第13章 生徒のドラゴン

第75話 入学式

 今日は入学式。

 講堂に新入生は集められた。

 お偉いさんの挨拶で始まる所はどこも一緒だな。

 校歌や国歌が歌われる事がないのが少し寂しい感じがする。

 在校生の挨拶は普通だな。

 いよいよミニアの新入生代表の挨拶だ。


 ミニアが壇上に上がるとちっこいとか可愛いとか声が上がる。


「私は五年以内に建国する。我と思わんものは名乗り出ろ。家臣として優遇してやる」


 このミニアの宣言に会場は沸いた。


「手始めに、この学園の教授になる事も宣言する」


 そう言ってミニアの挨拶は終わった。

 何だってー。俺は聞いてない。

 ミニアが考えたのか。

 違うな。

 誰の入れ知恵だ。

 セラリーナは違うだろう。

 リタリーも違うような気がする。

 グバートはもっと違うな。

 あれ、誰だろう。

 まあ、人集めするにはうってつけの宣伝だから、良いだろう。


 式は無難に終わった。

 セラリーナと連れ立って歩いていると十五歳ぐらいの少年がミニアの前に立ちふさがった。


「どんな大口、叩いても、俺はお前の事を認めないぞ」

「誰?」

「6502番だ」

「それが何か」


「銅色で書いてあっただろ。入学試験三位のライナルド・ゴールダーだ」

「それで」


「カンニング入学だと聞いたぞ。カンニングの仕掛けは師匠がしたと。お前は何もしてないじゃないか」

「ドラゴン的な人脈のどこが悪い」

「そのドラゴンだって師匠にもらったに違いない」


「あなたが勉強する金は誰が出した」

「そんなの親に決まっているじゃないか」

「私は自分で出している。この都市で使ったお金は全て冒険者になって稼いだ物だよ」

「そんなの詭弁だ。勝負だ。勝負しろ」

「冒険者Bランクの私に実戦で敵うとでも」

「魔法の試射だ。この学園に魔法の威力を計る古代魔道具がある。それで勝負だ」

「やる」


「ミニア、こんな奴に負けちゃ駄目よ。あなたは人一倍苦労している。私が保証するわ」


 セラリーナがそう言って励ました。


「うん、負けない」


 魔法試射場は地下にあって、10メートル間隔で線が何本も引かれていた。

 一番奥には銅鑼に似た道具が備え付けられている。

 あれが魔法の威力を計る道具だな。


 10メートルの線にライナルドが立った。


「俺からやる。俺の本気を見て腰を抜かすなよ。ヒラニシ・モチニミゆヒラニシよ・が・

ニミカ・ニレ・

ハラスゆニほワレニねヌワレニれれよが・

ハニスイろコチリリろカイトカゆよレ・む・む」


 おお、これは懐かしの十連続弾。

 火の玉が次々に銅鑼に当たり、最後に50の文字が空中に出た。

 ええと威力5のファイヤーボールが十回だから50か。

 計算は合っている。


「どうだ、驚いたか」

「ふん」


 ミニアは鼻で笑うと、コンパイルした魔法を放った。

 イメージはこんなだ。


void main(void)

{

 char orbit「10]; /*軌道データ*/

 int i; /*カウンター*/

 MAGIC *mp; /*魔法定義*/

 mp=fire_ball_make(300); /*魔力300で火の玉を作る*/

 for(i=0;i<1000;i++){

  magic_straight(mp,orbit,sizeof(orbit)); /*真っ直ぐの軌道データを入れる*/

  magic_move(mp,orbit,sizeof(orbit)); /*火の玉を動かす*/

 }

}


 巨大な火の玉が銅鑼に衝突する。

 出た数字は300。


「こんな馬鹿な。そう言えば詠唱していない。さては魔道具だろう。ずるいぞ」

「冒険者は生き残った者が勝ち。手段は問わない」

「俺は認めない。覚えてろ」


 そう言うとライナルドは去って行った。


「さっきのは魔道具ではないわよね。魔道具だとするとSランク魔石が必要よ。古代魔道具だとすると国宝級だわ」

「ドラゴン的な秘術」

「想像するに。ドラゴンの火の玉ブレスを転移させたのね。アイテムボックスも開くのに魔力は殆んど要らないって話だから。後で話せたらお願いね」

「うん、約束する」


 ミニアはセラリーナと別れてタルコットの所に行った。


「これは、これは、ミニア様。魔法電卓がもの凄く売れています。大ヒット商品の予感ですな。類似品もないようですし、笑いが止まりませんな」

「今日は入学の報告に来た。学園内に一軒屋を支給された」

「ロラシーを派遣しますので、使ってやって下さい。たぶん、一人だと掃除もままならないでしょうから、この街で人を雇って一緒に仕事させます。何、御代は要りません。魔道具の儲けだけでメイドの十人を十年間は雇えます」

「助かる」


「代表の挨拶はどうなりました」

「喝采の嵐」

「それは、ようございました」


 こいつか。

 こいつがミニアにあの挨拶を吹き込んだ奴だ。

 要注意だな。

 魔道具の納品に行った時に違いない。

 ティを連れていかなかったからな。

 セラリーナとリタリーとはティ抜きで自由にやらせてもいいが、こいつは駄目だ。

 今後、会う時にはティを必ず連れていくように言おう。

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