第49話 被害23(約束)

 ずっと先輩のことを撫で撫でしていたかったですが、もうすぐお昼の時間が終わってしまいます。


「先輩、そろそろお昼休み終わっちゃいますよ」


 まったく起きる気配を見せず、ぐっすりと私の膝上で眠り続ける先輩の身体を揺らしながら、声をかけます。


「ん……、もうちょい……」


 よほど眠いのでしょうか?私の声に反応はしましたが、起きようとしません。


 まったく仕方ない人ですね。でももう少しだけなら大丈夫でしょうし、寝かせてあげましょうか。そんなことを考えた時でした。


「ちょ、ちょっと、先輩!?もう!起きてください!」


 もぞもぞと先輩は動き出すと、私の太ももに顔を埋めるようにして頬擦りをし始めました!

 な、何してるんですか、先輩!?流石の先輩でもそれはダメです!


 かぁっと頰が熱くなるのを感じながら、頬擦りを止めようと強く先輩の肩を揺らします。


「ん……。おはよう、雨宮」


 はぁ、寝ぼけたような声を出して先輩はやっと起きました。


「お、おはようございます、先輩……」


 まださっきの名残で心臓がドキドキと鳴っています。

 急にあんなことしてくるなんて先輩一体どうしたんでしょう。さすがに恥ずかしくて耐えられませんでした……。


「顔赤いがどうかしたのか?」


「え!?嘘!?」


 先輩に指摘され慌てて顔を隠します。


 ま、まさか顔がそんなに赤くなっていたなんて……。恥ずかしがっているの先輩にバレてしまいました……。


 それにしても、『どうかしたのか?』と聞いてきたということは覚えてないんでしょうか……?


「お、覚えてないんですか……?」


「何をだ?」


「い、いえ!覚えてないならいいんです。顔赤いのは気のせいですから気にしないでください!」


 覚えていないみたいでよかったです。あんな恥ずかしいことされたなんて覚えていたら困ります。

 まだ頬擦りをされた感覚が太ももに残っています。こんなところを頬擦りされたなんて、今考えるだけでも恥ずかしいです…。


「何分ぐらい寝てた?」


「10分ぐらいですよ。そろそろお昼休みが終わりますし、教室に戻った方がいいかもしれませんね」


「そうだな、膝枕は気持ちよかった。明日以降も頼む」


「え、え!?明日もですか!?」


 そんなに気に入ってもらえたのでしょうか?期待してくれるのは嬉しいですが、恥ずかしくもあり少し複雑です。


「そうだ、出来ればそれ以降もだな」


「ふ、ふ〜ん?そんなに私に膝枕してほしいんですか〜?」


 そ、そこまで言うならしてあげても……。また先輩の可愛い寝顔が見られるかもしれませんし。


 滅多にない先輩が私を求めてくれている状況に内心湧き立ちます。嬉しすぎてからかう口調になってしまいました。


「して欲しいと言っているだろ」


 私がからかう口調で言うと、真剣な眼差しで私をじっと見つめてきます。


「わ、分かりましたから、そんなに見詰めるのはやめてください……」


 そ、そんなに見つめられたら、うんと言うしかないじゃないですか。もうそんなに鋭い目でこっちを見るのやめてください。ドキドキしてきちゃいます……。


「そうか、じゃあよろしくな」


 了承に満足したのか先輩は身体を起こしました。そのまま教室に戻るための準備を整えます。


「そういえば、午後私のクラスは体育祭の話し合いなんですけど、先輩のクラスはもう話し合いしました?」


 教室へ戻る途中、この後の授業のことを考えると体育祭の話し合いだったことを思い出しました。


「いや?確か俺も今日だったはず」


「そうですか、残念です……」


 期待していた答えじゃなくて思わず目を伏せてしまいました。


「なにがそんなに残念なんだよ?」


 よほど私が落ち込んでいると思ったのか、不思議そうな顔をして私を見てきます。


「え、だってもしかしたら先輩と同じ競技に参加出来るかもしれないじゃないですか?学年が違うので授業が被ることはないですし、こういう時ぐらい一緒に活動してみたかったんです!」


 先輩と一緒に同じ種目で活動!想像するだけでにやにやしちゃいます!せっかくの機会ですし、もしかしたら体育祭効果で少しは意識してくれるかもしれません。


「でも、決まっていないようなので一緒に参加できないかもしれないですね……」


 はぁ、大体私って運が悪いのでこういう時、嫌な想像は当たるんです。

 でも当たって欲しくないです。やっぱり一緒に活動したいです。今回だけでいいですから外れて欲しいです。


 心の中で強く願います。


「ふん、どうせ一緒に参加しようがしまいが俺のところに来るくせに、大して変わらんだろ」


 心が悲しい想いに包まれていると、先輩がそんな声をかけてくれました。


 せ、先輩が慰めてくれました!こういう時ばっかり優しくするからずるい人です。まったく、ドキッとしちゃうじゃないですか。


「そ、そうですよね!会いに行けばいいんですよね!ふっふっふ。先輩、たくさん会いに行きますから待っててくださいね!」


 さっきまでの悲しみが嘘のように晴れ晴れになります。先輩の言葉はほかの何物よりも私にとって嬉しいものなんです。それを今一度実感しました。


 ああ、やっぱり先輩のことが好きです!


「いや、競技にも集中しろよ」


「もちろんです!競技で活躍して先輩のことを魅了する予定なんで覚悟していてください!」


 絶対私にドキリとさせてみせます!先輩が拒絶しようとも絶対心の内に踏み込んでみせますからね!


「そんな予定は起きないから諦めろ。嫌いな奴に魅了されるわけないだろ」


「はいはい、先輩は私のことが嫌いですもんね〜」


 嫌そうな顔をしても前みたいにトゲがありません。拒絶する気がないのを隠せていませんよ?


 こうやって前との変化を感じると嬉しくなります!ああ、これまで頑張ってきて良かったです!


 先輩、優しい表情を浮かべることが時々増えてきました。もっと見せて欲しいです。絶対体育祭は頑張ります!


「あ、教室に着きましたね。バイバイです、先輩」


「ああ、じゃあな」


 これまでのことを考えていると、ようやく教室に着きました。手を振り教室に入っていく先輩の後ろ姿を見守ります。


 ふふふ、相変わらず後ろ姿もカッコイイです!


 にやにやしながら私も自分の教室に戻りました。


「えり、お昼休みどうでしたの?上手くいきました?」


 教室に入ると、華が楽しげな表情を浮かべながら話しかけてきました。


「華!上手くいきましたよ!明日以降もお弁当を作ってきて欲しいって頼まれちゃいました!私のお弁当、気に入ってくれたみたいです!」


「ふふふ、そうなのね。それは良かったわね」


 クスクスと肩を震わせながらそう答えてきます。


 そんなに笑うなんて何かおかしなこと言ったでしょうか?まあ、いいです。それよりも伝えたいことがありますから。


「お弁当だけじゃないんです!先輩にドキドキしてもらいたくてあーんをしてあげたら、何回もあーんさせられましたし、さらには膝枕まで要求されました…」


 思い出しただけで恥ずかしくて顔が熱くなってきました。まったく、あんなに要求されるとは思っていませんでした…。


「あらら、そんなことまで要求されたのね!ふふふ、そんなに顔を赤くして恥ずかしかったのかしら?でも幸せだったでしょう?」


「そ、それはまあ……。先輩の寝顔を見られましたし、満足はしました……」


「その緩んだ表情を見れば伝わってくるわ。明日から楽しみね。ぜひまた先輩に何かされたら教えてね?」


 普段の笑い方と違うにやにやした笑みを浮かべて華はそう言ってきました。


「はい、また先輩の話聞いてください!」


 華も楽しそうでよかったです。また先輩の話を聞いてもらいましょう。こうして私と華は約束を交わしたのでした。

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