた」

「んっ、乙女の秘密」

「乙女の秘密かぁ。乙女の秘密ならしょうがないな。」


 いつか話してくれるだろうから、その時を待とう。

 来週から確かテスト期間だな。

 魔法学園の授業は単位制で試験に通れば単位が貰える。

 ミニアは多分、幾つか受けるのだろうな

 今度はカンニングなしだ。

 実力でやってもらわないとな。

 そうしないとミニアが成長しない。

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