第109話 遺跡あと

 陣地の穴がふさがれて、とりあえず応急処置は出来たようだ。

 本格的な補修は一週間後に来る生徒がやるとの事。

 いいかげん森を見ているのにも飽きたからいいタイミングだ。


「ウィザ、おねがい」

「ウィザさん、お世話になります」


 ミニアとセラリーナが俺の鞍に乗る。

 お嬢様方シートベルトをよろしく。

 馬車の列は森を出て荒野を行く。

 その後を俺は足音を立てない何時もの歩方でついて行く。


「前から思ってたけど、ウィザさんて揺れないのね。調教するのに手間が掛かったでしょう」

「ドラゴン的な気遣いのたまもの」

「その信頼感がこの驚異的な乗り心地を実現したのね」

「その通り」


 荒野は見る物が無いかというと何やらカラフルな草がたまに生えている。

 緑や赤やオレンジや紫の草は分かる。

 青い草っての何なんだ。

 まあ良いかそういう色素だっていうのだろう。

 花だって青いのがあるからな。


 荒野の草食動物は気が荒い。

 兎が進化したと思うのだが。

 ほっそりとした足に腕。

 長い胴体を持って、顔は兎という奇天烈な生き物が、もの凄いスピードで走り回る。

 2メートルの長い胴体はまるで兎がチーターになったかのようだ。

 どこが気が荒いかというと馬車に平気で体当たりしてくる。

 時速100キロぐらいで猛然と突っ込んでくる。

 もちろん魔法などは間に合わない。

 荒野は見晴らしだけは良いので、見つけたら剣士が対処する。

 バッターよろしく。

 構えてスイングで一刀両断。


 荒野兎と名前がついているが、とても兎のメンタルじゃないと思う。

 俺にぶち当たってくるのは無視だ。

 ハムスターがじゃれているのと変わらん。


 だが、荒野兎を殺すと血の臭いに誘われてギガントスコーピオンいうのが出てくる。

 こいつらはスピードも遅いのだが、地中に隠れているので発見が難しい。

 おまけに固い。

 それにでかい。

 3メートルはある。


 先頭の馬車が停まる。

 また、荒野兎か。

 どうやら違うようだ。

 この先にギガントスコーピオンのコロニーがあると伝令が伝えに来た。

 伝言魔法は便利なんだが、魔力を使うので極力使わない。

 こういう時の伝達方法は昔ながらの伝令だ。


「ミニア、ドラゴンをコロニーに突っ込ませて」


 ロッカルダが馬車を降りてミニアに頼みに来た。


「ウィザ、行ける?」

「ガル(大丈夫だ)」


 俺はわざと足音を立ててコロニーを歩いた。

 ギガントスコーピオンが何事かと一斉に巣穴から飛び出てくる。

 ギガントスコーピオンは俺の足に針を突き立てようとしたが、もちろん俺の足に突き刺さる事など無い。

 ふとサソリは美味いという前世の知識を思い出した。

 俺は手近にいた一匹のハサミをもぎ取りバリバリと噛み砕いた。

 美味い、まるで上等なカニだ。

 カニ食い放題だ。

 俺は気づかない内に全てのギガントスコーピオンのハサミだけを食っていた。

 ふー、食った食った。


「ドラゴンが攻撃力を奪ったから、後始末するよ。無事な尻尾に気をつけて」


 ロッカルダが生徒達に指示を出した。

 生徒が一斉に呪文を唱え始める。

 火球が着弾し始めた。


 俺達は邪魔にならないように少しはなれた所でぼんやりと見ていた。

 エイドリクのブラックホール魔法が炸裂する。

 バキバキとギガントスコーピオン数十体を巻き込み砕いた。

 無双しているな。


 ライナルドも負けてはいない。

 盛んにナイフを飛ばして、一撃必殺で確実に仕留めていた。


 ロッカルダが剣の舞いを踊りながら、火球を放つ。

 剣で尻尾を無力化され止めの火球を受けてはギガントスコーピオンも生き長らえないようだ。

 鮮やかなもんだ。

 一人で前衛と後衛をこなすなんて反則だろう。

 さすが教授だな。


 程なくして、全てのギガントスコーピオン息絶えた。

 攻撃が尻尾だけで単調なので、怪我をした生徒はいないようだ。




 コロニーを抜けて一時間。

 目的地の遺跡跡いせきあとに着いた。

 そこは石の柱が乱立する所だった。

 この石の柱が建物の一部だったのか、巨大な装置の一部だったのかは分からない。

 なんとなく古代のロマンを感じる場所だな。


 そこで各自お弁当を広げるようだ。

 良い匂いが漂って来た。

 ギガントスコーピオンをたらふく食ったから涎は垂れないが、なんとなくうらやましい。

 ミニアが気を利かしてくれて、パンに肉を挟んだ物を俺の口に放り込んだ。

 美味いが、圧倒的に量が足りない。

 その時俺は光る物を見つけた。


 何だろう。

 近寄って爪でほじくると、どうやらサークレットの様だ。

 俺には小さすぎて意味が無い。

 ミニアを呼ぶ。

 ミニアはサークレットを着けてみるつもりのようだ。

 それを着けた途端、ミニアに後光が灯る。


「ガオン(大丈夫か)」

「これ、ただ光が出るだけの玩具みたい」


 それならミニアが使えと伝言を送る。

 ミニアが手を振ると光のオーラが残像としてしばらく残る。

 滅茶苦茶、派手だな。

 ミニアが女王をやる時にこれを着けたら威厳がでるかもな。


 さあ、後の日程は帰るだけだ。

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