第3話 リア充を異世界に召喚したとある女神とそこの住人達の末路(その3)

「……次はないと思いなさい。この疫病女神が」


 小悪党の小ボスみたいな小物セリフを、上司の大女神に吐き捨てられた部下の女神Aは、ズタボロにされたあお向けの身体で、天界の神殿内に戻った上司の背中を、怨霊さながらの目つきで睨みつけました。

 自衛隊の攻撃ヘリ群に殺されかけながらも、かろうじで天界に生還し、そこで同僚の女神Cにまた治療してもらったのに、その上司によってまた同じ思いと状態にされた挙句、リア充Aの蔑称をそのまま二つ名として授けられたとあっては、一入ひとしおでしかありませんでした。


「……あのクソ上司、いつか絶対に殺す……」


 その恨みつらみを、三度治療を受けるハメになった同僚の女神Cに、洗いざらいぶちまけました。ぶちまけられた女神Cは、喫煙者の排煙よりも迷惑な表情で眉をしかめながらも、「今度こそしっかり仕事しなさい」と忠告すると、そそくさと自室の治療室を後にしました。

 全快した女神Aは、同僚の冷たさに、殺意に似た感情が、上司に続いて芽吹きましたが、それでも、三度失敗すれば、天使への降格は確実なので、今度こそしっかり仕事せざるをえませんでした。


「……けど、いったいどうすれば……」


 今まで一度も無意識でもしっかり仕事したことがない女神Aは、新たな赴任先へ、三度向かいながら、思案に苦慮していましたが、到着するなり、


「来るなっ! 疫病女神っ! この世界から出ていけっ!」


 眼下の王都の広場に集まっているこの異世界の住人から、着任したばかりの女神Aの追放運動に直面しました。

 現地の種族に関係なく、この異世界の人口のほとんどが、広場を含めた王都の内外に集結して、「出ていけ、疫病女神っ! お前にこの世界は守れないっ!」のシュプレヒコールを、某大国の大統領就任式さながらの大音量と規模で実行していました。

 またまたパルプンテ状態に陥った女神Aは、それを引きずったまま現地の異世界住人の一人に、その理由を尋ねると、女神Aが担当した異世界は必ず滅ぶという事実を知らされたからでした。

 滅亡したそれぞれの異世界に、その瞬間を偶然にも居合わせていた流浪の魔導士に。

 それを聞いた女神Aは、その後、尋ねた相手から、隣に立つ流浪の魔導士を指し示しされて、視線を向けると、その流浪の魔導士に詰め寄って問い質しました。


「なんでそんなこと知ってるよっ!?」


 驚愕の表情と口調だったのは、異世界間の転移術を使えなくした異世界住人なら、現地の職業ジョブや種族に関係なく、絶対に知られるはずがない事実たからでした。だが、「アンタ以外の女神に伝授されたからだよ。天界では禁止されているらしい異世界間転移術を」という流浪の魔導士の返答に、さらに仰天しました。しかも、その女神が、当時は平の女神だった、今では大女神まで昇進した、他ならぬ自分の上司である事実が判明すると、仰天が激怒に裏返りました。その上、教えた見返りにレアアイテムを要求されて手渡した事実も知らされると、激怒に高回転の拍車がかかりました。


「あのクソアマァッ!! 絶対にぶっ殺してやるっ!!」


 無論、リア充Aにそれを与えた自分のことなど、光年単位の距離の棚に光速で上げてます。

 一方、女神Aは女神とはとても思えない宣言と暴言を聞いた異世界住人たちは、流浪の魔導士が伝えてくれた内容が事実だと判明して、こちらも激怒しました。それに先立ち、流浪の魔導士に問い質した女神Aのそれに、その事実を認める内容だったことも気づくと、これも激怒に高回転の拍車がかかりました。


「もう女神には任せられないっ! オレたちの世界は、オレたちが守るんだっ!」


 国領を統治する現地の王様をさしおいて、異世界住人の一市民が大声を上げて鼓舞すると、他の市民たちも賛同の歓声を上げました。そして、自分たちの世界は自分たちの力で守るべく、その場で行動を開始しました。

 誰一人見向きもされずぞろぞろと散開していく任地の異世界住人たちを、独り広場に残された女神Aは激しく困惑しました。そんな勝手をされては、これも女神の業務規程違反に抵触してしまうからでした。悪魔や自衛隊に抵抗むなしく殺されるなまだしも、わざわざ殺されに行く無謀な暴挙を看過したら、なんのための勇者召喚魔王討伐システムなのか、その存在意義が激しく問われるため、やはり抵触します。当然、女神の地位は危うくなります。


「……これじゃ、天界に納める現地からの貢ぎ物ノルマすら達成できない」


 もはや最適なな勇者召喚の選別方法を思案するどころではなくなった女神Aは、予想だにせぬ天使降格の危機に、ゼロ距離で直面しました。通常なら天界の女神に言われるがままだったこれまでの異世界住人たちは、必至に保身をはかる女神Aの制止をガン無視して、魔王軍討伐の準備を続けました。無論、実力行使での制止も業務規程違反なので、見せしめに何人か殺害して思いとどませるわけにもいかず、その最中で思いついた最適な勇者召喚の方法を、それをよそに実行しました。


「転生術なら、転移術とちがって、あの悪逆な勇者を誤って召喚する恐れは、絶対にないわ」


 女神Aは、天界や仏界にリストアップされている物質界での死者の霊魂から、勇者の資質が豊富なそれをチョイスし、任地である異世界住人の妊婦の胎児に転生させた直後、魔王軍が襲来しました。


「かかって来いっ! 魔王軍っ! お前たちの好き勝手にはさせないぞっ!」


 ちょうど準備が終わった異世界住人たちは、魔王軍を迎え撃つべく、総動員レベルの人数と最新の装備で王都を進発し、決戦の地へおもむいて激突しました。

 戦死者率99・99%の損害を出して惨敗、大敗、完敗を喫したのは、激突から間もなくでした。


「おいっ、なんとかしろっ、疫病女神っ! こういう時のために天界から派遣されたんだろうがっ!」


 女神Aの赴任早々から勇ましいセリフを、その女神に叩き続けてきたその異世界住人は、落武者さながらの姿で、セリフだけは勇ましい要請を、転生した勇者育成中の女神Aに叩きつけました。


「なに勝手なことを言いまくってんのよォッ!!」


 妊婦の家で叩きつけれた女神Aは、勝手なことをしまくって返り討ちにされた自業自得なこの異世界住人に、同情などするわけがなく、その真逆のセリフで叩き返しました。誤差ゼロの予想通りな事態だったので、さもありなんでした。

 だが、これ以上の口論に発展させる猶予や余裕はありませんでした。

 戦死者率ほぼゼロで快勝、大勝、完勝した魔王軍が、その勢いのまま王都まで攻め込んできたからです。

 胎内に転生させた将来勇者になる胎児が、妊婦ごと悪魔にぶち殺される光景を至近距離で見せられては、否応がなく、事態の切迫さを認識せざるを得ませんでした。

 その場から逃走を開始した女神Aは、その後に続いたものの、あえなく悪魔に捕まった勇ましい異世界住人を、逃走の距離とその時間稼ぎをさせるため、ノールックで見捨てて、王都にある神殿にたどり着くやいなや、即座に勇者召喚の儀式に取り掛かりました。

 切迫した事態ゆえに、選択の余地もそこまで考える余裕もなかったので、女神Aが召喚した勇者は、リア充Aの出身世界に住んでいたただのリア充でした。

 ハズレを引いた女神Aは、説明を求めるそのリア充や女神業務命令違反を無視して、次の勇者召喚をガチャ感覚で開始しましたが、そこへ殺到してきた悪魔たちが、それを許しませんでした。

 今度ばかりは逃走に失敗した女神Aは、悪魔どもに集団私刑プルボッコされ、勇者として召喚されたリア充Bも、なにがなんだかわからないまま、アリンコの如く踏み潰されて死にました。

 この異世界で最後の生き残りとなった勇ましい異世界住人が、女神Aと同様な集団私刑プルボッコの末に絶命したのは、その直後でした。


 ――こうして、異世界はまた魔王に滅ぼされました。


                                 〈終わり〉

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