第76話 初めての講義

 教室は四角い部屋で前世の学校と変わらない印象を受ける。

 教壇に黒板にチョーク、何もかもが懐かしい。


「では、第一回目の呪文学1の講義をはじめます」


 授業は五段階ある。

 呪文学1の単位をとらないと呪文学2の授業は受けられない。

 卒業にはもちろん五段階目の単位が必要だ。


 呪文とは何かとチョークで黒板に大きく書かれた。

 そうだ、深く考えた事がなかったな。

 ワクワクしながら続きを見る。

 神が設定した法則であると書かれた。

 講師が『ヒラニシ・モチニミ』と書いて『モチニミ神』に捧げる祝詞であると書いた。

 えー、俺はプログラムだと思う。

 だって法則がまんま何だもん。


 祝詞だなんて定義するから、呪文の改造は禁忌だなんて説が流行るんだ。

 宗教だとすると俺が呪文をぽんぽん作り出すと、異端だとされそうだな。

 どうしたもんか。

 自然な流れで改造が悪ではない事を証明しないとな。

 今のままだと呪文学でミニアが教授になるのは難しいだろう。


 講義の内容は新しい呪文創造の話へと続いていく。


「言葉の組み合わせは禁忌ではありません! 新しく分かった呪文があります!」


 『リニキクカろカイトカゆよレ』という呪文がこの学院で100年前に大発見と書かれた。


 うん、『light_test();』だな。

 そんなのが大発見なのか。


「『カイトカ』が初心者ですのでお手柔らかにと言う意味ではないかとされています」


 鍛冶魔法、ポーション作成、小物作成などなどが判明と書かれる。

 俺にとっては意味のない授業だな。

 意識をティの感覚共有から逸らす。


 つまり組み合わせなら問題がないのだな。

 出典が提示できれば呪文改造も問題ないのか。

 それなら、大丈夫だろう。

 少し安心した。


 でも、変数は作り手が勝手に決めたい。

 そこの改変が認められないなら大変厳しいな。

 そうだ、リタリーに教えたファイヤーボールの変数は好き勝手に設定したぞ。

 リタリーはどう言い訳したんだろう。

 ティの感覚共有に意識を戻すと授業は終わっていた。

 ミニアにリタリーに言い訳をどうやったのか聞いてほしいと伝言した。


 ミニアがリタリーに伝言を送ったようだ。

 しばらくして、発掘した呪文で通したと言っていたとミニアが伝言を寄越した。


 そうか、発掘した呪文なら縛りがないよな。

 でも二つならそれでも通るが、これが三つ四つとなったらどうだろう。

 しかも、その呪文に使われている単語が、全く新しい物ばかりともなれば、もの凄く疑われるに違いない。


「次の講義まで間があるから図書室に行かない?」

「うん、行く」


 セラリーナが尋ねてきて、ミニアが返答した。

 図書室には興味がある。


 図書室は入り口近くに貸し出しカウンターがある。

 そして、本を読むための机と椅子があって、奥には本棚がずらりと並んでいた。

 どこも図書室は同じ様な作りだな。


 ミニアに呪文の本を探せと伝言魔法する。

 苦労してミニアが探し出してきた三冊は初心者用の本だった。

 内容は今まで知っている呪文ばかりだ。

 俺はたまらなくなって司書に質問してくれと伝言する。


「魔法関連の本を探している。もっとないの」

「生徒さんね。魔法は呪文屋で買うものだから。教授のみ閲覧できる書庫に魔法があるけど、生徒は立ち入り禁止ね」

「そんな。ウィザを喜ばせようと思ったのに」


「ミニアはお金持ちなんだから、今度、呪文屋に一緒に行きましょ。しょげない、しょげない。でも、なんでウィザ」


 打ちひしがれるミニアをセラリーナが慰めた。


「どうしたの。何か困っているようだけど」


 際どいセクシーな衣装を見に纏ったお姉さんが話し掛けてきた。

 歳のころは二十代後半か。


「魔法の新しい呪文が欲しかった」

「そうなの。なら、遺跡ね。魔法も手に入るし。魔獣を倒して魔力もアップで、一石二鳥よ」


 ミニアの言葉にお姉さんはそう答えた。


「ミニア、遺跡は危ないよ。良く考えて」

「私の講義を受けに来たら、いいわ。戦闘力がみるみる上がるから」

「講師なの」


「近接魔法学の教授、ロッカルダよ」

「ミニア、テイマー」

「魔法使い志望のセラリーナです」


「ミニアって、建国宣言のミニアよね。あなた、凄いわ。ここまで言い切った人は今まで居ないから」

「ドラゴン的な手助け」

「そうだったわね。ドラゴンテイマーなのよね。試験後、調査をした職員があまりの規格外さに青くなったそうよ。従魔学の教授なんか卒倒したとか」


 俺は疑問をミニアに伝言し始めた。


「近接魔法学って何?」

「簡単に言うと武器を振るいながら魔法詠唱する学問よ」

「普通に行うのと、どこが違う」

「リズムよ。リズムが基本にして奥義。魔法詠唱は歌。武芸の型は踊り」


 おお、歌いながら踊るのか、どこぞのアニメみたいだな。


「私は遠慮したいかな」


 セラリーナが申し訳なさそうに言った。


「ダイエットと便秘に効果があるわよ。異性にも、もてもて」

「えー、絶対に後で行きます」


 何かがセラリーナの琴線に触れたらしい。


「分かった。後で行く」


 ミニアも興味を持ったみたいだ。


「待ってるわ」


 近接魔法学は俺には必要ないな。

 ミニアは最近、運動不足だったから、ちょうどいいかも。

 確かに意味の分からない呪文も歌にしてしまえば、覚えるのも楽だ。

 剣の型は踊りか。


 前に話に出ていた少数民族の教授というのはロッカルダの事なのだろう。

 歌と踊りを生業にする民族なんてありがちだ。

 ロッカルダは作曲と振り付け師の才能があるんだろうな。


 魔法学園の授業は単位制だ。

 試験さえ通れば講義に出なくても良い。

 試験を受けに来る人数が増えると教授や講師の給料が上がる仕組みなのだとか。

 簡単な問題にして合格率を上げると人気が出そうだが、他の教授のチェックが入るらしい。

 他の教授は自分以外の教授の人気が下がった方がいいから、試験は難しめになる傾向だとか。

 如何に試験の人数を増やすのかが肝みたいだ。

 ロッカルダが宣伝していたのも頷ける。


 ミニアには頑張って貰いたい。

 ミニアがロッカルダとお近づきになれば呪文を教えてもらえるかも。

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