第4話 炎の中から凍れる巨人は立ち上がり
「巳虎!巳虎!」
絶叫しながら雪虎は校舎に駆け込んだ。校内は叫び声が響いて自分の声も聞こえない。廊下で逃げてきた女生徒たちとぶつかりそうになる。
「巳虎は?!」
答えはない。逃げてくる女生徒たちは顔面蒼白だ。彼は問うのを諦めて外に出た。割れた窓から入り込む。
がしゃりとガラスを踏んで教室を駆け抜けた。
「巳虎ぁぁ!」
がらんどうになった教室には誰もいない。逃げたらしい。背中には炎の熱が感じられた。隣から延焼してきたようだ。
崩れたらしい本棚の下に足が見えた。雪虎は本棚を持ち上げる。巳虎だった。
「大丈夫か?!よかっ……」
「早く逃げて兄さん!」
妹は叫んだ。「わたしはもうダメだから。足が折れてるの、逃げられそうにない!」
「バカいうな!俺が背負ってやるから」
持ち上げた本棚を蹴って放り出した。上に散らばった本を払い避けて巳虎を引きずり出す。逃げて、逃げてという妹を無視して彼は小さな体を抱え上げた。
まっしぐらに逃げ出す。しかし、炎はすぐそこまでに迫っていた。柱が崩れ、窓から炎が吹き出してくる。たった1部屋を通り過ぎることさえ無理に思えた。
(死ぬのか)
雪虎は唇をかみしめた。また死ぬのか。あんな風に、檻に閉じ込められて。
「お断りだ!!」
彼は息を吸い込んだ。妹を肩に担ぎ直す。「俺は、絶対に、もう死なない!」
そのまま彼は炎の中へ一気につっこんだ。壊れていく壁を蹴破る。外に出ても、さらに炎が上がるばかりだった。無我夢中で丘を駆け上がる。痛みと熱さに耐えながら土に転がって火を消した。
丘から見下ろす村は火の海だった。黒い帆船、彼の知識では空に浮かぶはずもない巨大な帆船から炎が放たれていた。妹が袖をつかんでくるのがわかった。
「兄さん……!」
(我を呼べ)
不意に、脳内に声が響いた。
(我を呼べ。偉大なる創造者の愛し子よ。
我が名はゲルタルダー。我は汝の守護者なり)
「……」
雪虎は押し黙った。それはケージの中で暗記するほどプレイしたゲームのセリフだ。
氷雪大神ゲルタルダー。
凍てつく時の果てから来たりし救世主。ゲージの中で唯一彼のものであると言えた幻想。
「だ……」
こんなことは現実にありえない。しかし、何千何回、何億回とゲージの中で、殴打や屈辱に耐え続けることができた存在を、雪野晶虎は裏切れなかった
「ゲルタルダー!」
光が体を包み込んだ。
燃え盛る村に、突如白き巨人が降臨した。その右瞳には書かれた注意事項を、見るものはいなかった。
『この玩具の対象年齢は13歳以上18歳以下です』
白い巨人、ゲルタルダーは雄叫びを上げた。彼の目から放たれた氷の光線は炎を一瞬で凍りつかせる。そして、ゲルタルダーは黒の帆船を拳の一振りで撃墜した。
注意書きには続きがある。
『この玩具の対象年齢は13歳以上18歳以下です。
周りに注意し、危険が無いようお使い下さい』
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