第3種免許 走れ、国産

「どっこいせっと。娘よ。こちらにサインを」


「は、はい。」


まなみは、老人から渡されたやっすいコピー紙に

サラサラとサインをした。


販売証明書

【早乙女 愛三】

型式 CZ41A……


「ほう。 アイゾウ か。いい名だ。まさにこの単車にふさわしい」


「まなみですよぉ……」


勝手に忍者みたいな名前に改名されて、すこしふくれっ面のまなみであった。


彼は筋肉隆々の上半身をフルに使い、ジャンクヤードの隅から

白くて小さな自転車?みたいなやつを担いで運んできた。


「ふえっ、これが原付なんですか?」


「あたしのバーディーと比べるとかなり小さいな……小柄なまなみには

ちょうどいいかも……」


あまりのバイクの小ささに驚くふたりに、にやけながら老人は

説明をはじめる。


「フッ、こやつの名はスズキ・チョイノリ。最高馬力2.0PS。

乾燥重量39kg。あらゆるゼロハン(原付一種のこと)の中でも最強の軽さ」


「おー。わたしみたいに小さくても押して歩けますね!」


「最高速度はノーマルでだいたい40キロ弱。キミにはまあ、十分だろう。

ただし……」


「ただし?」


「エンジンが掛からん!! アイゾウ、見事このチョイノリを直してみろ」


「えええーーーー無理ですよぉ……わたし機械とか全然だめで」


「フッ、大丈夫だ。ワシがある程度教えよう。それに……」


老人は、チョイノリという原付の足を置く場所(ステップという)の

ボルトをものすごいスピードで外していく。


「チョイノリはスズキの最高傑作だ! ステップを外すだけで

ほぼ全ての基本整備が可能! 乗れるプラモデルとも言われている。

女性でも、なんならそのへんの猫でも分解可能だっ!!」


「しかも部品は全て国産で強度もかなりある。

キャッチコピーは"走れ、国産、59800円"……」


筋肉質な腕を組みながら話す老人の勢いに、まなみは完全に

飲まれてしまっていた。

目をキラキラと輝かせている。


「す、すごいっ!!」


「(まなみ完全に乗せられてる……さすがに猫は無理だろ……)」


「アイゾウ! まずはキャブレターの清掃からだ。外し方を

教えるから見ていなさい」


「は、はい!」


老人は、外した箇所付近のなにやらメカメカしい部品を

レンチであっという間にはずしてしまった。


「この曲がりネギみたいなパイプが"インテークマニホールド"」


「そして、パイプが接続されているこの部品が"キャブレター"だ」


キャブレターと呼ばれる部品の下のほうにドライバーをあて、

ネジを回す老人。

出ているホース?から液体が流れ出した。


「キャブを分解する時には、このプラスねじ"ドレンスクリュ"を

回すと、中のガソリンを排出することができる……そうしないと

いきなり溢れ出してしまって危険だぜ」


「おおー……」


彼は分解したインテークマニホールドとキャブレターを、

まなみに手渡した。


「アイゾウ、これのここにあるプラスネジを4つ外して……。

そして、そこにある灯油にぶっこんどいてくれ」


「はい! 灯油できれいになるんですか?」


「うむ。専用のクリーナーを使ったほうがよいのだが……。

ここに一日つけておけば腐ったガソリンは溶け出す。

その後少し掃除すれば、とりあえずエンジンは掛かるようになるはずだ」


ボチャン


まなみの手のひら2つ分ほどの小さな部品は、バケツいっぱいに張られた

灯油の中に沈んでいった。




続く

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