第43話 被害20(神崎の弁当)

 4人で移動して屋上へ到着しました。


「わぁ!凄い景色いいですね!」


 この前先輩とデートした時の景色も良かったですが、それとは別の良さがあります。

 街中にあるのでより近くに街の景色を感じれますし、屋上という雰囲気だけでもテンションが上がります!


「いいから、早く座って食べるぞ」


 ついはしゃいでいると、先輩に注意されてしまいました。


「ほら、雨宮の弁当はこれな」


「わぁ!本当に先輩の手作り弁当を貰ってしまいました!ありがとうございます!」


「気にするな。俺が作りたかっただけだからな」


 やった!先輩からお弁当をとうとうもらってしまいしまた!ふふふ、とても楽しみです!


 一体何が入っているんでしょうか。思わずにやにやしてしまいます。


 あれ?先輩の手…。


「どうかしたか?」


「先輩、その手って…」


 手を振っていた先輩の手には昨日はなかった絆創膏が貼ってあるのに気がつきました。


「ああ、朝料理をしているときに包丁で誤って切ったんだ」


「そこまでして作ってくれたんですね…。嬉しいです…」


 先輩が怪我をしてまで作ってくれたなんて嬉しすぎます。胸の奥がぎゅっと苦しくなりました。

 思わず弁当を抱いている腕に力が入ります。


「えり、本当に嬉しそうね。昨日も放課後私にあんなに熱烈に伝えてきたものね」


「ちょっと、華!?ここでそれは言わないでください!恥ずかしいじゃないですか!」


 華が急に暴露するので、顔に熱が篭ります。

 先輩に聞かれちゃうじゃないですか!もう、そんなに期待していたなんて知られるなんて恥ずかしすぎます…!

 慌てて華の口を塞ごうとしますが、するりと避けるので塞ぐことができません。


 その間にも私がどれだけ喜んでいたかを暴露していくので、恥ずかしさのあまり顔が真っ赤になってしまいました。


「ほら、華もからかうのはそれぐらいにして、ご飯にしよう」


 東雲さんの言葉のおかげでやっと止まりました。

 はぁ、やっと弁当が食べれます。まったく、華のやることは心臓に悪いです。

 弁当を置いて食べようとした時、あることに気がつきました。


「あれ?先輩?箸がないですよ?」


「悪い、多分付けるの忘れた」


「そうですか。忘れてしまったものは仕方ないです。先輩、気にしないでください。華、時々でいいので箸貸してもらえますか?」


 先輩が失敗をするなんて珍しいこともあるものです。まあ、華から借りれば大丈夫でしょう。


「あら、えりは先輩に食べさせてもらったらいいじゃない?神崎先輩、先輩が忘れたのですし責任はとってくれますよね?」


「ちょっと、華!?何を言っているんですか!?」


「もちろんだ。雨宮、俺が食べさせてやるから隣に来いよ」


「え!?先輩まで何を言って…」


 もう訳が分かりません。食べさせるってつまりあーんってことですよね?今ここでやるんですか?


 う、嬉しいですけど、さすがに恥ずかしすぎます…。


「いいから、来いって」


「は、はいっ!」


 い、いいんでしょうか?


 緊張のあまり動きが変になってしまいます。

 あーん?これから私あーんしてもらうんですか?信じられません。

 しかもどう考えても一回だけじゃないです。そんなにたくさんもあーんしてもらえるなんて最高のご褒美ですが、見られながらは恥ずかしいです…。


 緊張しつつ先輩の隣に座ります。


 か、肩が近いです。意識しすぎるあまり距離が近いだけでさらにドキドキしてきました…。


「じゃあ、先輩。お弁当開きますね?」


 ゆっくりと弁当の蓋を持ち上げると、お弁当の中身が姿を現しました。


「わぁ!美味しそうです!」


 色とりどりの食材がふんだんに使われ、栄養バランスの考えられた鮮やかな料理が所狭しに敷き詰められています。


 どれを取っても美味しそうで、思わず唾をゴクリと飲み込みます。


「ほら、どれを食べるんだ?」


「えっとじゃあ、卵焼きを食べたいです」


 あーんをしてもらうのが分かっているのにお願いするのは、ねだっているみたいで恥ずかしいです…。


「分かった、ほらよ」


 私の目の前に卵焼きが差し出されました。


 うう…。恥ずかしいですが気にしたらダメです!一気に食べてしまいしょう!


 差し出された卵焼きを躊躇わずに頬張ります。


「ふっふっふっ。いつまでも戸惑っている私ではありませんからね!」


 頰がほんの少し熱くなっていますが順調に食べれました!どうですか、先輩!私だって慣れるんですからね!


「そうかよ、味はどうだ?」


「とても美味しいです!このほんのりとした甘味が卵の風味を引き立てていて、食べやすいです」


 初めて食べた先輩の卵焼きを味わうと、口いっぱいにほのかな甘さが広がり、優しい味がします。

 あまりの美味しさに思わず笑みがこぼれ出てしまいました。


「ほら、もう一個どうだ?」


「い、いただきます」


 ま、またですか…。いえ、先輩はただ食べさせようとして下さっているのは分かっているのですが、これが何回も繰り返されるとなるとさすがに恥ずかしさを誤魔化し切れなくなります…。


 それにやっぱり、あーんされるのは恋人っぽくてキュンとします。何回もされればドキドキもしてきます…。


 何度も食べさせてもらっているとあることに気がつきました。


「あの…華?私たちの方見過ぎじゃないですか…?」


 さっきからにやにやしながら私たちの方を見てきます。


「えー、そうかしら?いいじゃない。見ていて楽しいわよ?」


「そういう問題じゃないです!」


「いいから、早く食べろよ。もう食べないのか?あんなにドヤ顔で言ってたんだから余裕だろ?」


「た、食べますけども…。流石に見られるのは…」


 先輩が急かしたくるので食べることに集中しようとしますが、やはりこっちを見てくる華と東雲さんが気になります。

 何度も2人に視線を送りますが、生暖かい目でこっちを見てきてやめようとしません。


 うう…。あーんされる嬉しさと知り合いに見られる気恥ずかしさで顔が熱いです。


 さらに何度か食べているとようやくお目当てのハンバーグが差し出されました。


「ほら、雨宮。ハンバーグだぞ」


「…た、楽しみです」


 楽しみなんですが、見られていることが気になりすぎて恥ずかしすぎます。恋人っぽいのを人に見られるのが火照るほど恥ずかしいと思いませんでした…。


 いつまで気にしていても仕方ありません。せっかく差し出してもらったハンバーグです。食べるとしましょう!


 私は口を開き、差し出されたハンバーグを咥えようとします。


 どんな味がするのでしょうか?


 味に期待してハンバーグを口に入れたその時でした。


 パクン。


 え?何も口の中にありません…。


 すぐに状況を理解しました。先輩が私の食べる瞬間にハンバーグを口の中から抜き去ったのです。


「も、もう!何するんですか、先輩!?」


 かぁっと耳まで赤くなるのが自分でわかります。

 先輩が意地悪してきました!こんなに間抜けな姿を見られたなんて恥ずかしすぎます!

 意地悪してきた先輩に文句を伝えるため、頬を膨らませて睨みつけます。


 まったく、急にこんな意地悪しないでください!先輩だけでなく華や東雲さんまでいるのに、こんなに間抜けな恥ずかしい姿を見られてしまったじゃないですか!


「なんか、やってみたくなってな」


 睨み付けると、先輩が微かに口角を上げ笑みを浮かべました。

 え!?え!?先輩が笑いました!今、凄い自然な笑顔を見せてくれました!


 あーもう!可愛すぎます!大好きです!


 それにしても不意打ちはずるいです!急にそんな笑みを見せられたらキュンとしてしまうじゃないですか…。そんな顔見せられたら文句も言えません…。


「っ!?もう、仕方ない先輩ですね…。許してあげますから早く食べさせてください!」


 ドキドキする心臓を誤魔化すように早口でまくし立てると、一気に先輩の箸にあるハンバーグを頬張ります。


「ん〜っ!美味しいです!」


 先輩の手作りというだけで嬉しいのにこんなに美味しいなんてほんとうに幸せです!


 はぁ、それにしても先輩の笑顔はやっぱりいいですね…。本当に大好きです。普段冷たいから余計に見せられた時ドキドキします…。


 こんなに優しい先輩が笑わないなんて勿体ないです。先輩には笑顔でいて欲しいです。少しでも幸せでそして笑顔でいられるようこれからも力になりたいです!


 私は先輩の笑顔を見て、また笑顔を見たいと思うのでした。

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