第27話 秘宝の護法印

 遺跡から発見された過去の遺物について、しばしば「当時の技術力では造り出す事が出来ない」と言われるような品々も出土する。

 が、端的に言えば当時造られたからこそ、そこにあるのだから「どうやったら造れるか?」を検証するのが妥当ではあろう。

 ただし、その遺物がは保証されなければならない。人間によって捏造された歴史や、史実の創作は寧ろ頻繁に行われる。

 例えば、歴史の教科書にも載った古墳調査上の大発見とされた遺跡は、年代の違う石器をバラ撒いてから「新発見だ!」と公表した者の捏造であった。

 この出鱈目をその当初から検証、批判していた人物は、罵詈雑言を浴びせられ、その正しさを証明するまで長い年月が掛かったという。

 嘘や詐欺で話題を提供し大規模なデマで金を集めると、最早関係者も捏造の共犯関係となるので、真実や正しさなどは、連中が使い込んだ資金や得た利権の前には尻拭き紙の価値もなくなる。

 そう、発覚していないだけで、とんでもない偽史を我々は未だに信じているのかもしれないのだ。

 皆も知る様に、白瀬中尉は南極にあった巨大な割れ目に落ち、地底世界ペルシダーを発見したのはあまりにも有名だ。私はインターネッツに詳しいんだ。

 あ、こら、何をする!

 あの本の作者が、B29で日本を空襲しなければ、私のひいひいひいじいちゃんばあちゃんも死ぬことはなかったんだ!

 古事記にもそう書いてある!


 初の依頼に、思わぬアダマンタイト級冒険者との邂逅と、午前中の冒険者組合での出来事は大きかった。特にレイナースは、解呪に向けてモモンとの約束を取り付けられた事は快挙だ。

 ただ、これで満足してはいられない。

 冒険者証はカッパー。帝国の実績は兎も角、級としては下っ端なのだ。実績を積まなくてはならないのは、変わらない現実である。

 とは言え、緑風とディーちゃんの能力で、冒険者志願の力量解析はかなり細かく行えるらしく、全員が銅から開始するのではなく、個別の級割り当てや、チーム平均の級から依頼を受けられるようにしても良いのでは、という案も出ているそうだ。

 ただ、現場で実力を発揮出来るかは経験の差も大きく、銅から級毎の段階を踏まずに冒険者の仕事を始めると、下積みの不足や常識の欠如で失敗して命を落とす危険は増す。その危機は依頼する段階から、組合としては減らしておきたい。

 当然、中には"漆黒"モモンのように飛び抜けた天才もいるが、あくまでも例外の英雄だ。大多数の者は知識を備え、経験を積み重ね、繰り返される研鑽を経て、自身の血肉としていく。

 なので、以前よりも力と経験を考慮して依頼を割り当てているようだ。

 力も経験もない、力はあるが経験がない、経験はあるが力はない場合は、変わらず銅級から地道に。

 力も経験もあると判断された場合のみ、平均級相当の依頼をする。レイナースたちは銅級であるが、帝国騎士としての実績や全体の力量から、平均を白銀級プラチナかミスリル級と判断されている。だから危険なカッツェ平野の依頼を、初回から回せたのだった。

 実際問題、銅級や鉄級アイアンの仕事がほぼ無いという現状もあるが。

 組合での要件が終わると、多くは街に繰り出した。

 神殿に向かう者、繁華街を見て回る者、組合に聞いた冒険者の道具屋に行く者、魔術師組合に向かう者、道を歩く女の顔を見ると鬱憤が溜まる為に住居へ戻る者、放って置くと絶対に厄介な事になる我儘なお嬢様の世話係を皆から任された者、と目的も色々である。

 一応、このエ・ランテルで技能習得や訓練所などの場所や方法を聞いてみたのだが、組合からの返答は「冒険者としての知恵や情報ならば此処で教えてはいるが、帝国四騎士に技を教えられるような者や訓練所は、今の所はない」といったものであった。

 レイナースは屋敷へと戻ると、付き従ったロイド、ラーキンと住居前で組手をしつつ、帰宅した者に街の話を聞く事を続けた。

 曰く。

 道具の品揃えは、帝都は勿論のこと帝国に一歩譲る。向こうで用意してきた物で現状は充分。ただ、回復薬は高品質なのも並んでいた。近郊の村で造られる品が良い為、都市でもそれに負けじと職人の腕が上がっているらしい。

 神殿では、帝国の神殿、特に魔導国の冒険者になる者とは距離を取る様子がある。さらに、ホッドの事は王国領の頃には知れ渡っていたので、言葉は丁寧であれ断固たる関係の拒絶があった。「ボクが何をしたと⁉」とはホッド談。

 魔術師組合はほとんど休業状態。冒険者組合と肩を並べてはいるようだが、詳細は不明。ただ、組合員を募集している点で、今後は活動を広げる方針ではある様子。

 露店で持ち帰りの肉焼きとお菓子を買って来た、と言う事で味見をしつつ休憩を取る。

 その後は、魔法詠唱者マジック・キャスターを中心に接近戦を想定しての訓練。カッツェ平野の霧は何故かアンデッド反応があり、思わぬ強襲を受ける事があるので、その対策。

 夕方を前に、二人の男が訪問。

 サントアッド商会の募集に応じた、住み込みで働く者たち。持ち物は、お互いに大きな荷物袋のみ。

 壮年のオロフ・サレンド。エ・ランテルの貴族邸の使用人であったが、当の貴族は逃げ出したものの、行く当ても金もないオロフは都市に留まり、職探しをしていた所、商会の募集を見る。

 青年のジャン・ドーロルフ。行政区の文官宿舎の料理人で、やはり残された者。街でも店に働いていたが、こちらの条件の方が良さそうだと判断し、応募。

 先ず初めにレイナース達への挨拶となったが、すぐに現れた執事に案内されていった。オロフはノーラックの、ジャンはエルトの下で説明を受けている。

 イナンウ夫妻の負担は、これで減るだろう。

 夜、服を着替えたオロフとジャンは再度、皆の前で紹介され正式に勤める事となった。掃除や調理にと手伝っていたエメローラたちも、冒険者の仕事に専念できる体制に近付ける。

 明日からは依頼もあり、準備を済ませると早々に眠りに就く。レイナースは、右顔が疼くものの、悪夢を見る事なかった。

 翌日、カッツェ平野に向かう六名は早くに組合に向かい案内人と合流、エ・ランテルの開門と同時に墓守の街へと出発した。


 王国と帝国がカッツェ平野のアンデッド対策の為に、共同で維持をしていた街である"墓守"は、魔導国の建国による影響は少なからずあった。

 ただ、魔導国の財政がどうなっているかは知らないが、エ・ランテルから冒険者が来るのは相変わらず続いている。建国当初は混乱が予想され、帝国騎士団からの追加派遣があった事でこの街が全滅するような事態にはならなかったが、そもそもアンデッドであるアインズ・ウール・ゴウン魔導王が"墓守"の必要性を理解してくれるのかなど人間には知る由もないのだった。

 魔導国巡回警備は、野良アンデッド(?)が警戒網に入れば容赦なく滅する。が、それ以外には特に反応もしない。魔導国が積極介入する訳でもなく、初期の不安渦巻く現場の状況を除けば、旧王国領の態勢に戻りつつあるように見える。

 エ・ランテルからは冒険者、帝国からは騎士が主に派遣され、アンデッド討伐に精を出す。今は帝国側の警備強化のおかげと、魔導国冒険者の激減で街の勢力図は大きく変わってはいるが、魔導国の者に高圧的に絡むような騎士はいない。

 エメローラたち六名は、組合から案内役を引き受けてくれた商隊の荷馬車列を警護しながら、その街に向かっていた。商人たちは、今日荷を届けて街に一泊し、明日に次の運搬内容を聞いて回り、その後に都市へと帰る。

 この予定にピッタリと併せて、エメローラたちも行動する。“墓守”でやる事は御用聞きではなく、アンデッド討伐ではあるが。

 街に到着後は、先に向かっている王国領時からの冒険者“虹”と協力して、仕事の段取りを覚えて欲しい、という事だった。最も、「君たちの方が知っている者も、現地にはいるがね」と組合長が言っていた人物に、心当たりは誰もなかったが。

 しかし街に着き、アンデッド防護柵に守られた頑強な外壁の上から平野を一望すると、カッツェ平野の霧の中でもその巨体が見えた。

 スコットが一目見て呟いた「あれって、闘技場の武王じゃないか?」の一言で、理解した。確かに、帝国の人間の方が彼を知っているだろう。

 武王が手にした棍棒を振るう度に、複数体のが飛び散る。

 その背後にも複数人がおり、周囲のアンデッドを牽制したり、飛行する化け物を打ち落としたりと武王を的確に援護していた。

「おそらく、背後を固めているのが“虹”だろう」ロイドの予想。エメローラもその動きから、彼らの熟達した連携を見て取れた。

「…我々、いらないんじゃないです?」とマリク。

 見れば、武王並みの巨体が宙に舞っている。霧の上空にまで打ち上げられたのは、アンデッド化した丘巨人ヒル・ジャイアントだろう。

 圧倒的とは、まさにこの事である。

「そうも言ってられませんよ、我々にも面子はありますからね」マリクの呆然とした問いに、別の方向から声が掛けられた。

 そちらには帝国弓兵隊の一人がいる。階級章から、この部隊の小隊長だろう。

「…“重爆”様が、魔導国の冒険者となられたと言う噂は、真実のようですね」

 小隊長はロイドを見ながら話す。向こうは、こちらの事を知っているのだろう。

 戸惑うサン以外が、肯定し頷く。

「我々の働きぶりも、見ていただきましょう。交代の鏑矢を放て!」

 小隊長の声に、弓兵の一人が矢を放つ。ヒュウウウッ、と高い音が鳴り響くと、瞬時に霧の中の集団が後退を始める。同時に、壁門にて待機していた騎馬隊が、開門されると周囲に展開、武王たちを守りつつアンデッドへと攻撃を仕掛ける見事な動きだった。

 冒険者らが帰還すると、再び門は閉じられる。

 騎士たちは討伐しつつ、規定の巡回に移行する。弓兵隊は変わらずの防衛任務で、街に近付く亡者を射ち滅ぼすため、監視を続けている。

 ぶふー、ばふーと荒々しい息が聞こえる。

「ここまで体力が落ちるとは、不甲斐無いものだな…」呼吸を整えながらの、武王から悔しそうな声が聞こえる。

「…あれでか? 一度死んで蘇った奴の言う事は違うね、呆れるよまったく」隣を歩く男が首を左右に何度も振る。

 帝国騎士と交代した皆は、門の近くに用意された休憩所で、用意されている食事や飲み物にありつく。この"墓守"に人間の椅子はあっても、戦妖巨人ウォートロル用の物は無いが、武王はデカい丸太のテーブルに腰掛ける。

 その様子を見ながら、スコットが「さて、挨拶に行きますかね」と軽く皆を後押しする。エメローラが頷き、全員が冒険者たちの所に向かう。

 兜を脱いだ巨人と、連携の確認をする五人に向かって話しかける。

「失礼します。冒険者の"虹"の皆様を探しているのですが?」

 エメローラの問いに、男の一人が応える。

「俺達がその"虹"で合ってますよ。話は聞いています、帝国からまたまた優秀な人たちが来たってね。はじめまして、モックナックです」手を差し出してくる。

「こちらこそ、ウォルタユンと言います。皆様、よろしくお願いします」握手をして、挨拶も済ませる。

「武王と言い、四騎士の率いる冒険者と言い、俺達もうかうかしていられないな」

 モックナックが仲間を振り返れば、不敵な笑みを皆が浮かべる。挑戦へのやる気が感じられる、いい表情が揃っていた。不安そうな都市住民とは違った反応。

「俺は闘技場を離れた身だ。最早、武王ではない、…が他に何と呼ばれるのがいいのか、まだ分らんな。しかし、帝国の四騎士とは話に聞く強者。手合わせをしたいものだな」

 武王の戦意に、ロイドが受け流す。

「この場にはいない。それに、我らが主を失っては、冒険者になった甲斐もなくなってしまう」

「そうか、残念だ。…帝国の闘技場や、さらに東の地では、闘いの競技があるそうだが、この地でもないものかな」

「あんたに出られちゃ、遠慮したいね」スコットの軽口に"虹"の皆も、そりゃちがいない、と笑う。先程の、アンデッドとの戦いを見ても、強さが解る。この巨人を倒すには、飛行して<火球ファイヤーボール>でも連発しなければ無理だろう。

「まぁ、あんた達に話を戻せば、俺達と共にカッツェ平野の討伐巡回さ。もう少し休ませてもらったら、打ち合わせをして出発しよう。それまでは、この休憩所の中に出現するアンデッドの名前や頻度が書かれているから、頭に入れておいてくれ」

 エメローラは「わかりました」と、皆で中に入り怪物共の情報確認と対策を話し合う。やがて、"虹"の皆も交えて打ち合わせを進め、その後に街の門から呪われた地に向けて発つ。

 初めは"虹"が巡回路を先行し、エメローラたちが援護。帰還したら、今度は自分たちが先に進み、モックナックたちの支援を受けて戻った。

 以外にサンが積極的に攻撃に行く。暴力的な物に忌避感があるかと思われたが、その馬鹿デカい棍棒を振り回す姿に躊躇は無い。森司祭ドルイドとしては、戦い方が危なっかしく、軽い反撃は幾度か受けてはいたが。

(トロンは気にしていた様だけど…)心配ないのでは、とエメローラは思う。

 ロイドもスコットも余裕を持って全体を支えているし、エメローラ自身もアンデッドには強さを発揮できる。マリクも戦闘に関してかなり柔軟な対応をするし、ピヨンも前衛としてしっかり役割を果たしていた。

 夜は、特殊な夜戦装備をした者たちが門の周辺を防衛する中、非常時には動ける用意をしつつ休む。明けてから、今度は武王と組み集まって来たアンデッドを倒していった。

「有能な冒険者が増えるのは心強いが、多過ぎるのも参るよなぁ。あんた達、あと七人もいるんだよな?」

 困り顔のモックナックに、不敵な笑みを返すロイド。"虹"からの評価は、「任せて問題なし」だった。

 昼食後に商人たちと合流し、"墓守"での初仕事を終えてエ・ランテルへと帰る。支援あってのカッツェ平野一日体験だが、腕慣らしには丁度いい。最も、強大なアンデッドも出るので油断はできないが、レイナース達にも良い報告が出来るだろう。

 一班の帰還後に、情報を引き継いで二班が向かう……と、そんな依頼の流れだと想像していたが、報告に向かった冒険者組合から「こちらを」と渡されたのは、日付の書かれた番号札だった。

「…これが、次の依頼でしょうか?」エメローラの問い。

「はい、書かれております日の時間に、組合までお越しください」受付の回答。

 ピヨンが「いったい、何が始まるんです?」と聞くと、「内容までは、判り兼ねます」と困り顔が返ってくる。

「組合から来い、と言われたんだ。その日に聞けばいいさ」

「そうですね」

 本当は、何についての集まりなのか、具体的に知りたいのだが、受付の反応を見るに職員の側も把握はしていないようだ。となれば、組合の上、魔導国からの要請かもしれない。

 ともあれ仕事は完遂した。

 住居へ戻りながら、通り道の店で今回の消耗品やらを買い足す。「この魔都の生活にも、慣れるもんだねぇ」スコットの独り言に、皆が同じ気持ちを抱く。

 初日のおそれや不安も、都市での残酷な事件もないままに、カッツェ平野以上に危険なアンデッドが蠢くエ・ランテルに帰って来るという、この奇妙さ。

 改めて、不思議な国が出来た物だ、とエメローラは実感する。


 魔導国冒険者組合の一室にが並んでいるのは、絶景でもあり、畏怖でもあった。

「ここまで強力なマジックアイテムが、これほどの数!」と、「…これ、一個でもなくしたら、俺達はどうすれば?」という思いが綯交ないまぜになる。

 ラケシルの顔には感動の方が大きいが、アインザックの表情は固い。

 この部屋には現在、冒険者組合長と魔術師組合長に緑風の三人のみであった。

 先日訪れたモモンが、今日持ってきた宝箱に入っていた物について、知る者が少ない方が今は良いだろうとアインザックは判断したが、この秘宝群を前にすれば誰もが思うだろう。

 一つでも盗まれたら…、と考えると、肝が冷えるどころか凍り付く。

 ラケシルの方はと見れば、一つとして他人には渡したくないという本心が露骨に発揮されてきた。涎を垂らさんばかりに興奮している。

「すげぇな…。いや、ほんと、何だよオイ。モモン殿の魔封じの水晶には及ばないとしても、知識にない物ばかりだぞ…? これが全部、俺の物に…?」

「違うぞ?」暴走し出したラケシルを、アインザックはたしなめる。

 これに並ぶ品々に、また嘗め回されたりでもしたら、たまったものではない。

 だが、ラケシルは居ても立ってもいられず、片っ端から道具鑑定の魔法を掛けては「すげぇ!」と歓喜する事を繰り返し始めた。あの様子では、魔力が尽きるまで続けるだろう。

 アインザックは溜息を吐くと、緑風に向き合う。

「これを冒険者たちに、ですか? はっきりと高額に過ぎるマジックアイテムばかりで、心が惑わされるような事が起きぬとも限りません」

 現在の魔導国で冒険者の脚抜けは許されていないが、周辺国の基準で言えば他国に行くのも自由だ。その考えを改めていない者が、持ち逃げをする可能性も懸念される。

「その時は、厳正に対処する事になってしまいますね」

 緑風としては当然の事だ。アインザックは、何度も冒険者たちに、この魔導国の組合規約を確認させないと駄目だな、と心に決める。これは彼らの命も守る事になるだろう。

 魔導国がどの様に逃亡者を追跡するかは知り得ないが、逃げおおせる者がいるとは到底思えない。また、規律を破った者がどうなるかも。

「これらの一覧表リストはここにあります。誰に何を渡したか、また引退時には返却の確認をお願いします」

 表を受け取りながらも、責任重大だと肩が重くなる。と言って、子供のようにはしゃいでいるラケシルに管理を任せると、彼がやりそうな事は一つ。だ。こうすれば、裏切り持ち逃げは心配せずに済む。

 魔導国からの指示は果たしていないが、安全だ。アインザックも、寧ろ見なかった事にして魔導国に返却したい。こんな稀少な宝物の数々なんて、預かりたくないのが本音だ。魔導王陛下から戴いた短剣ですら、身に余るというのに。

 だが、管理責任者が逃げ出す訳にもいかない。

「ここに在る物は効果を把握していますので、選定には協力できるでしょう。多くの冒険で経験を積んで欲しいというのが、アインズ様のお考えですので、冒険者の方々への期待も大きいですね」

 組合長は「入ったばかりの新人に、これは重い、重過ぎるんですよー! 相場も考えてくださいよー!」と叫びたかったが、ただ黙って頷くに留めた。

 冒険者、いては人類に期待されているというのは、素直に感謝がある。

 アインザックも、冒険者組合長として、この都市の住人として、更には、"漆黒"のモモンの心意気を想う人として、エ・ランテルの人々を守りたいのだ。この部屋で狂喜乱舞しているラケシルは、守る対象外にしつつ。

 この日、「すげぇ!」の声が何度も組合に響き渡った。

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