第24話 被害11(待ち合わせ)

 どうしましょう、全然寝られません!悩みに悩み、1時間以上かけてやっと服装を決め、いざ寝ようとベッドに入ったはいいもののまったく眠気がやって来ません。


 ああ、どうしても明日のデートのことを考えてしまいます。休日にお出かけするなんて完全にデートじゃないですか。先輩はなんで私のことを誘ってくれたのでしょう?


 しかも明日は私の誕生日です。たまたまかもしれませんが、もしかしたら知ってて誘ってくれたのかもしれません。もしかして祝ってくれるのでしょうか?

 ああ、もう!期待してはいけないと分かってはいても、こんなの無理です!期待しちゃうじゃないですか!ドキドキして眠れそうにありません……。


 先輩は明日の格好可愛いと思ってくれるでしょうか?少し不安です。それに緊張して変なこと口に出さないか心配です。期待と不安で胸いっぱいになりながら夜が明けていくのでした。


 次の日、朝早く起きてしまいました。ですが眠気はなく、むしろこの後のことで緊張しています。

 結局すぐ準備を終えた私は、早めに集合場所に向かうことにしました。


 30分前ですか。少し早く着いてしまいました。集合時間の30分も前に着いてしまった私は近くのベンチに腰を下ろしました。

 今日はほんとうに楽しみです!休日に先輩と一緒に居られるなんて夢みたいです。


 ですが昼休み話しているだけでドキドキしているのに、2人で出かけたら私、どうなってしまうのでしょう。もう今でさえ心臓がうるさいです。私の心臓がもつか心配です。色々なことを考えていると、声をかけられました。


「なぁ、お姉さん、俺たちと遊ばない?」


 顔を上げると、そこには髪を染めピアスをつけた見るからにチャラそうな男2人がいました。


「すいません、この後待ち合わせがあるので」


 はあ、最悪です。せっかくの先輩とのデートなのにナンパに絡まれるなんて。浮かれていた気持ちがどんどん冷えていきます。


「えー、いいじゃん、俺たちと遊ぼうよ」


 断ったのにしつこく声をかけてきます。こういうのは無視です。無視し続けているのにまだ話しかけてきます。


「なぁ!聞こえてるんだろ!?」


「っ!?」


 無視し続けていると痺れを切らしたのか、ガッと私の肩を掴んできました。痛い!肩が痛いです!


「やめてください!」


 慌てて肩を動かして男たちの手を肩から外します。まさか、こんな荒々しい手段を取ってくるなんて。

 これまでは無視していれば、勝手に諦めてどこかに行ってくれました。ですが今回はいつもと違います。いつまでも残り続けて声を掛けてきます。しかも私の身体を触ろうとしてくるのです。


 こんな経験は初めてです。気持ち悪い。触らないでほしいです。


「やめてください。触らないで下さい!」


 抵抗しても大きな力で触ろうとしてきます。怖い、怖いです!いやです、近づかないで!

 だんだんと男2人の声に苛立ちが混じり始め、強引に言い寄ってくるようになりました。


 私はそんな2人の雰囲気が怖くてだんだんと言葉が小さくなってしまいました恐怖のせいで目に涙が溜まり始めます。


 もういやです。誰か助けてください。先輩……!!あまりの怖さに涙がこぼれ落ちそうになった時でした。


「よう、雨宮」


 後ろから私の名前を呼ばれ、私を隠すように男2人と私の間に入る人影がありました。


「せ、先輩!」


 私の前に立つその後ろ姿は先輩です。よかった。来てくれました先輩が来てくれたことで恐怖は薄まり、安堵に包まれます。


「おい、てめえ、なんだよ、勝手に途中から割り込んできやがって。俺たちが話してたんだ。どいてろよ」


「悪いな。今日はこいつは俺と遊ぶ予定だから、別な日にしてくれ」


 先輩が私を庇いながら2人を抑えようとしてくれます。私を守ろうとしてくれているその姿はとてもカッコよく、不覚にもときめいてしまいました。


 でも、大丈夫でしょうか?先輩が暴力に巻き込まれないか不安です。


「ふざけんな。そんなこと言われて、大人しく引き下がれるかよ!」


 ですが、先輩の言うことを聞くはずがなく、先輩に掴みかかります!


 危ない!そう思った瞬間、先輩はその手をさっと体を捻って躱し、逆に相手の男の襟を掴み返しました。そして顔を近づけて睨みつけて言いました。


「いいから、譲れよ」


 その声は普段より低く、先輩が本気で言っている声でした。その声に男が怯んだ瞬間、先輩はパッと動きだし、私の手を繋ぎました。


 え?え!?


 状況を理解できないまま先輩に連れられて、私は男2人から離れることが出来たのです。しばらくするとだんだん自分の状況を理解し始めました。


 い、今先輩と手を繋いでいます!ど、どうしましょう!こんな状況になるなんて思ってもいませんでした。まさか先輩と手を繋ぐなんて!まだ実感が湧きません。

 ですが確かに私の手のひらから先輩の体温が伝わってきます。先輩と手を繋いでいるなんて最高すぎます!もうとても嬉しいです…….。手繋ぎは本当にドキドキします……。


 先輩に連れられて歩きながら、自分の心臓の音のうるささを実感します。これはきっと手を繋いでいることだけが原因ではありません。助けに来てくれた時のあの安心感と先輩のかっこよさも原因です。


 先輩が目の前に現れてどれほど安心したことか。先輩には本当に感謝しか出来ません。あんなに怖いと思ったのは初めてです。そのタイミングで先輩に助けてもらってものすごくホッとした感覚がまだ残っています。

 それにあの後ろ姿は本当にかっこよかったです。私を庇ってくれたあの姿に惚れないはずがありません。


 私の中で好きな気持ちがどんどん大きくなっていきます。それに比例して心臓はうるさく鳴り響き、私の顔を赤くしていきます。そんな顔を先輩に見せるわけにはいかず、ただ私は俯き続け、連れられるままに歩き続けました。


 そしてしばらく歩くと先輩が立ち止まり、手を離しました。


「雨宮?」


「……」


 先輩が黙ったままの私に声をかけてきます。でも、私は口を開くわけにはいきません。今話しだしたら、好きって言ってしまいそうです。


 ほんとうに先輩は優しすぎます。なんで大して好きでもない人を守るなんてことをするんですか?そんなことされたら好きになるに決まっています。もうすでに好きなのにもっと好きになってしまいます。


 これ以上好きになっても叶うわけがなくただ辛くなっていくだけなのに。ただ純粋に助けてくれたのは分かっています。それでも助けてもらった側は期待してしまうんです。それなのに先輩は…!


 行き場のない想いをぶつけるように先輩をポカポカと殴ります。ほんの少しの反抗です。このぐらいやらせてもらわないと耐えきれません。


「お、おい、雨宮?」


「………もう!もう!もう!もう!なんなんですか、先輩は!?なんで先輩はあのタイミングで現れるんですか!?いつもいつもいつもいつも……。」


 絶対狙っていますよね!?あんなタイミングで助けられて惚れないはずがありません!いつもそうです!先輩は私が困った時に助けてくれます。


 嫌ってるくせに!それなのになんで優しくするんですか!?期待しちゃいけない人なのになんで期待させることをするんですか!?


「先輩はズルい人です!ズルすぎます!卑怯です!あんなの反則じゃないですか!目の前であんなことされたら……!」


 ほんとうに先輩はひどい人です。私のことをどれだけ惚れさせれば気がすむのですか?先輩と会うたび好きがどんどん深くなっていきます。好きって言いたい!好きって伝えたいです!


 でも出来ません。そんな勇気はなく、この関係を終わらせる覚悟もありません。だから私は少しでも好きな気持ちを抑えるため、文句を言うしかないんです。


「…先輩は……本当に意地悪です…」

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