第101話 意地悪47(付き合う)
好き。俺はこいつのことが好きなのか。
ふにゃとした柔らかい笑顔で喜ぶ彼女を見ながら、気づいた気持ちを改めて心の中で言葉にする。気付いてみると、なんで今まで気づかなかったのが不思議に思えてくる。
確かに最初は嫌いで意地悪をしていた。だが最近はどうだ?明らかにえりの反応を楽しんで色々意地悪をしていた。いつの間にか嫌われることが目的ではなく、えりをからかうことを目的にしていたのだ。
赤くした顔に対して、なにが、怒っている、だ。どう考えてもあれは照れた表情だっただろ。過去の俺がアホすぎて笑えてくる。
前はからかわれてうざいと思っていたが、最近はドキリともしていたし、ほんとなんで気付かなかったんだ。
恋を自覚して改めてえりを見ると、やはり可愛い。見惚れるほどの優れた容姿であるし、時々うざいが話していて楽しいし、何より笑顔が1番可愛い。
まったく、気付くのが遅すぎだな。えりから告白されていたというのに待たせすぎてしまった。情けない自分に心の中で少しだけため息を吐いた。
「先輩?」
見つめすぎたのか、きょとんと不思議そうな顔で目を合わせてくる。
「いや、えりは可愛いなって思ってな」
「え、え!?えー!ど、どうしたんですか、先輩!?そ、それはもちろん可愛いって言ってくれるのは嬉しいですけど……」
顔をぼわぁっと一瞬で真っ赤にして、嬉しそうに口元を緩めてにやけだした。最後の方はもにょもにょと声が小さく聞こえなり、目を伏せて俯いてしまったのでよく見えなかったが。
くくく、照れてる。照れてる。やはり俺は雨宮を照らさせて意地悪するのが好きならしい。好きな人には意地悪したくなるということか。
好きだということに気付いたなら、告白しなければならない。ここまで待たせたのにさらに待たせるのは最低すぎる。
「なあ、えり」
「な、なんですか?」
まださっきの火照りが残っているのか頰は朱に染めたまま、ちらっと上目遣いにこちらを見てくる。くりくりとした愛らしい瞳と目が合った。
きゅっと胸が締め付けられる。今まで全く気にしていなかったこんな何気ない様子ですら、愛おしいと感じてしまう。好きと自覚するだけでここまで変わるとは。
これ以上待たせるのは申し訳ないし、この気持ちはきちんと伝えたかった。俺を変えてくれて救ってくれた、その感謝の気持ち、そしてこれまで募ってきた想いを込めて、俺は言葉を吐き出した。
「……俺、えりのことが好きみたいだ」
自分でも驚くほど優しい声だった。こんな声が出るとは。ある意味これもえりのおかげということか。
「……え?」
俺の言葉を聞くと目を丸くして固まる。きょとんと信じられないことに出会したかのように間抜けな顔を晒していた。
「え?え!?うそ……信じられません……」
だんだん俺の言葉を理解し始めたのか、小さな声で上擦らせてポツリと呟く。感極まったように口を両手で隠し、目を潤ませて目尻に涙を溜め始める。
「うそじゃねえよ。えりのことが好きなんだ。といっても気付いたのはついさっきだけど」
「い、いえ、先輩が嘘をつくような人ではないことは分かっているのですが……嬉しすぎて信じらないと言いますか……」
慌てたように否定すると、体を俺から背けてしまった。
耳を真っ赤に染めて、「え、うそ!?先輩が私のこと好き!?これ、夢じゃないですよね……?」と小さな声でぶつぶつと呟いているのが背中越しに聞こえてくる。一息つくと落ち着いたのかまたこっちを向いた。まだ顔は赤いままだが。
「……そ、そのどうして好きになってくれたんですか?」
恥ずかしそうに目を伏せて、さらに頰を色づかせた。
「いつから好きになったのは分からないが……。えりの無邪気に遠慮なく関わってくるところには救われる部分があったし、なんだかんだこんな俺に何度も話しかけてくれて、俺を変えてくれたことが1番の好きになった理由かな」
「へ、へぇ」
一生懸命に表情を引き締めようとしているが、によによと口元が緩んでいる。えへへ、と照れ笑いしている姿は愛らしく、なんだか抱きしめたくなってくる。
「なによりえりの笑顔が1番好きだな。笑っている姿は見ていて癒されるし安心するし。それにさっきまで落ち込んでいただろ?それがこうして喜んで笑ってくれるようになったって思ったら、好きだって自覚したんだ」
「も、もう!先輩は嬉しいことを言い過ぎです!」
嬉しそうにはにかんで恥ずかしがるえりの姿は見ていて楽しくなる。必死に顔を隠しているが照れているのは丸わかりだ。
俺の言葉で喜ぶえりを見ていると、むずむずと意地悪したくなってくる。少し考えると、最高の意地悪を思いついてしまった。
俺とえりで付き合うのだ。両想いなのだし、付き合うのが普通だろう。
俺と付き合えば彼女は友人と遊ぶ時間は減る。それは彼女にとってどの程度のダメージかは知らないが、多少なりとも精神的にダメージは負うだろう。
えりと付き合ってこいつの友人と遊ぶ時間を減らしてやるのだ。この作戦の優れているところは俺が付き合い続ける限り、いつまでも続くということだ。これまでの沢山の意地悪とは違い、長い時間ずっと続く最高の意地悪と言えるだろう。
くくく、俺の意地悪を食らうがいい。
「その……ずっと待たせて悪かったな」
「……はい」
俺の雰囲気を感じ取ったのか、頰を染めたまま覚悟を決めたように真剣な表情で見つめてきた。
やっと言うことが出来る。気付くまでこんなに時間がかかってしまった。ずっと待たせていたというのにえりは何度も助けてくれたし癒してくれた。本当に感謝してもしきれない。
これからは俺がえりの力になろう。えりの笑顔を守るために。ずっとずっと幸せに笑っていてもらうために。覚悟を決め、長い長い意地悪を始めるために意を決して口を開いた。
「……えり、好きだ。付き合ってくれるか?」
「はい、もちろんです!」
ぱぁっと華が舞うような満面の笑みを浮かべて了承してくれた。見惚れるような眩しい柔らかい笑顔に思わず胸がドキリと鳴る。
くくく、俺の意地悪の作戦も知らないで呑気な奴だ。さあ、これから長い長い意地悪を続けていこうではないか。俺は心の中でほくそ笑んだ。
ーーーー完。
♦︎♦︎♦︎
最後までお読みいただきありがとうございます。おかげさまで無事完結しました。少しでも面白い、楽しかった。そう思った方はぜひ↓↓↓の☆☆☆を★★★にして頂けると、今後の筆者の励みになります(*・ω・)*_ _)ペコリ
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