第4話 被害1(お手伝い)
「じゃあ雨宮、そのプリント、職員室に持ってきてくれ」
「はい、わかりました」
はぁ、最悪です。まさかプリント運びを任されてしまうなんて。せっかく昼休み先輩と話せて幸せだったのに。昼休みに運を使ってしまったから荷物運びになってしまったんでしょうか。
まあでもそれで先輩と話せるならいくらでも運を使いましょう。むしろもっと運を使うから話させて欲しいです!
ああ、それにしても昼休みは本当に最高のひと時でした。今でも鮮明に記憶に残っています。あの落ち着いた低い声。鋭い視線でこちらを射抜く顔。不機嫌そうに額にシワを寄せているのに、どこか柔らかい雰囲気。
きっと先輩は本当は優しい人なのでしょう。いくら遠ざけようと酷いことをしても滲み出てしまうものです。
さて、先輩のことを考え始めるといつまでも考えてしまうのでこの辺にしておいて、プリントを運ぶとしましょう。
教卓の上に積まれた大量のプリントを抱えるようにして持ち上げます。
(よいしょっ!うっ……結構重いです……)
気合いを入れて持ち上げてはみたものの、中々重く足元がふらついてしまいます。
(はぁ、職員室まで結構距離あるのに……誰か手伝ってくれたら……)
なんとか頑張って歩いていると後ろから声をかけられました。
「おい、雨宮」
「え!?先輩!?なんでここに!?来るなら先に言ってくださいよ。もう少し髪とか整えたのに……」
まさか、先輩から声をかけられるなんて!信じられません!髪は大丈夫でしょうか!?先輩から来てくれるなんて想定外で気を抜いていました。
いつもはちゃんと整えてから先輩の教室へ行くので、髪がボサついていないか不安です……。せっかく先輩から会いに来てくれたのですから出来るだけ可愛い私を見て欲しいです。
「たまたま一年生フロアに用があってな。それよりそのプリント重そうだな。俺が持ってやるよ」
「え!?あの……」
もう訳がわかりません!確かにプリントが重くて誰かに手伝って欲しいとは思っていましたが、まさか先輩に助けてもらえるなんて!
「どこに持っていけばいいんだ?」
「えっと……。職員室です」
「オッケー、じゃあ行くぞ」
急に優しくするなんてずるいです。今まであんなに冷たかったのに。胸がキュンとしてしまいました。ほんとうに好きになると胸キュンってするんですね。まだドキドキしています…。
それに顔が赤いのが自分でもわかります。頰が熱いです。先輩は……。よかった、先に歩いてくれているみたいなのでバレてないです。
(それにしても用事ってなんだったんでしょうか?もしかして私に会いに来てくれたり…?)
いや、それはないですね。希望を持ったからってあとで落ち込むのは自分です。あの先輩に限ってそんなことがあるわけないですね。そんなことよりも今先輩と一緒に歩いていることを楽しみましょう。もう二度と来ない機会でしょうし。
「なに、ニヤついてんだよ」
「え!?なんでも…ないです…」
え!?どうやら勝手に口元が緩んでいたみたいです。先輩に見られてしまいました。恥ずかしいです。
「そうかよ」
ああ、先輩の横顔カッコいいです。いつまでも見ていたいです。本当に幸せすぎて死んでしまいそうです。
こうして私は先輩にプリント運びを手伝ってもらったのです。
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