第28話 被害13(映画館)

「ほら、着いたぞ、雨宮」


「え!?」


 先輩に声をかけられ、自分がずっと考えたままで周りを見ていなかったことに気が付きました。

 どこに着いたのかキョロキョロと見回して確認します。


「映画館ですか?」


「そうだぞ」


「は!?もしや!?」


「なんだよ」

「先輩〜、暗闇にこんな美少女を連れ込んで何する気ですか〜?いちゃいちゃしたいならそう言ってくれればいいのに〜」


 自分の先輩への募った想いから目をそらすため、からかうことを言ってしまいました。

 もちろん先輩が変なことをしてこないのは分かっています。


「何もしねえよ。そんなこと言うなら別なところ行くぞ」


「ちょ、ちょっと、先輩!?冗談ですからーー!!映画館行きましょうよ!いえ、ぜひ行かせて下さい!」


 先輩が帰ろうとするので私はなんとか繋いだ手を引っ張り引き止めます。

 せっかく、先輩の近くにいられる機会です。こんな機会を無駄にするわけにはいきません!


「分かったから、引っ張るな。早く入るぞ」


「はい、先輩!」


 よかった!これで近くで2人で見られます!

 隣の先輩に気を取られて映画に集中できないか心配ですが……。


 しかも先輩と一緒に映画というのは恋人っぽくてドキドキしてしまいます……。こうして私たちは中へ入りました。


 映画の時間が来るまで待合室らしき場所の椅子に座って待ちます。


 チケットは予約していてくれたようです!


 先輩のことだからそういうのは適当だと思っていました。予約までしてくれているなんて、今日会うの楽しみにしてくれてたのでしょうか?もしそうだったら嬉しいです……。


「今回はどの映画を見るんですか?」


「ああ、○○○って題名なんだが、知ってるか?」


「それ、結構今話題になってる映画ですよね!まだ見たことなかったので楽しみです!」


 まさか、先輩が流行りの映画を調べていたなんて。気になっていたので凄い楽しみになってきました!


「先輩はどういう系の映画が好きなんですか?」


「俺はアクションは好きだぞ。雨宮は?」


「私はもちろん、恋愛映画です!見ていてきゅんきゅんします!」


「きゅんきゅんか……。よくあるのは壁ドンとか頭撫で撫でとかか?あとはナンパから助けてもらうとかもありがちだよな」


「……!?そうです!そうなんです!ああいうのは本当にきゅんきゅんします!きゅんきゅんしすぎるとですね、胸が苦しくなるんですよ…。こう、ぎゅっと掴まれてる感じですかね」


  これは、私の気持ちを伝えるチャンスです!


「もうあれがたまらないくらいに苦しいんですけど、それが嫌じゃなくて、胸が内からじんわり暖かくなるような幸せな気分になるんです。」


 助けられた時のことを思い出し、感じたことが胸の内から零れていきます。

 甘く切ない感情が心の底から湧き出してきます。はぁ、やっぱり思い出すだけで胸がキュンと熱くなります。


「……。ま、まあ、ああいうのは現実じゃありえないけどな。あんなことする人なんてそうそういないだろ」


「そうですね、ほとんどの人はしてくれないですね……」


 私が困っていても大抵の人は見ないふりをして避けていきました。

 別にそれが悪いとは言いません。誰だって自分に火の粉が降りかかるのは嫌ですから。


 でも、だからこそ助けてくれたことが嬉しかったんです。その助けてくれた先輩の姿がかっこよかったんです。


 恐怖に包まれていた私が先輩に守られてどれだけ安心したことか。どれだけドキドキしたことか。


 私は募る想いを込めて先輩を見続けるのでした。


 それからしばらくして館内に放送が入ります。


『本日11時予定の映画○○○の上映は3番です』


 どうやら開いたようで、先輩に連れられて中へと移動しました。


「…え!?ちょ、ちょっと!?先輩!?」


 目の前に現れたのはプレミアムシート、いわゆるカップルシートというものです。


 先輩がどうしてこれを?もう訳が分かりません。


「どうした?ただのプレミアムシートだぞ?早く座れ」


 困惑して立ち止まると先輩に肩を掴まれ座らされました。そして、先輩も隣に座ってきます。


 近い!近いです!先輩の体温がほんのりと服越しに伝わってきます。カップルシートがこんなに近いなんて思いもしませんでした。


 だんだんドキドキしてきました……。


 それにしてもどうしてカップルシートにしたんでしょう?

 私をドキドキさせる作戦でも立てているんでしょうか……。いや、あの先輩に限ってそれはないですね。


 なぜカップルシートにしたのか先輩に視線を送ります。それに気づいたらしく先輩は答えてくれました。


「こっちの方が見やすいしいいだろ」


「そ、そういうことですか。わざわざありがとうございます。ますます映画が楽しみになってきました」


 なるほど、そういうことなら納得です。先輩なら見やすさ優先するのはありえます。

 隣が近くてどうしても先輩を意識していますが、映画を楽しみましょう!


 こうして映画が始まりました。


「きゃっ!」


 ところどころで現れる驚かせるシーンに思わず悲鳴が出てしまいました。

 映画自体は面白いのですが、それよりも驚いた時に隣の先輩に体が当たり、何度も意識をそっちにもっていかれてしまいます。


 ああ、また当たってしまいました。頑張って意識しないようにしているのに、こんなに近いとどうしても意識してしまいます。


 やっぱり先輩、いい匂いします……。


あまり映画に集中できず、無意識に先輩の方を見ては、慌てて前に戻すことを何回も繰り返していると、先輩が話しかけてきました。


「おい、雨宮、怖いんだろ?こっちに来いよ」


「……っ!?!?ちょっと、先輩!?」


 一瞬、変な声が出てしまいそうになりました。


 急に耳元で囁くのはズルすぎます!今、耳に先輩の吐息がかかりましたよ!?

 耳が弱いのにそんなことを耳元で言われてドキドキしない訳がありません!


 すぐに顔が赤くなるのが自分で分かります。

 急に言われた驚きで先輩の方を向くとさらに声をかけてきました。


「いいから、こっち来い」


「せ、先輩!?顔がちか…。手も…」


 声をかけると同時に先輩が抱き寄せてきました!

 先輩の肩に私の頭がくっつき、先輩の心臓の音さえ聞こえてきそうです!しかもまだ私の肩には先輩の手がかけられたままです!


 これはまずいです、近すぎます!


 さっきまでとは全然違います。もう抱きしめられているような感じになってしまっています。

 匂いもさっきより強く感じるし、先輩の囁く声や体温まではっきりと伝わってきます。心臓の鼓動が激しくなり、いっこうに収まりそうにありません。


 ああ、もう!なんなんですか、今日の先輩は!?いつもより積極的すぎます!


 別に悪いとは言いません。むしろ嬉しいです。でも、この近さは私の心臓に悪すぎます!


 私をキュン死させる気ですか!?既にドキドキしていたのにさらに近寄ってくるなんて……。


 体が熱いです。もう顔どころか首まで赤くなっているに違いありません。こんな至近距離なら先輩から見てもバレバレでしょう。


 こんなに先輩のこと意識しているのがバレるなんて恥ずかしすぎます……。


 先輩のせいで映画どころでなくなってしまった私は、ただただ固まったまま隣の先輩を意識し続けるのでした。

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