第2種免許 老人とジャンクヤード!

「はい、合格見込みね」


ハイパー低音ボイスの青年は、彼女に向かって微笑しながら

言った。

まなみが原付免許に落ち続けている間……祖父が昔乗っていたという

4サイクルバーディー80 という小型の二輪車を敷地の農道で

乗り回し、受験3回目にして小型二輪AT限定免許を取得したのだ。


「やっっっった……!!」


この免許は、試験にはスクーター(だいたいアドレスV125という小さいやつ)を

使う。クラッチ操作とギア操作……という初心者が躓きがちなものが無く、

比較的容易に試験場で取得可能なのだ。


普通免許……自動車免許と同じ内容の筆記試験もある。

そちらは二回目で既に合格済だったので、あとは実技だけだった。


なお、教習所で取得する方法と違い、試験場による取得は

警察官が採点しているため……鬼のように難しい。

三回で合格したのは、小鳥の運転センスと体幹の良さによるものだろう。


「うぐぅ……ま゛た落ちま゛しだ……」


一方その頃、簡単な筆記のみにも関わらず……まなみは4回目の試験に

落ちていた……。

もしかしたら凄く頭が悪いのかもしれない。


毎回思いっきり大泣きする彼女だったが、小鳥は可愛らしい顔が

ぐしゃぐしゃになるのが、それはそれでアリだなとか思ってしまっていた。


「ま、まあそう落ち込むなって」


「小鳥ちゃんは小型二輪免許とったんですよね……すごいです。

下級戦士は努力してもエリートには勝てないんでしょうか……」


小鳥は、この世の終わりみたいな表情をしているまなみの頭を

ぐしゃっと撫でながら


「よし、あたしが試験の勉強みてやるよ」


「ありがとう!」



5回目の受験にして、まなみは原付免許を取得した。

どうやら勉強の仕方が思いっきり悪かったようだ。


取得者講習のとき、古い2stスクーターだったらしく

いきなりアクセルを開けすぎてウイリーして転倒。

また大泣きしたらしい……。



二人は、まなみの愛車をさっそくみつけるため

近所のバイク屋さんに来ていた。


「これで買えるカブありませんか!?」


一万円札をドヤ顔で握りしめながら、まなみは言った。


その様子を少し遠くから眺めていたバイク屋の親父は、

少し呆れたような……苦笑いを浮かべて


「お嬢ちゃん、1万だとカブのフレームくらいしか

買えないよ(笑)」


「ちなみに、ちゃんと動く中古車だとこんなもんだね」


親父はまなみに少し近づきながら、店の隅においてあるスーパーカブの

値札を取って見せてくれた。


【乗り出し価格 15万 エンジン絶好調! 整備付】


「た、高いです!」


「これでも安いほうなんだよ。うちだと1万で実働の

原付は無いね……」


「そうですか……ありがとうございました」


1万円で原付など、買えるはずもない。


余談だが……筆者は7550円でスズキ・チョイノリを購入したことがあった。

フレームに曲がり、マフラーとエアクリーナー欠品、バルブクリアランスも

開いてしまっていて大掛かりなレストアが必要だった。


一万円でカブが買えるのはファンタジーの世界で、現実では不動で

外装ボロボロの蘭や薔薇とか、半分土に埋まっていたモレあたりが買えれば御の字である。


「はぁー……せっかく免許とれたのに、高いんですね原付きって」


「まあなぁ。このじいちゃんのバーディー80だって新車で20万超えてた

らしいし」


「いいなぁ小鳥ちゃんは。どこかに激安で原付売ってくれるお店ないでしょうか……」


二人はバイク屋さんからの帰り道をとぼとぼ歩いていた。

夕焼け空にはいつもより哀愁が漂っている。


「キミたち」


いきなり二人の前に、上半身裸にフルフェイスをつけた

いかにも不審者な男が仁王立ちした。


「ひゃあああ!! な、なんですか貴方は!?」


「さ、最近よく出るっていう不審者はお前か!?

あたしがこいつを引き止めるから、まなみは逃げろ!!」


青ざめながらも手を広げてまなみを守る小鳥であったが……。


「落ち着きたまえ。キミたちに"S"の素質があると見抜いただけだぜ。

そこのちっこい娘。ついて来い。1万で原付を売ってやるぜ」


「えっ、ほ、ほんとですか……」


まなみが怯えながら言うと、半裸男はフルフェイスを取り払い

白髪を振り乱しながら、額の"S"という刻印を指差した。


「額のSマークに誓って本当だ。全ての単車乗りはコレダ神の元において

平等……娘よ。キミの相棒はもはや決まっている」


「怪しいからあたしもついていくよ」


二人は白髪老人の軽トラに乗り込み、鬼怒川温泉方面へと

走っていく。そして少し山道に入ったところに、

大量のバイクが山のように野ざらしにしてある場所へと到着した。


「ふぇぇえええ、バイクがいっぱいです……!!」


「すごい。あたしもこれだけのバイクをみるのは初めてだ」


老人は腕を組みながら、今日一番のドヤ顔で言った。


「我がジャンクヤードへようこそ……」




続く

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る