第21話 補充

「ないものはない。しかし、必要ならば作るしかあるまい。」

「わたしにお任せください! 面倒な事をして作らずとも、入手は容易というものです」

「ほぅ、ならば任せよう」

「はい、これに揃いましてございます」

「むむむ、早いものだな! 如何な魔法を使ったのか?」

「オークションサイトでございます。金に糸目をつけなければ、これこの通り」

「なんと、普段の値段の何倍を払ったというのか? こんな馬鹿げた振る舞いは、狂気の沙汰と言う他ない」

「仕方ありませぬ。では、別の手といきましょう」

「おぉ、これはまた大量に仕入れたものだ。しかも金は要らぬとな?」

「えぇ、近隣の医療施設という施設から頂戴してまいりました。金銭を支払っては、わたしの苦労も水の泡というものです」

「性根の下劣な者は、浪費するにせよ、簒奪するにせよ、およそ節度というものがない。言語道断なる蛮行しか成せぬとは、外道の道ではないか。人の道を歩まねば、人を救う事など到底叶うまい」


 とぼけたように中庭に視線を逸らせる執事を余所に、レイナース・ロックブルズは集まった皆を再び見渡す。

 エメローラ・ウォルタルン。

 ロイド・ハチマヌ。

 ゼファー・ロボスーノ。

 パメラ・ドルメラエ。

 ホッド・トモッコ。

 スコット・ジャンジー。

 ピヨン・ゴルチウサ。

 ザイン・スイサンク。

 サン・ノーベル・アカンカスタ。

 トロン・コナマリムネ。

 ラーキン・ス・ジルコナ。

 マリク・コウサザン。

 限られた期間、条件の中で見出した者たち。不思議の縁で同行するに到った者もいるが、今回の敵は時間だ。何よりも早さが欲しい、今すぐに向かいたいというのが本音だ。

 そうした焦りを察知するように、歪んだ右顔が前髪の下で蠢いた気もする。少しの間だが左目を閉じて集中し、湧き上がる感情を抑え込む。

「各自、私が言いましたように行動なさい。早速、始めますわよ」

 ザファーに口を押えられ、失神しかかっているホッドを、ロイドとスコットが運んで行く。とりあえず今は不安要素の排除に専念すべく、自身も修練場に向かう。

 エメローラはザインと共に、ラーキンとマリクの二人に屋敷を案内する。

 他の者は、ノーラックの現実逃避が終わるのを待って、彼の指示を仰ぐ事となる。多くは屋敷内の品々の整理と要不要の分別、または厨房の手伝いであり、レイナースの考える二人一組体制を実践する試みは、日常からすでに始まっていた。

 ただ、阿呆スコットを使った事で、馬鹿パメラも動けるようになるのだった…。


 夕食を前に、入浴を済ませますわ、という屋敷の主の言葉によって、夕方には浴場に湯が張られレイナースが浸かっていた。

 その間に馬鹿と阿呆の紐を解き、元テーブルクロスの残骸を剥ぎ取る。髪は乱れ着ている物は下着だけの二人は、あわれと言うよりもあまりにバカバカしくて、「お前らは本当にしょうがねぇな」と笑いを誘った。

 昨日今日会ったばかりの新規組にとっては、騎士団の先輩であったり、元奴隷で且つ文化的に馴染みがなかったりと当惑していたが。

 レイナースが浴場から上がると、「次、あたしー!」とパメラが突撃し、ロイドがエメローラとアマンダに彼女が羽目を外さないよう監視を任せる。

「あんたら女もまとめて行ってきな」と、ゼファーがピヨンとサンにも風呂を勧める。

 何か逡巡する二人に、トロンが「ザインさんは含まれていませんので、入浴ではないと思います」という話をすると、何かを納得して連れだって行く。「ボクの案内も必要でしょう?」とホッドまで。

 ゼファーとスコットにまで羽交い絞めにされて尚、ホッドは諦めようとはしなかった。「こいつは本当にまったく何一つ成長しなかったな…」と、気絶させられるまで執着を見せていた。

 女たちと交代で、今度は男たちが浴場に向かい湯に浸かる。

 ホッドは湯に投げ込まれて目を覚ます。その後は恨み節だった。

「まったく理解できませんね! ボクは女性に仕える為にいるのですよ?」

 力説しているようだが、周りの誰も分からない理屈だ。女好きのスコットですら「それってただの助平じゃねーか」と呆れている。服を着たまま入れられた為に、ぴちゃぴちゃと水滴を垂らしながらホッドは喚く。

「ボクは女性たちの下に戻りますよ! 女性を崇拝すると言う事がどういう物か、全員の前にお見せしましょう! <清潔クリーン>!」

 魔法で汚れと水気を消し去ると、さっさと浴場を出て行ってしまった。

 そんなくだらない話のせいなのか、やたらと上気した顔になる皆にロイドが「少し早目に上がろうか」と提案する。腹も減っているし、異議はなかった。

 ただ、異変が起こった。

「…何か聞こえませんでしたか? 重い物が落ちたような」とトロンが言う。

「ああ、聞こえたな」と、スコット。ラーキンも頷く。

 野伏レンジャーたちの察知。詳細は不明。「昨日のに続いてか、おい?」とゼファーがスコットに聞く。

「俺は知らねぇよ」とスコット。

 夕食の席へと向かう途中、廊下の真ん中とその向こうの角に誰か倒れている。

 真ん中のは、酒瓶が刺さった尻だけを突き上げて突っ伏している男。服装から先に出たホッドだろう。その先に倒れているのは……

 ラーキンがはじかれる様に動いた。

「アマンダ! うっ…⁉」

 妻の名を叫び駆け寄るが、短い呻き声を上げて、足が縺れ彼女の手前に倒れる。

 ゼファーとロイドも近付こうとして、スコットとトロンに止められる。何を、とゼファーは言う前に気付いた。

 廊下の角から、摩訶不思議な仮面がこちらを覗き見ている。しかし、すぐに仮面は引っ込んで行った。

「アレは…火吹き男ひょっとこの面?」呟く声がする。

「知っているのか、マリク?」ロイドが尋ねる。

「ええ、かつて"口だけの賢者"と呼ばれた牛頭人ミノタウロスが発案したマジックアイテムでお面と呼ばれる物の一つですよ。装備者はあのお面の尖った口部分から、火を吹く事が出来るようになる」

 マリクの言葉に、ザインが疑問を口にする。

「でも、あの人は倒れたぜ? 火ではなかった」

「…別の攻撃をしたか、それとも火以外のものを飛ばせるように改造したのか、それは物を調べてみないと判りませんね」マリクの予想と結論。

 ロイドが、静かにしろと合図をし、スコットとゼファーに手信号で「先行し確認」を指示する。廊下の角に二人が着き、確保の手信号が示されると、ザインとマリク、ロイドとトロンに分かれ、感覚を開けて後を追う。

 すり抜ける際にホッドの様子を見れば、顔を床に付けて寝ていた。とりあえず放置して角に行けば、スコットとゼファーが次の確認と安全の確保に向かう。トロンに後方の警戒を指示し、倒れている二人を見る。

 ロイドがザインに「二人は?」と聞けば、「両方、眠っています」と返ってくる。次いでマリクに「魔法の反応は?」と聞く。

「錬金溶液だと思いますが、魔力反応があります。…前の二人には、触るなと言われましたが調べないのですか?」

「スコットがそう言うのなら、罠が仕掛けてあるかもしれん。無理に起こすよりも元凶の排除だ」

「…元凶って、女性ですか?」とザインが聞いてくる。

 ロイドは首を縦に振る。個人でも乱交宴会すら可能と言われる"一人乱痴気騒ぎの夜会ワルプルギス"パメラ・ドルメラエの仕業だろう。

 でしたら、と後ろからトロンが忠告する。「水にも注意してください」

「女難と水難か…」ザインのぼやき。

「水? 酒もか?」

 ロイドの疑問に、トロンが「含まれるでしょうね」と応える。

「まったく。あいつは、酒が絡むと…」悪乗りをするんだ、。そして、過去にも一緒に馬鹿騒ぎをする者たちはほぼ決まっていた。そう、

 ロイドが「離れろ!」と叫ぶのと、のは同時であった。

 その液体が体に触れただけで、強い酩酊感に襲われる。ロイドが周りを見れば、ザインもトロンもマリクも浴びてしまったのか、床にしりもちを付いていた。倒れたラーキンも、不意打ちでこれを喰らったなら抵抗も出来なかったのだろう。

 そして、調変なお面を被った女が姿を現す。アマンダはスコットの援護に走り、ゼファーの怒号が聞こえた。

「パメラ、ふざけ過ぎだ…」朦朧としながらも、ロイドは非難する。

「実戦でなくてよかったでしょ?」パメラの微笑。

 確かに戦いの場でなら、こちらは全滅だ。しかし、そういった度が過ぎる悪ふざけの言い訳を聞きたいのではない。

「…酒に魔法薬を混ぜたのか?」

 パメラは手にした瓶を喇叭飲みしながら笑う。

「残念ね、昨日の物とも違うわよ? あんたたちが自ら浸かったでしょ? あの錬金溶液の入った浴場に」

「む…」無念、とまでは言葉にならなかった。

 お面の口から針状の物が飛んできて、ロイドは意識を失った。


 カラカラと車輪の転がるような音。

 コツコツと床を革靴で歩く音。

 人の気配。

 肌を包む寒気。

 誰かが近くを通ったような感じがして、ホッドは目を覚ます。途端に頭痛が襲ってきた為に意識はあるが、思考はぼんやりとしたままだ。

 先ほど感じた人の姿もなく、辺りはどんよりと暗い。

 空は白んでいるものの、雲っているのが窓から見える。

 今は廊下の真ん中で唯一人床に這い蹲っていた。

 痛む頭を押えながら周りを再確認すると、昨日と同じ様に尻に瓶口が入れられている。その事実に気付いた直後、猛烈な異物感と痛みがしてきた。

 静かに、だが力を少しづつかけていき、ゆっくりと瓶を尻穴から引き抜く。

 ボクは、いったい何故、こんな事を…? 昨日の記憶もないが、目の前の事実だけがやはり重く心に圧し掛かってくる。こんな姿を誰かに見られたら、これからの人生を本当にどうすればいいのだろう?

 尻から抜いた瓶を片手に、恐る恐る廊下を進む。

 頭と尻の痛み以外に空腹もあったが、目的は寝泊まりにと用意された大部屋だ。今は集中して治癒魔法を行使できる場所に行きたかった。

 どこかで朝の準備をしているだろう物音が聞こえてくる度に驚きながら歩んでいると、多くの空の酒瓶が置かれているのを見つけ、持っていた瓶をそこに並べる。

 ふぅ、と息を吐き、天井を見上げた時、が目に入った。

 天井から三つ、何かが垂れ下がって……いや、刺さっている。

 人の頭が天井にめり込んでおり、首から下がぶら下がっていたのだ。

 男が一人、女が二人。

 常なら、神殿に居た頃ならば、女性たちを大声を張り上げつつ助けただろう。だが、ここではこうして放置されているものに手を出せば、事は何となく理解はしている。

 やると言ったら、それが屋敷の主だ。

 ホッドは、先ず己の万全を期すためだと、その場を離れた。決して見捨てるのではない、と二人の女性に詫びながら。


 その日は曇りであったが、何事もなく朝が始まり、屋敷の人々も活発に動き出す。

 執事も使用人も用意をし、主の部屋が破砕音と共に揺れ、皆も起きては身支度を整え、朝食を摂り、それぞれの仕事に取り掛かる。天井に刺さったままの三人だけ除いて。

 サントアッド商会の幌馬車に荷物を載せ昼前に一度送り出す。

 持ち物の少ない森妖精エルフや希望者に、屋敷の処分品から必要な物は与えるようにした。

 ホッドは変わらずの特訓。ゼファーとピヨンが担当する。

 昼食。

 食事が終わると、訪問する者が重なった。

 秘書官のマルドが、帝国銀行に預金のあった者で引き落としを望んだ分をすべて運んで来たのだ。大型馬車に警備兵も付き、屋敷の金庫に運び込まれる。

 ほぼ同時に、執事が昼前に頼んでいた修繕魔法屋が、天井から垂れ下がっている人間を見て口を開けている。

 パメラ、スコット、アマンダの回収、及び屋敷の修繕。

 アマンダはすぐにラーキンと、森妖精エルフ二人の帝都の付添いに行く。屋敷では揃わなかった生活必需品の購入に向かわせた。

 執事には、商人クフガルア・サントアッドが荷運び等の打ち合わせに来る。

 ホッドは、パメラとスコットを加えて特訓。担当にザインとマリクが増えた。

 ロイドとエメローラは屋敷の手伝いに奔走する。

 そして、レイナースが夕暮れ前に特訓を切り上げると、マルドに何事かを告げる。そして、秘書官は帝城に戻っていった。

 すでに夕食が用意されていた。集まった順に食事を終えると、広間に全員を向かわせる。

 今日はパメラもスコットも大人しかった。

 昨日の狂態の件ですでに懲りていたピヨンとザインは、二人の様子には逆に不安があった。ザインがロイドに聞く。

「いったい、何が始まるんです?」

「多分だが、お前たちへの贈り物だろう」

 ロイドの言葉に、ピヨンもザインも警戒を強める。

「…何かの隠語ですか?」ピヨンの疑惑。

「そうじゃないさ」ロイドの苦笑。

 やがて執事に連れられて、クフガルアとその警備と思われる連中が、大きな金属製の箱を三つ運んで来た。商人はレイナースに挨拶をする。

「このような時間に失礼いたします、ロックブルズ様。今夜はお預かりしていました物をお持ちしましたので、何卒ご容赦ください」

 腰が直角に曲がらんばかりに深く礼をするクフガルア。警備の一人が書類を出し、執事に渡している。他の警備は、頑丈な箱の錠前を手にした鍵で外していた。

 重い解錠の音が広間に広がる。

「今までよく保管してくれましたわ。ノーラック、中身を出して箱を返却するまでに、明日以降の確認を」

「かしこまりました。こちらの一覧表は、どなたに確認していただきますか?」

「エメローラ、パメラ、マリク、表を受け取り、確認しながら作業をなさい」

 ほーい、とパメラがノーラックか書類を受け取る。執事は、商人とその警備の者たちを連れて部屋を出る。

「皆で中身を箱ごとに並べなさい」レイナースの号令。

 金属の箱は商会所有のマジックアイテムで、屋敷の引っ越しにも使っている物を、頑丈かつ大容量にした物である。

「これは」と、書類と中身を見たマリクが驚く。三つの箱の中身はすべてマジックアイテムだったのだ。

 武器。

 防具。

 装身具。

 帝国魔法省には勿論これ以上の魔法の品々がある。しかし、個人でこれだけ所有しているのは珍しいだろう。宿る魔力が強かったり、アダマンタイト製の物はさすがにないようだが、オリハルコンやミスリルが使われた物はある。

「並べ終えたのなら、先ずはザイン、トロン、ピヨン、サンから一人五つほど選びなさい。他の者は表と照らし合わせながら、身に着けるのを手伝ってお上げなさい」

 ザインが戸惑いながらレイナースに尋ねる。

「…ロックブルズ様、本当にこれを、その…使っていいのですか?」

「あなた方をそのままで連れては行けませんでしょう?」

 ザインらは、帝国騎士としての装備を退団時には当然帝国に返還しており、現在は個人で所有していた物しかない。ピヨンもザインも短剣程度しか持っていない。

 トロンとサンにいたっては、今日ようやく自分の下着を買えたくらいだ。戦闘に関する物などありはしない。

「しかし、あまりに高価と言いますか…。いえ、ありがたいのは勿論ですけど…」

「早く選びなさいまし!」レイナースの怒声。

「はい!」と返事をして並べられた武器に走るザインと、続く三名。

 ピヨンは槍斧ハルバードに小剣、ミスリルの鎖着チェインシャツの上に鉄の全身鎧、魔法抵抗微弱の指輪。

 ザインは刃先がオリハルコンの斧、円形の盾ラウンド・シールド、暗視効果小の面当て付き鉄兜、鋼鉄の鎧、麻痺耐性小の指輪。

 トロンはミスリルの弓、魚鱗の鎧、静音の長靴ブーツ、気配隠しの外套コート、幻惑耐性小の腕輪。

 サンが一つの武器を凝視している。

「気になります?」エメローラが声をかける。静かに頷くサン。

 見つめる先には、自らの身長ほどはあろうかという木の棍棒クラブ

「これは討伐したオーガの族長が持っていた物でしたね。巨人特効があったはずですよ」エメローラの記憶。おそらく彼女たちが関係しているのだろう、ここに集められた武具は。

巨人殺しジャイアント・バスター…」サンが呟きつつ手に取ると、魔法の力で大きさが変わっていく。思ったよりも軽い。それでも、持ち手と比べて随分とに見える。

「…これにします」

 サンは棍棒クラブ、ミスリルの額冠、皮鎧、敏捷性向上の革帯ベルト、毒耐性小の首飾。

「次は、ホッドとマリクですわね。お二人はすでに持っている物もありましたし、三つほどでいいかしら?」レイナースはロイドを見る。全員の装備品は、一応調べさせてある。

「マリクの持ち物はバランスもいいのですが、問題はホッドの変な妄言ですね」

「妄言?」とレイナース。

「この男は妄言しか吐かないでしょう?」

 首を左右に振るホッド。

「悲しい理解ですね。ボクは女性崇拝者であり、平和の使者ですよ? この美貌を隠しすような物は、ボクを見る女性に申し訳がない。そして、野蛮な武器など持つ必要もないのです、平和を願う心の前にはね」

 白い歯を輝かせるホッドに、「ほらよ」とゼファーが武具を押し付ける。寝言の間にレイナースが選んだ物だ。

「喋る間に付けてみなさいな。拒否するなら殺しますわよ」

「なん、だと……?」あっさりとこだわりを無視されるホッド。

 結局、銀の鎚矛メイス小型の盾スモール・シールド、矢除け効果微小の鉄兜を渡される。

 マリクの方は興味津々で探し回るが、自らは装備出来ない物も観察しているのは知的好奇心からであろう。レイナースの視線に気付き、慌てて短剣類を見る。

「自前の杖もありますが、これにします」

 選んだのはミスリルの短剣。他に、混乱耐性小の耳飾、精神集中の指輪。

 レイナースと残りの六名は一つづつ選び、持っていく物を一覧から消して、残りはすべて箱に戻す。これらは、レイナースの配下だった者たちが後日集まった時に分配される手筈になっていた。

 クフガルアを呼び、箱には再び鍵がかけられる。

「また頼みますわね」

 レイナースの言葉に商人は笑顔で礼をする。

「確かに承ります。それでは、今晩はありがとうございました。またのご利用をお待ちしております」

 クフガルアは警備の者と屋敷を出る。

 みんな、特にピヨンらは興奮していた。

「昨日の夜はもう散々だったけれど、これはまた…凄い感動があるわね」

 手にした槍斧ハルバードを確かめる。これが夢や幻ではない事を願って。

「…まぁ、向かう先がヤベェからな」

 ザインの余計な一言に意気消沈する。トロンも似たような表情をしていた。

 それでも、新しい武装は予想以上であったのは素直に喜べる。今夜は上手く寝付けないだろうと思えるほど、歓喜が湧き立つ。

 しかし、ピヨンの寝不足への心配は杞憂に終わった。

 就寝に向かった女性陣の大部屋で、パメラが服の下から魔法のように取り出した酒によって。「寝酒だー!」と飲まされた強烈な一品の効き目は凄まじく、即座に轟沈した。

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