第51話 被害24(頬プニプニ)

 キーンコーンカーンコーン。


 華との約束を交わしていると昼休みの終わりを告げるチャイムがなったので席に座ります。


「それじゃあ、体育祭の出場種目決めるぞー」


 来ました!緊張の時間です。ここで体育祭の楽しみが変わってきますので気合を入れ直します。絶対先輩と一緒の種目になってみせます!


「おっと、その前にまず体育祭の実行委員を決めないとな。実行委員になった人に種目決めとかの進行は任せる。それでなりたい人いるか?」


 そういえばそんな役割がありました。でもこういうのは大抵誰もやるなんて言い出さず、微妙な空気になってしまうのですが……


「はい、先生。私がやりますわ」


 スッと手が上がりました…って華!?


「どういうことですか!?」


 こっそりと華に話しかけます。


「えり、先輩と一緒の種目に出たいでしょ?体育祭実行委員になれば人数調整が出来るからある程度出られる種目を自由に決められるのよ。いい?えりは二人三脚に参加するのよ?」


「え?は、はい、分かりました」


 突然の行動に驚きましたが、協力するためだったみたいです。本当に心強い味方です!


「お、晴川か。他にはいないな。じゃあ晴川やってもらえるか?」


「はい」


 そのまま教壇まで華は移動しました。そのままの流れで次々と種目のメンバーを決めていきます。こうして私は二人三脚になることが出来たのです。


「華!わざわざありがとうございます!」


「いいのよ。それに体育祭本番でもやらなきゃいけないことはあるしね」


「本番でも?」


「ええ、まあそれはえりは気にしなくていいことよ。それより、一応直人と相談して神崎先輩も二人三脚にすることにしたけれど、向こうが上手くいったかわからないわ。もう放課後だし会いに行って聞いてきなさい」


 突然華が無理難題を押し付けてきました!?


「え!?今からですか!?」


「そうよ、今からよ」


「で、ですが今から会いに行って迷惑に思われないですかね…?」


 これまでも何回も放課後会いに行くか迷ったことがあります。しかし、会うということはそれだけ先輩の時間を割いてもらうことに他なりません。

 以前は嫌われていましたし、今でも面倒だと思われてしまうかもしれません。せっかく近づいた距離が離れてしまうのは嫌です。そんな最悪の事態が起こりそうで不安になります。


「大丈夫よ。神崎先輩がえりのこと嫌がるわけがないじゃない。それに今日聞かなかったらこの後帰って家で悶々と過ごすことになるわよ?それよりはさっさと聞いてスッキリした方がいいでしょ」


「そ、それはそうですが…」


「もう!頑張るって決めたんでしょ!?そんなに悩まないで行ってきなさい。えりと話している時の先輩を見れば、あなたのことを嫌うはずがないでしょ」


「わ、わかりました」


 いつまでも悩んでいる私に痺れを切らし、半ば強引に背中を押してくれました。こういう時に華は本当に頼りになります。


「あ、先輩!」


 華の言葉に後押しされて先輩の教室に行くと、ちょうど教室から出てきた先輩を見つけました。


「放課後なのに教室に来るなんてどうかしたのか?」


「えへへ、先輩の体育祭の出場種目が気になって会いに来ちゃいました!」


 放課後まで先輩と会えるのは嬉しいです!でも、やっぱり迷惑に思われてないでしょうか?嬉しさと不安が混ざり合い、内心複雑な気持ちです。


「そこまでして知りたかったのかよ」


 やれやれといった感じですか、表情は優しいままです。先輩の反応にホッと安堵します。


 ふふふ、会いに来てよかったです。


「そりゃそうですよ!先輩と一緒に出来るかかかっているんですから!それで先輩は何に参加するんですか?」


 気になるからここに来たんです。はぁ、なんて返事が返ってくるか気になり、ドキドキします……。


「二人三脚と借り物競争とリレーだな」


「え、本当ですか!?よかったです…。一つ種目が被ってます」


 よかったです!華の言った通りでした!本当に心強い味方です!


「そうなのか?雨宮は何に出るんだ?」


「私はチアダンスと二人三脚とリレーです」


「そうか、リレーは男女別だったし被っているのは二人三脚だけか」


「先輩、絶対一緒にやりましょうね!」


 早めに言っておかないと勝手に別な人と組んでいそうですし、念押ししておきます。


「いや、二人三脚ってペアは当日くじ引きで決まるからな?」


「そ、そうでした!私、運が悪いんですよねー。はぁ……」


 忘れていました!せっかく一緒の種目になれたのに……。


 喜びで満ちていた気持ちが一瞬で冷めていきます。


「ふん、どうせ問題ない。俺と雨宮はペアになるからな」


「……え?え!?せ、先輩が慰めてくれました!」


 ペアになるかなんて分からないはずなのに、こんなこと言ってくれるなんて!


「慰めてねえよ。事実を言っただけだ」


「そんなこと言って〜。まったく、先輩はツンデレさんですね。このこの〜」


 冷たく言ってきますが、顔を私から背けるようにしていますし、照れ隠しなのはバレバレです。


 ふふふ、可愛い先輩です!


「ひょっと、ひぇんぱい!?」


 嬉しすぎるあまり先輩をからかっていたら、急に頬を摘まれました!

 

 先輩の細く長い指が私の頬に食い込みます。なにやら満足げな表情を浮かべながら、私の頬を戻しては引き伸ばすのを何度も繰り返してきました。


「な、なにひゅるんでひゅか!?」


 突然のことに驚きましたが、こんなに近くで先輩を見られるのは嬉しいです。それに私の頬を引っ張っている先輩の顔はどこか楽しげで、見ているこっちが幸せになります。


「うるさい。その可愛い顔が悪い」


「ひゃ、ひゃわいい…!?」


 文句を言うとすごい真面目な顔で可愛いと言われてしまいました!これまで何度もいろんな人に言われてきましたが、好きな人に言われるのは別格です!


 キューンッと一気に胸が苦しくなり、心臓がうるさく鳴り始めます。


また不意打ちです……。もう、先輩は私の心を弄びすぎです!言われるのは嬉しいですが、急に言うのはやめてほしいです……。


 文句を言ってもそれからも何度もプニプニを繰り返してきます。


 うう、もう心臓がもちません……。顔が熱いですし、ドキドキしすぎて変になりそうです……。


「ひょ、ひょっと、ひゃふがにこれ以上は…」


「まだダメだ。もっとプニプニして頬を引き伸ばしてやる」


 頭を動かして何度も先輩から逃れようとしますが、頬をつままれ顔を先輩の方向に向けられてしまいます。

 そのままじっと私の顔を楽しげに見ながら、頬を摘まんでくるのでだんだん恥ずかしくなってきました。もうさっきからずっとこっちを見ています。


 そういう優しい目でこっちを見るのやめてください!その目が1番弱いんです!さっきからずっとドキドキしていて胸が苦しいです。あまりに苦しくて目が潤んでしまいました。


「私のこと見ふぎじゃないでひゅか…?も、もうむひです…」


「当たり前だ。お前の顔を見ているんだからな。まあ、仕方ない。やめてやる」


 やっとお願いを聞いてもらい、先輩が頰から手を離した瞬間、パッと離れます。


「も、もう、先輩!急に頬をプニプニするのはやめてください…」


 あまりにドキドキさせてきたことに不満を小さく零して、逆を向きます。


 これ以上先輩のことを見ていられません。ああ、やっぱり頬が熱いです。手との温度差がすごいことになってます……。


 私は真っ赤になった顔に手を当てながら、どうにか落ち着こうと深呼吸を繰り返すのでした。

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