第84話 意地悪40(笑顔)
とうとう今日から体育祭だ。体育祭は赤組と白組に分かれて行われる。俺のクラスは奇数なので赤組になった。
朝からそれぞれ生徒達は運動着に着替えて、校庭に集合する。俺も皆と同じように着替えて赤の鉢巻きを巻いて校庭に向かった。校庭に出ると、もう既に沢山の人が集まっていた。
生徒同士の話し声で、ざわざわと校庭が喧騒に包まれている。朝だからといって肌寒いということはなく、天気に恵まれて快晴のため、少し暑いくらいだ。
眩しい日差しに目を細めながら、開会式が始まるのを待っていると背後から声かけられた。
「せ〜んぱい!」
聞き馴染んだ少し高めの声。振り向くと予想通り雨宮がいた。
「なんだよ……っ!?」
いつものように対応しようとしたが、雨宮の服装に思わず息を呑んだ。
雨宮が着ていたのはチアダンスの衣装だった。
色は赤を基調として、服の端に白のラインが所々入っている。上はノースリーブのシャツに下はスカートでその長さは普段の制服のスカートと比べてあまりに短い。
普段隠されている雨宮の細くも柔らかそうな太ももと華奢な白い肩が艶かしく露出されていた。眩しい日差しを反射し、陶器のような白い柔肌がきらりと輝いている。滑らか肌の雨宮の手足がどこか色っぽく、つい目を逸らしてしまった。
「ふふふ、どうですか〜、先輩?可愛くないですか?」
にやにやと口元を緩ませて、上目遣いにこっちを見てくる。どこか容姿を見せつけるような姿に、顔に熱が集まりますます目を背けた。
「可愛い可愛い」
実際雨宮の元の容姿も合わさり、人目を引くほど可愛いとは思う。だが素直にそう言うと絶対調子に乗るのは分かっており、それはむかつくので適当に言っておく。
「もう!もっと感情を込めてください!」
満足する反応が返って来なかったのか不満なのか、うがーっと手を上げて文句を言ってくる。
「うるさいな。それよりそんなに動くとスカートの中見えるぞ?」
雨宮が激しく動くのでスカートがゆらゆらと揺れ、思わず目が惹かれる。ただでさえ普段より短く、中が見えやすくなっているというのに、さらに動くから余計見えそうになっている。
「それなら大丈夫です!ちゃんと見えてもいいように中にスパッツ履いていますから」
そう言ってスカートの端を持ちあげようとする雨宮。
「おい!こんなところでなにしてんだ!?」
顔が熱くなるのを感じながら俺は慌てて雨宮の手首を掴んで持ち上げるのをやめさせる。
こいつ、こんなに人がいるところでスカートを捲るなんて正気か!?
「あれ〜?もしかして私のスカートの中身気になっちゃってますか〜?」
にやりと口角を上げ、俺をからかってくる雨宮。
「そんなわけないだろ」
「スパッツだから見られても平気です。ほら、正直になってくれたら先輩にだけ特別見せてあげますよ?」
少し誘うように艶かしく囁いてくる。普段と違う妖艶な色気にドキリと胸が高鳴る。
「はいはい、勝手に言ってろ。それよりもうすぐ開会式始まるんだから、お前も移動しろよ」
「あ、そうでした!忘れるところでした!先輩!開会式終わったらチアダンスなので、絶対見てくださいね?」
上目遣いでこっちをじっと見つめてくる。くりくりとした瞳で愛らしく言われてしまえば断れるはずがない。
「分かった、ちゃんと見るから。ほら、早く移動しろ」
「はい!ありがとうございます。楽しみにしていてくださいね?」
雨宮はパァッと顔を輝かせて微笑んで、去っていった。
そんなに踊りを見て欲しかったのか。雨宮がチアダンスをする姿を想像して、少しだけ胸が躍った。
開会式自体は単純なものだが、相変わらず長い校長の挨拶を聞くのでかなり時間がかかった。なんで校長の話ってこんなに長いんだ。そんなことを考えてながら退屈な時間を過ごした。
チアダンスは開会式のあとすぐに行われるらしい。開会式が終わると赤組のチアダンスが始まった。
流行の曲がかかると同時にチアダンスの衣装を着た女子達が出てきて踊り出す。練習時間が少なかったにもかかわらず、曲に合わせた動きは統率されていて綺麗だ。
雨宮にも言われたので雨宮の姿を探すと、意外とすぐに見つかった。センターから少しズレた位置で踊っていたので分かり易かった。
長い黒髪はポニーテールにまとめてられているので、雨宮が動くたびに、その動きに合わせて髪が揺れる。スカートがひらひらと舞い、スカートの中からチラチラと黒いスパッツが見え隠れしている。
笑顔で踊る雨宮はその容姿も相まり、非常に可愛く目が惹きつけられた。普段見ない衣装で踊る雨宮は魅力的で見惚れていると、雨宮も俺に気づいたらしく少し恥ずかしそうに頰を桜色に染めて微笑む。
はにかんだ口元が次第ににやけ始め、俺と目が合うとパチリとウインクをしてきた。
天真爛漫なその姿されたウインクは可愛くドキッと胸が高鳴る。だが自分ばかり雨宮を意識しているのも癪だし、意地悪で仕返してやる。
さて、どうするか……。
普段なら一緒にいるので色々意地悪することが出来るが、こんなに離れているとなるとなかなか良い意地悪が思いつかない。だが少しだけ頭を回転させると、ふと頭の中に意地悪のアイデアが湧いてきた。
くくく、最高の意地悪を思いついてしまった。さあ、雨宮、俺の意地悪を食らうがいい!
雨宮のことを見ているとまた雨宮と目が合った。雨宮はにやりと口元を緩めて、またしても可愛くウインクをしてきた。
くっ、本当に可愛いな……。だが調子に乗るなよ?
俺はウインクをしてきた雨宮に対して、馬鹿にするように鼻で笑いながら口角を上げた。雨宮の顔が一瞬で赤く染まる。踊りの動きも悪くなり、どこかぎこちない。
くくく、効いているな。
雨宮のあのウインクは明らかに自信を持っているはずだ。そうでなければわざわざ俺に見せてこないだろう。その自信のあるウインクが馬鹿にされたように笑われるのだ。
プライドは傷つくし、頭にくるだろう。
そのせいかさっきから雨宮の動きが悪くなっている。やはり俺の意地悪は完璧だったな。俺は意地悪の成果に満足して、雨宮のぎこちなくなった動きを見ながらもう一度笑みを浮かべるのだった。
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